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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第六章:未来への道標
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Ep.11


 返す言葉が見当たらず、思わず絶句していると、姐さんが大きく溜息をついた。

 まるで、わたしに見せ付けるかのように。


 そしてゆっくり頭を振る。

 まるでお手上げだというように。


 ちょっと失礼だと思う。


 わたしは問題点を口に出した。

「・・・・ルイさんの・・・・こと・・・・」

「告白されちまったんなら、答えを出しておかなくちゃいけないだろう。このまま何もなかったようにするのは無理な話だよ。なんせ相手は大人の男だ。否応なしにでも、マツリを求めるだろうさ。心も身体もね」

「!!」


 な、生々しい話を。


「何でそんな現実的なこというんですか!?」

 半分泣きそうになりながら言い募ってやった。


 わたしはまだ十九の女の子なんだよ。まだ成人してなくて、キスだってまともにしたことないのに・・・。

 カシギのは、唇の端だから、まともなキスとはいえない。

 それ以上のことなんて、想像すらできないのに。


「本当のことさ」

 姐さんは飄々とわたしの泣き言をかわす。

「男なんてそんなもんだよ。どんなに冷静装ってても、野生の本能が相手を求める。ルイだって、どこかでマツリを抱きたいと思ってるんだろうね。それを必死に我慢しているのは、マツリへのせめてもの考慮だ。・・・・・ルイがその気になれば、あんたを押し倒して無理矢理にでも奪えるだろうに」

「ね、ね、ね・・・な、な、な、っ!」


 もう言葉すら出なくなった。


 さっきようやく体内に満遍なく広がったと思った血が、またもや顔に集まってきて。


 抱くって!押し倒すって!奪うってっっっ!!


 それなりに知識があるわたしでも、まさか自分自身に起こり得るかもしれないと考える日がくるとは思っていなかった。

 しかもこんな異世界で。すごいイケメンを相手に。


 頭の中がキャパオーバーしそう。


「で?マツリはルイが好きなのかい?」

「・・・・ぅ・・・」


 考えてみる。

 よく考えてみる。

 これまでの事を思い出して、ルイさんの数々の笑顔を思い出す。


「・・・好き、だとは思います」 

 だけどそれは。 

「コウヤさんとか、カインに対しても、同じように思っていて・・・」

「男女の愛、とまではいかないと」

 頷いた。


 ルイさんが苦しんでいるなら助けたいと思う。何も出来ないなら、隣に寄り添っていたいとも。でも、それは、コウヤさんやカイン、他の仲間達全員にも言えることなんだ。 


 ルイさん一人に、というわけではない。


「まぁ、いきなり男としてみろと言われても、難しい話ではあるさ」

「・・・・・」

 今更だが、ルイさんにとても申し訳ない。


「とくにあんただとね」

 

 どういう意味だ。


 そこで思い当たったことがあった。

「でも、前に、ルイさんがわたしの事助けに来てくれた時、すごく傍にいてあげたいって思いました。いつものわたしなら、絶対に狂乱しててもおかしくなかったのに、ルイさんのことが心配で、他のことがどうでもよくなって・・・・・」

