第96話 ドワーフの冒険 ?
ボコポの話では俺が旅立った日に地震があり、悪魔のダンジョンの変遷が発生したらしい。
その後は悪魔のダンジョンをキュルケ神殿とウェイガン神殿の主導の下、悪魔のダンジョンに対して警戒をしていたそうだ。
そんな中でもセドリックは俺の屋敷の改修工事に従事し、工事も順調だったらしい。
門から屋敷の入り口までを剪定しつつ片付け、屋敷の基礎と地下から取りかかっていたんだが、予想外の出来事が起こる。
詳しく屋敷の造形を調べて行くと各所にデッドスペースが存在し、どうにも隠し通路があるような構造にセドリックが気付きその入り口を探した。
そうして暫らく探すと程なくして入口を見付けた。
セドリックは数人を連れて隠し通路を探索した。
隠し通路は1階、2階、3階と隠し通路は幾つかの部屋と繋がっていたり、応接間や使用人の休憩室だろう部屋等を覗ける覗き穴があったりと元々の持ち主の用心深さが窺える作りであったが、そこから更に地下へと向かう通路へも繋がっていた。
地下通路への入り口の前に立ったセドリックは嫌な汗が背中を流れるのを自覚したが独立後、初の大仕事。
不備があってはセドリックのプライドが許さない。それに独立を認めてくれたヤコボ親方に合わせる顔がない。
そう決意しランタンに火を灯して地下へと足を向ける。
地下通路に足を入れ、中の空気を吸うとかび臭い何とも言えない饐えた匂いがする。
これは数年、いや、十年以上は誰も足を踏み入れていないだろう。
最初は緩いスロープのような下り坂を進んでいく。
通路の各所に罠があるかもしれないとセドリックは慎重に歩を進める。
そうしてどれくらい時間が経っただろう。
疲れを感じ休憩を入れようと手に持ったランタンを腰に括り付け直して座り込んだ瞬間であった。
後ろから何かが崩れる音がした。
セドリックは慌てて振り返ると、隠し通路に顔を覗かせる怒りを湛えた牛の顔があった。
「牛?」
最初何故そんなものが突然現れたのかと疑問を感じたが、一拍遅れて全身に怖気が駆け巡る。
セドリックは本能的な恐怖を感じて逃げ出そうとするが退路はいかれる牛面の後方。
逡巡は一瞬。セドリックは一心不乱に隠し通路の先へと走り出す。
この時、既に罠があるかもなんて考えは吹き飛んでいた。
逃げるセドリックに気付いた牛面は「ヴモォォォォ!」と言う雄叫びと共にセドリックを追い掛ける。
そうして暗闇の中での命懸けの追いかけっこを続け、最後の上り坂を這う這うの体でのようやくセドリックは端に辿り着く。
そして階段の先の天井に観音開きの扉を見付けると必死でこじ開けようとするが中々開かない。
焦りで手が震える中、牛面の咆哮が後ろから追いかけて来る。
セドリックは更に焦り2度、3度と体当たりを繰り返し、遮二無二扉を開けようと必死に体当たりを繰り返すと、何度か目の体当たりで何かが壊れる音がした。
恐らく鍵が壊れたのだろう。セドリックが扉を必死に押すとかなり重いがなんとか扉が開く。
これで逃げられる。
そう思い一瞬気を抜いた瞬間。足を何かに捕まれ引っ張られる。
「うひぃっ?!」
奇妙な悲鳴を上げ宙に吊られたセドリックは逆さに写る牛面を見て息が止まりそうになった。
そして錯乱するように暴れるが牛面は足を離してはくれない。
それどころか必死の抵抗を見て厭らしい笑みを浮かべる。
その笑みを見てセドリックは牛面の嗜虐性に慄き何かないか?と必死に抵抗しながら腰に吊り下げたランタンを思い出す。
セドリックは背嚢に入れておいたランタンの油が入った皮袋を必死に牛面に振りかけると、牛面も嫌そうにセドリックを振り回す。
「ぬおぉ!?」
振り回されながらもセドリックを離さない牛面に向けて腰のランタンを叩き付けるとランタンが割れ、中の火が飛び散り牛面の顔の油に燃え移る。
