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第89話 バカはバカだが・・・(裏話?)

感想返し出来ず申し訳ありません。

見てはいるんです。

見てはいるんですが、感想を返すよりその分更新できるように努力しようかと思いまして・・・

もう少し余裕ができたら感想返しますんで、それまで気長に待ってていただけないでしょうか。

 楽太郎が山の女将亭から出て宿屋に帰った後。


 トッチーノが目を覚ますと2、3度頭を振り辺りを見回す。

 そして数組の客が退席していることに気付いた。


 すぐ傍ではリディアーヌとルインが心配そうに見つめていたがそれを無視するようにトッチーノはルインに時間を聞く。


「ルイン。私が気を失ってからどれ位時間が経ったんだ?」


 心配そうに見つめていたルインは一拍遅れて答える。


「え?あ、はい。5分くらいでしょうか?」


「そうか・・・」


 やれやれ、これで1つ目の山は越えたな。等と考えているとリディアーヌに咎められる。


「トッチーノ様。今回の件、楽太郎さんに対して酷すぎませんか?

 任せろと仰られるのでお任せしたのに!」


「うん?あぁ、すまない。

 確かに彼との関係は一層悪化してしまったが仕方が無かったんだよ。

 こうでもしないと強硬派が彼に襲撃を掛け兼ねなかったからね。

 でも、本当に確かめに来て良かった。

 強硬派が彼を襲撃していたら我々の同胞の血がどれだけ流された事か・・・」


「え?!どういう事です?」


リディアーヌとルインが驚きの声を上げるがトッチーノは辺りを見回すと制止する。


「ここでは耳目が多すぎる。一旦神殿に戻って私の執務室で話をしよう。

 女将さん。お代はここに置いておきますね」


 そう言って懐から迷惑料を上乗せした代金を払う。


「はいよ。まいどあり~」


 と女将は元気良く返事をする。

 店の中で人が倒れたにしては普段通り過ぎる女将の対応に、こう言った厄介事が日常的に起こっている事を察し、トッチーノは市井の人々の生活も大変なものだと改めて感じ取る。


 店に対しての多少の罪悪感を感じつつトッチーノは立ち上がり体の調子を確かめるように肩を回しながら店を出る。










 店を出た後は3人共無言で歩き続ける。


 周りでは屋台から食欲をそそられる良い匂いがしてきたり、通りを行き交う人々の熱気が溢れておりウェルズの街の息遣いを感じられる。

 そして神殿に近付くにつれ金属を叩く甲高い音が幾つも聞こえてくる。


 この街のキュルケ教の神殿はウェイガン教の神殿の隣に建てられている。

 これはそれぞれの主神が夫婦(めおと)神である事に由来され、地上でも夫婦寄り添えるようにとの信者らの計らいで建てられたものだ。


 そしてここでは1つ、してはいけない禁忌の問答がある。

 それは「キュルケ神とウェイガン神のどちらが神としてより優れているのか?」と言う質問だ。


 この問答は大昔それぞれの聖職者の間で熱い議論が為され、宗教戦争寸前までになった事があるからだ。

 そこまで険悪になったにも係わらず、どうやって2つの宗教が仲違いすることなく肩を並べるようになったのかと言うと、キュルケ神とウェイガン神の2柱より「我らは夫婦神、故にお互いを支え合っている。権能の違いはあれど我等に優劣はない。よって汝等が相争う理由は無い。無駄な争いは止め、互いを支え合うべし」と言う神託が下されたからだ。