 人攫いにあって、血塗れになった時、わたしはルイさん事しか考えていなかった。

「それは」


 姐さんがしょうがいないな、という瞳でわたしの頭に手を置いた。その瞳がすごく温かくて、あぁ、姐さんなんだって思えて。


「少なからず、ルイを想い始めてるっていうことだと思うけどねぇ」


 もしお姉ちゃんがいたら、こんな風にわたしを見てくれたんだろうかと、そんな事を思った。



●  ●  ●  ●


 リファはまだ戻ってこない。


 サンジュ父さん達も仕事で忙しいらしい。


 ということで、わたしは姐さんと昼食を食べる事になった。

 二階にある姐さんの私室でゆっくり寛ぐ。


 朝食を食べ終わった後、姐さんは店番のため一階に降りていったけど、わたしは二階に残ってもう少しだけ寛ぐ事にした。


「・・・・好き、かぁ」

 好きっていう言葉一つにも、様々な意味がある。

 異性に対して、特別な感情を抱く事。この人と、一緒にいたいって思うこと。


 お父さんとお母さんがそうして結ばれたように。


「でも」

 わたしは異世界の人間だ。


 ここでもし、誰か、そう、ルイさんと恋に落ちても、結局別れなくちゃいけない運命にある。両親の場合、父が強者だったということで、めでたく結ばれたけれど。


 それと同じ事が、また起きるとは限らない。

 というか、普通はありえない話だ。自分の生きてきた道をすべて捨てるなんて。


 わたしは絶対に嫌だ。誰かがわたしのために今まで歩んできた人生を捨てる事、わたしがこれまでのすべてを捨てる事。


 脳裏に、今まで見てきた劇の内容が浮かんだ。女神様と村娘の不可能にも近い恋、そしてその恋を見事に叶えた彼女達の捨て身の決断。


 どうしたものか。


 文字通り頭を抱えたまま、わたしは大きな溜息をついた。

 ちょうど、体操座りのまま膝のところに頭を押し当てて、両手で頭を抱える状態。これって、意外に眠りやすい体勢だったようで。

 わたしはいつの間にか昼寝を決め込んでいた。

 



「マツリ」


 誰かに名前を呼ばれたことで、目を覚ました。

 腕の中に埋もれていた頭を起こし、声の主を確認する。


 カインだった。


「お前は良く眠るな」

「・・・・ん」

「今日の用事は終わった。宿に戻るぞ」

「・・・・リファは?」

「もう帰った」

 その後カインの後に続いて一階に降りれば、旅の皆さんが集まっていた。


 先ほどまで居たらしいリファは、わたしが眠っていることを知ると、起こすのも悪いのでと言って帰ってしまったらしい。


 もう冬も近いので、日が短くなったのも理由なんだそうだ。

 悪い事をしたな。


「そういえば、忘れていたよ」

 帰ろうかと、みんなで店を出るとき、何かを思い出したらしい姐さんが声をかけてきた。もちろんバーントさんはお泊り決定なので、店に残っていたけれど。


 思わずニヤニヤとしてしまい、バーントさんに変な目で見られた。


「もうすぐ、晩秋祭があるよ」

「・・・あぁ、もうそんな季節か」

 姐さんの言葉を受けて、サンジュ父さんが感慨深げに呟いた。

「すっかり忘れていたよ」

「そうですね」

「一年も早いもんだな」

 ルイさんもコウヤさんもカインも同じように呟く。どうやら、結構有名なお祭りらしい。


 もちろん、わたしは知らないものだ。


「晩秋祭ってなに?」

 首を捻った。

「その名の通り、秋の暮れに行なわれる祭りさ。冬になれば、外に出る人間もずっと少なくなる。その前にみんなで騒ごうじゃないかって事さ」

「なるほど」


 姐さん、これ以上にないってくらい分かりやすい答えをどうもありがとう。


 心の中で感謝しつつまた首を捻った。

「どんなことするの?」

「色んな店が並んだり、町全体が祭りの色になるんだ。今日も下準備をしていたな」

「みんなが踊ったりするのさ」

「花火も上がるぞ」

 カインの言葉に、少し思考が固まった。

「・・・・花火?」


 って、もしかしなくても。


「なんだ、知らないのか」

 バーントさんが言うので、わたしは思わず首を振る。

「いや、もうしかしなくても、あの、夜空にバーンって光る花のような火、のこと?」

「よく知ってるな」

「・・・マジで?」


 驚きすぎて言葉に詰まった。


 花火って、確か日本古来のものじゃなかったっけ?ていうか、異世界にあったんだ、花火って。しかも、花火っていうのか。そのまんまじゃんか。


「何をそんなに驚いていらっしゃるんですか?」

 コウヤさんが当然のような質問をしてきた。


 わたしはただ引き攣り笑いを浮かべるしかない。

 わたしが驚いているのは、ただ吃驚しただけで。異世界に花火なんてあるわけがないと思っていた、わたしの勝手な先入観のせいでもある。


「この街全体を上げての祭りだ。楽しむといいよ」

「いつあるの?」

「明日からの三日間、朝も夜もずっとあるはずさ」

「へぇ」

 みんな元気があるな。


 でも、祭りってすごく好き。


 わたしの名前と同じ音を持っているのも、大きな要因の一つかもしれないし、父が祭り好きだったっていうのも、あるかもしれない。




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