思いもよらぬ反撃に牛面も慌ててセドリックを放り投げると顔の火を消そうと必死に転げまわる。
一方、放り投げられたセドリックも壁に強かに打ちつけられるが痛みを感じる前に必死に扉を抉じ開けて隠し通路を抜けると扉を塞ぎ、近くにあるもので扉の上に重石を乗せた。
それでも安心できないセドリックは建物の外に出ると驚いた。
自分が出てきた建物は祠で、すぐ傍にはウェイガン神殿があったからだ。
「・・・と言う事で何とか一命を取り留めたセドリックはウェイガン神殿に助けを求め、隠し通路の出口側を塞ぐことには成功したんだが、お前さんの屋敷側の通路を塞ぐ前に牛面、ミノタウロス達の団体が溢れ出て来ちまったんだ」
セドリックが隠し通路に入ってから入口を他のドワーフが1人見張っていたんだが、ミノタウロスが現れた為、他のドワーフに逃げるよう大声を上げて避難したそうだ。
不幸中の幸いだったのは作業中のドワーフに怪我人は居たが死人が居なかった事だろう。
全員が屋敷の外に出ると屋敷の入り口を封鎖してキュルケ神殿に救援要請をしてその後周辺一帯を封鎖し、今に至る。
と言う事らしい。
・・・頭が痛い。
隠し通路ってなんだよ!
そんなの買う前に言えよ!!
そう言った葛藤を押し隠し、セドリックや作業をしていたドワーフ達の状態を確認する。
「それでセドリックさん達は無事なんですか?」
「あぁ、セドリックは右足に罅が入ってて右腕と肋骨が何本か折れてるが命に別状はねぇ。他の奴等はかすり傷程度だ」
思いの外セドリックの容体が悪いように感じるが、牛め、ミノタウロスに振り回されたのが効いている様だ。
「セドリックさんの所に連れて行ってもらえます?」
「あぁ、構わねぇぜ。だが、セドリックにゃ回復魔法を掛けて貰うだけの金が無ぇが良いのか?」
「別に金なんか要りませんよ。家の改装お願いしている相手が想定外の怪我をしたんですから怪我くらい無料で治しますよ。それに酒場じゃいつも掛けてますよ?」
「むぅ・・・そうだったのか。そりゃちと不味いぜ」
「何が不味いんです?」
ボコポが言うには回復魔法と言うのはこの国(ゴルディ王国)では神殿等の宗教関係がほぼ独占している状態で無料での診療行為を禁じているそうだ。
例外は修行中の僧侶や冒険者となっている者達だが、こちらもお布施の対価やパーティメンバーへの支援などに限られ、それ以外に対しては対価を受け取る義務がある。
との事らしい。
サスティリアではあまり感じなかったが、あそこは宗教国家なので逆にその辺が緩いとの事だった。
まぁ、国家との太いパイプがあるって事で他にも収入を得る手段が十分あるから余裕があるんだろう。
回復魔法の所為でサスティリアは薬師が殆んどいないらしいしな・・・
まぁ、そんな事らしいが俺は神殿関係者でもないしこの国の冒険者ギルドにはまだ挨拶すらしていない。
いわば野良ヒーラー的存在だ。
そんな既得権益なんて知ったこっちゃない。と、思ったが、それだとボコポ達の立つ瀬がないか・・・
「それなら別の回復方法で治しますよ」
「別のだと?」
「気功って知ってます?」
「気功ってぇと、格闘家とかが使う奴か?」
「その技の中に『活法』と言うのがあって、それで治しますよ。それなら回復魔法じゃないから問題ないでしょう?」
そう言うとボコポは呆れ顔で返事を返す。
「お前ぇ、何でもありだな・・・」
と言う事でセドリックの家に向かい彼を治療した。
そして俺は今自宅へ向かっている。
セドリックを治療した後、俺はボコポに自宅へ行ける様に出来ないかと相談したところ『ラクなら全部駆除できるかもしれねぇから口利いてやるよ』と言ってついて来てくれることになった。
その流れで前回止められた通行止めの場所でもボコポが衛兵に話を通してその先へと進むことが出来た。
そうして自宅前まで来ると、今度は自宅の正門前にバリケードを築いている一団と接触することになった。