 この神託が下った後、お互いの聖職者は己を恥じ、互いに謝罪をして支え合うようになったと言われている。

 これは人々がそれぞれ違う容姿や能力を持っていても互いを支え合う事で共に歩んで行ける。と言う事を示唆しているとも取れ、説法でもよく取り入れられている。


 トッチーノはこの2つの神殿が並び立つ姿を見る(たび)にこの逸話を良く思い出し、己が説法する時もよく引用していた。

 そんな事を思い出しながら神殿の門を潜り、信者や他の聖職者と軽い挨拶を交わしながら自分の執務室へと向かう。


 そして自身の執務室の扉を開けるとリディアーヌとルインを手招きして部屋へと入る。


「まずは掛け給え」


 そう言ってソファへ座るよう促し、自身も対面の席に着く。


「さて、何から話そうか・・・」


「まずは楽太郎さんにあんな態度を取った理由を教えてください」


「ふむ、そうなると少々長くなるが構わないかね?」


「えぇ!」


「ルインもいいかね?」


「は、はい!」


「では話すとしよう。

 まず、事の起こりはリディアーヌ君・・様の方がいいかね?」


「様付けは止めてください。私は未熟者ですから」


「ふむ、了解した。

 えー、事の起こりなんだが、ラクタロー君に話したようにリディアーヌ君。君が朝帰りした事が原因なんだ」


「それは先程聞きましたけど?」


「実は隠していた部分がある」


「隠していた部分?」


「あぁ、君が神託を受けたと言うのが狂言ではないかと言っている者が現れたと言ったが、実は本気でそう思っている奴はいないんだ」


「え?」


「正確には冗談で言った程度のものだよ。君は既に『聖人』の称号を得ている事は確認されているからね。

 その一事をもって君が神託に関して嘘を言っていない事は明白なんだよ」


「どういう事です?」


「これは聖職者でもかなり上位の者しか知らない事なんだが、受けた神託の内容を伝える際、『聖人』は嘘を吐けないんだよ」


「そんな?!」


 驚くリディアーヌにトッチーノが言う。


「既に下りた神託だが、君が最初に受けた神託内容に嘘を混ぜて説明してみてくれ」


「私が最初に受けた神託ですね。わかりました。

 『私は山の女神・・・?!』○×△□・・・」


 その後何度もリディアーヌは嘘を吐こうとするが、吐こうとすると声が出なくなる。

 その事に驚き慌てるがトッチーノが落ち着かせると声も戻って来た。


「わかったかね?」


「はい・・・でも、それなら私が受けた神託が狂言なんて言っている人達がいるって楽太郎さんに嘘を吐いたのはなぜです?」


「嘘ではないよ。冗談でもそう言った人物が居たのは事実だからね。その事を伝えただけだよ。まぁ、ミスリードはしたかもしれないがね」


 戯けた口調でトッチーノは自嘲気味に笑う。


 ここからが本題だ。

 非難の目を向けてくるリディアーヌに対し、ルインは大人しく続きを待っている。


「さて、ラクタロー君に隠していた内容なんだが、我々の中にも『君がラクタロー君に無理矢理襲われたんじゃないか?』と言う意見がそれなりに出ていたんだ」


「それは聞きましたよ」


「まぁ、待ちなさい。これに関しては君にも問題があったんだ。我々の質問について君は顔を真っ赤にして否定していたがその後もじもじと挙動不審な行動を取っていたね?」


 トッチーノの言葉にリディアーヌは顔を真っ赤にして反論する。


「そ、それは・・・あんな大勢の前で『夜伽をしたのか?』とか『犯されたのか?』なんて言葉を出されれば誰だって動揺しますよ!」


「ふむ、確かにそうかもしれないが、君の齢からするとそう言う事があってもおかしくないだろう?」


「・・・確かにそうですけど。でも!そう言うのはまだ・・・」


 顔を赤くして言い淀むリディアーヌに少し呆れた声でトッチーノが続きを話す。


「まぁ、そんな態度であったことが悪い方に向いてしまってね。

 前日に運ばれたルインとの決闘の条件に『性奴隷』とあったのも相俟ってその夜一緒に居たであろうラクタロー君に報復を!と言う声が上がったのだよ」


「「そんな?!」」


「私としてはルインから言いだした条件なので『性奴隷』については加味するべきではないと言ったんだが・・・」


「問題はそこじゃないですよね?! 報復行動の方ですよね?」


「まぁ、そう言った訳でモニカ率いる強硬派がラクタロー君への報復行動。所謂(いわゆる)闇討ちを画策していたので止めようとしたんだが、彼女達も頑固でね。一旦私が話を付ける事で何とか合意を得たんだよ」


「それならもっと上手く立ち回って頂ければ良かったのに!」


「いや、私とラクタロー君が話し合って納得しても彼女達は止められないよ」


「どうしてですか?」


「モニカの中では既に君が犯された事になっているんだよ」


「なんでですか!」


「それだけ彼女は信心深く思い込みが激しいのだろうね。ようやく神託の巫女が現れたと言うのにどこの馬の骨かもわからない男に穢されたと怒り心頭でね。相手を殺しかねない勢いがあったよ」


「そんな・・・モニカ様が人殺しになってしまったら・・・」


「困るよね? 神殿のトップが白昼堂々殺人なんて洒落にならんよ」


 そう言うとトッチーノは肩を竦め嘆息する。

 それを見てリディアーヌはトッチーノの苦労を垣間見た気がした。


「まぁ、神殿のトップがそんな下世話な問題で動くのは世間体も悪いし、相手はルインを手玉に取る程の手練れだ。万が一があっては困るからね。それにモニカの怒りを治めるにはどうやっても話だけじゃ済まないからお説教か、実力行使で痛い目を見て貰おうと思ったんだが、相手が悪かったよ」


「「・・・」」


「決して舐めていた訳ではなかったんだが、会った瞬間に化け物だとわかったんだ。こりゃダメだ。何をしても勝てない。そう思ったよ」


 これには参ったとお手上げをするトッチーノ。


「だが、そうなると話が変わってくる。

 もし私が我が身可愛さで何もせずに神殿に戻ればモニカは即座に報復行動に出ただろう。

 その場合、ラクタロー君は報復に向かった者をあっさり返り討ちにした挙句、必ずこの神殿を潰しに来る。私はそう直感したんだ」


 トッチーノの真剣な表情にリディアーヌとルインは喉を鳴らす。


「それなら尚更あのような振る舞いをされたのですか? 楽太郎さんを完全に怒らせてしまいましたよね?

