Ep.8
「ただし、条件がある」
うれしさを隠せず、満面の笑顔でニールくんと笑い合っていると、バーントさんの静かな低音の声がその中に割って入った。
わたしはニールくんから、バーントさんへ視線を移す。
依然として、彼の表情は厳しい。
なんだろう、条件って。
わたしが身構えると同時に、彼が口を開いた。
「まず第一に、もう二度と自虐的な行動は取るな。いいか、お前が自分を傷つけるのは一向に構わない。だが、それをすれば、俺達に迷惑がかかる。もう、迷惑は掛けるな」
容赦ない言葉が続く。
「第二に、弱気を見せるな。泣いたり、弱音を吐いてみろ。その場で即刻お前を棄てていく。そんなものに付き合っている暇はない。俺はここで忠告した。この二つを守らなければ、それ相応の事を覚悟しておけ。俺達は、遊びで旅をしているわけじゃない」
弱音を吐かない。それははっきり言って無理に近いかもしれない。
こんな右も左もわからない場所で、見知らぬ人達と生活をしていくことになるのだ。弱気にならない人なんて絶対に居ない。
だけど、サンジュのおっさん達にこれ以上迷惑はかけられない。受け入れてもらえただけで、彼らにはすでに多大な迷惑を掛けているんだ。だったら、この二つの約束をなんとしてでも守るしかない。
「・・・・はい」
わたしは頷いて、肯定の意を示した。
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長方形馬車の中は、とりあえずすごかった。
なんだか、別世界に来てしまったようだ。いや、確かにわたしは別の世界に来ているんだけれども。
これを現代のモノに例えると、やはりキャンピングカーだ。小さいけれど、窓もついている。
中はすごく広々として、見た目から推定するよりも確実に広い。だから、形が長方形なのかも。丁度真ん中の位置には、小さいながらも横長のソファーが二つと、ハンモックのようなものが上の方に計六つ垂れ下がっている。後ろの方には、机と椅子、本棚や棚もあった。
しかし、何より目を引いたのは、内側の壁やらなんやらをすべて覆い尽くしているカラクリの仕掛けのようなもの。レバーのような物もあれば、カーテンや歯車もある。
「・・・・あの、これは一体」
「あのね、僕達、劇をしてるんだ」
カインさんにソファーの一つに降ろしてもらってから、馬車の中をしげしげと眺めていたら、自然と言葉が漏れていたようだ。わたしの質問に対して、隣に座っていたニールくんが元気良く説明してくれた。
「・・・劇?」
首を傾げる。
すると、前に座っていたサンジュのおっさんがもっと詳しく説明してくれた。
「俺達は、旅芸人の一座みたいなもんだ。色々な村や町を廻って、劇やら芸やらを見せて廻りながら旅をしている」
「へぇ」
まさか、現実でそんな事をやっている人達に会えるとは思っていなかった。が、確かにそういうのもありかも知れない。
サンジュのおっさんはすでにおっさんにしか見えないし、二―ルくんも子供だ。しかし、他の四名は差はあれどみんな中々にいい男と推測する。いや、みんなまだわたしに冷たいけどさ。
そんなの気にしないもんね。ニールくんとセピアのやさしさだけで、わたし大丈夫だから。と、今は強がっておくことにしよう。
その後、団長であるサンジュのおっさんから、軽い説明を受けた。どれも、共に旅をしていく上で大切なものだ。
まず、馬車の操縦と護衛を兼ねて、絶対に誰か三人は馬車の中には入らず、前に座るらしい。それは日替わりだが、わたしはその役を免除された。お前が居ては逆にじゃまになるという、かなり手厳しい言葉と共に。
今は、バーントさんとカインさん、そしてコウヤさんがその役についているため、中には居ない。
カインさんとバーントさんの場合、絶対にわたしから離れたくてこの役をしているんだ。別にいいけど。とすれば、きっとルイさんも逃げたいんだろうな。
後方にある椅子に座り、何かを読んでいるルイさんの後ろ姿を見つめた。彼は、わたしの怪我の治療に備え、ここに居るに違いない。
先はかなり長いような気がしてならない。
溜息が出そうになったが、これは弱気になっていると見なされては困るで、寸前で止めた。
後は、生活環境について。
旅をする上で覚悟しておかないといけないのは、野宿だ。町から町への道中、確実に数日間は野宿が続くそうだ。
食料などは不足していないので、そこは心配いらないとサンジュのおっさんに言われた。食事も、最初は慣れないだろうが、慣れる努力をしろとも。
けれど、問題は風呂だ。
いつも皆さん、湖や川で水浴びをしているらしい。たまに温泉など見つける場合はあるのだが、その確率は本当に低い。その際、セピアがわたしの護衛として同行する事に決まった。まさか、年頃の娘の水浴びに男性がついて行くわけにもいかないから。 まぁ、それについても慣れしかない。
とりあえず、今絶対に覚えておかなければいけないのはそれくらいだろう。
わたしは言わば居候の身。少しずつ慣れてきたら、自分に出来る事も探そうと、この時誓った。そうして、少しずつでいいから、ルイさんやバーントさん達に認めてもらいたい。
その前に独り立ちしてしまったら・・・その時はそのときだな。
「あぁ、そうだ」
説明の後、サンジュのおっさんが何かを思い出したように後ろに置いてある引出しの中から何かを取り出した後、それをわたしの方へ突き出してきた。
「これを持ってろ。いざという時のためだ」
「これ・・・って」
差し出されたのは、短剣。
綺麗な柄をした、わたしの手より少し大きいくらいの剣だ。これを渡されたと言う事は、いざと言う時は自分で自分の身を守れと言う事。
「切れ味は抜群だ。もし何かあれば使え。俺達も、いつでもお前を守れるとは限らんからな」
こういう言葉を聞くと、やっぱり異世界なんだなと実感する。
日本じゃ、まず言われない言葉だ。確かに、自分の身は自分で守れとは言われるけれど、短剣を差し出されて言われる事はまずない。
「はい」
わたしは短剣を受け取って自分のマントの内側のポケットに仕舞った。