 楽太郎さんを何ともできないならモニカ様を何とかすれば良かったのではないですか?」


「仕方ないんだよ。幾ら話し合いで解決しても思い込んだモニカは収まらない」


 まるで草臥(くたび)れたサラリーマンのような覇気のない表情でトッチーノが答える。


「昔からモニカは思い込むと止まらないんだ。

 何を言っても話を聞かない。まるでどこかに耳を置いて来たんじゃないかと思うくらい人の話を聞かなくなるんだ」


 それさえなければ本当に良い聖職者なんだが・・・とトッチーノは呟く。


「ま、まぁ、そんな訳でどうにかしなければと思ってね。そこで彼の実力の一端を披露して貰おうと一計を案じたんだよ。

 一応、彼の為人(ひととなり)を会話で確認して、彼を怒らせて私と対峙する方向に持って行ったんだ」


「それに意味があるのですか?」


 ルインが疑問をぶつける。


「あぁ、十分あるさ、君等は気付いていなかったかもしれないが、あの食堂にはモニカが私に付けた監視役が複数いたのさ」


「「本当ですか?!」」


「本当だよ。だから私が直接彼と戦おうと考えたんだよ。

 私が戦って負ければ相手がどれ程の猛者かわかるだろう?

 だが、実際には戦いにすらならなかった。何をされたのかもわからなかったよ。

 これでも私はLV67。強者(つわもの)のつもりだったんだがね・・・」


 トッチーノは思い出したように吹き出る冷や汗を慌ててハンカチで拭う。


「まさに『触らぬ神に祟りなし』ってやつだよ。あんな化け物に手を出そうだなんてどうかしていたよ。キュルケ様も気を掛ける訳だ」


 リディアーヌとルインは無言だ。


 トッチーノは部屋に備え付けられている水差しからコップに水を移すと一息に呷り、席を立つ。


「さて、私はこれからモニカに話をしてくるよ。

 正直、彼が強すぎて私が倒された事が監視役に認識できたかわからない。

 一応ラクタロー君に手出ししないように彼女に忠告するつもりだが、これ以上強硬な姿勢を崩さないのであれば私はこの神殿の為にもモニカに対して実力行使も厭わないつもりだ。君達はどうする?」


 悲壮な決意を固めた中年は少女たちに問う。


「私は・・・」


 リディアーヌは言い淀む。


 ルインは決意を秘めた目でトッチーノを見返し、言う。


「私はラクタロー様に謝罪を致します」


「「?!」」


「ラクタロー様との関係が拗れる切欠を作ったのは私です。

 なので謝罪を致したく存じます」


「それは・・・」


「そんな事をすれば藪蛇になりかねないぞ?」


 トッチーノが止めようとするが、ルインも引かず言葉を返す。


「私も短い時間ですが、ラクタロー様を観察して気付きました。

 あの方はとても合理的な方ですが、誠意をもって接すれば応えて頂けると愚考致しました。

 私は正直に全てを話し謝罪致します」


「だが・・・」


 言い淀むトッチーノにルインは言葉を被せる。


「先生。私は間違ってしまいましたが、その間違いを正したい。なれば迷惑をかけた相手に謝罪するのは当然ではありませんか?」


 ルインはトッチーノの目を真っ直ぐに見つめると、トッチーノも嘆息して言葉を返す。


「ならば、くれぐれも失礼の無い様にな。それと、私も謝っていたと伝えて貰えないか?」


「わかりました」


 悲壮感漂う師弟を余所にリディアーヌが「あ、じゃぁ、私はトッチーノ様と一緒にモニカ様とお話してきますね」と軽い口調で言うと、トッチーノとルインの力が抜けた。


「ほ、本気かね?」


「えぇ、本気です。私も一応は神託の巫女ですから、神殿の一大事に黙っていられませんよ」


「わ、わかった」


 そうして改めて席を立とうとしたトッチーノとルインにリディアーヌが思い出したように質問する。


「そう言えば、楽太郎さんを呼びだした理由は何だったんです?」


「まぁ、説教するか実力行使で少し痛い目に遭って貰った後に悪魔のダンジョン攻略を手伝わせようと考えていたんだよ。これならモニカも文句を言わないだろうからね」


 悪魔のダンジョン攻略はキュルケ教の悲願である。

 実際、高位の聖職者であるトッチーノは主に悪魔のダンジョン攻略を進めており、その為LVも高い。


「あぁ、なるほど、そう言う事だったんですね」


「理解して貰えてうれしいが、彼との関係は拗れてしまったからね。

 これから関係修復を図るには多大な労力が必要だろう。

 それに彼は聖人ではあるが、どうにも宗教を嫌っている節があるから、かなりの難事になるだろう」


「それは承知の上です」


 ルインが答えると、3人はそれぞれの目的の為、執務室を後にした。






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ナニかがいる。
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