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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第六章:未来への道標
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Ep.1



「ルイさん、なんで包帯外してくれないの?」

 次の目的地への道のりの中、わたしは自分の腕に視線を下ろしたまま口を開いた。


 今、移動車の中に居るのはわたし、サンジュ父さん、二―ルくん、セピア、ルイさん、コウヤさんの六人。


 バーントさんとカインは移動車の操縦中。

 二―ルくんはお昼寝中なのだが、尋常じゃないほど熟睡しているので普通に話しをしていても大丈夫。


 向かいのソファーで書物に目を通していたルイさんがこちらを向く。

 彼の隣にはコウヤさんが座っていて、わたしの隣にはサンジュ父さん。二人共こちらの世界のいわゆるボードゲームを挟んで真剣に対決している。


 コウヤさん、人が良いし器用だからいつも捕まっちゃうんだ。

 この間もカインの相手をさせられていた。そのことをどう思っているのか、果たして楽しんでいるのかどうかさえ、わたしには判断できない。


 セピアはわたしの足元でお眠り中。


 さて、話を戻そう。


「わたしの怪我、もう治ってるのは知ってるでしょ?」

 何もないのに包帯を巻くのは、少しきつい。


 子供達なんかはよく、仮面ライダーかなにかの真似とか言って手に包帯巻いたりしていたけどさ、わたしはあいにく子供じゃないし、そういう趣味もない。


 すると、ルイさんが口を開いた。

「マツリ、わたし達は君の体質に慣れているからいいんだ。けれど、他の人間からしてみれば、君のその体質は異様としか思えない。それをもし誰かに知られてしまえば、どうなるかわかるかい?」


 異質な者を居て、もしわたしの国でそんな事がわかれば・・・。


「隔離されて、色々実験される、とか?」 

「学者は未知のモノを研究するのが仕事ですから」

 コウヤさんが言った。


「王がいくら命令したところで、体質は変えられん。手足の一本や二本取られちまうだろうよ」

 サンジュ父さんも言う。


「我が国はそういう事に対しては貪欲ですからね」

「・・・や、やめてよそういう・・・」

「本当のことだよ」

 にっこり笑うルイさんが眩しい。


 そこで思い当たった。


「だから急に旅に出るって言い出したの?わたしの異常な回復力を隠すために?」

 わたし、そんな所にまで気が回らなかった。さすが、国王の側近達。


「まぁ、それもあるけれど」

 ルイさんが苦笑いを浮かべて言葉を濁した。

「まだあるの?」

 他に理由なんて思いつかない。別に頭が悪いわけではないけれど、深い所にまで考えが及ばないのだ、わたしの場合。


 それに、周りの人達の頭の回転が速いから尚更わからなくなる。


「あなたが気にすることではありませんよ」

 コウヤさんが話しを逸らすように言う。

「俺達は普段からそんなに城には滞在しない。いつもの事だ」

「・・・・うん」

 何かを隠しているような気もしたけど、これ以上追求したって絶対教えてくれないのは分かってる。だったら素直に引き下がるのが賢明な行動だ。


 別に悪い事でもないだろうし。



 というわけで、サンジュ父さんの膝の上に肘を乗せて、ボードゲームを観賞させてもらう事にした。


「コウヤ、お前、手加減ってもんはねぇのか」

「団長、これは真剣勝負です」

 サンジュ父さんが口元を引き攣らせながら駒を進める。


 このゲームは簡単にいうならば、チェスのようなものだ。


 昔はよく透さんと稔さんが遊んでいたものだ。透さんが涼しい顔をして稔さんを負かすのがとてもおもしろくて。そんな二人を見ていたから、ルールは知っている。


 違いは、この世界の方がマス目が少し多くて、駒が普通の二倍あるってことぐらい。中央にあるたくさんの兵達を掻い潜って先に王を取った方が勝ち。


 今、コウヤさんの兵士達がサンジュ父さんの砦になっている駒たちを崩しにかかっている所だ。

 サンジュ父さんは武道かだから、頭で何かを考えるより体を使って突破していく方が良いんだろう。それに引き換えコウヤさんは、隠密行動を得意とする人だから、誰よりも相手の先手を取って行動することに慣れていると思われる。


 みんなのことを知ったからこそ、新しい一面が見えるというもので。


 それが素直に嬉しい。


「コウヤァ、お前なぁ」

 焦っているのか、サンジュ父さんの手がわたしの頭の上にのって、グシャグシャにしてきた。でも、目はボードに向いているので、完全に無意識の行動だと思われる。


 そうだ、この人はこの世界のわたしの父でもあり、血の繋がった叔父でもあるんだ。もう、どれだけ甘えたって関係ないよね。


 少し驚かせてやろう。


 わたしはサンジュ父さんの腰に腕を回して、膝にもたれかかった状態で思い切り抱きついてやった。

「うぉ!?」

 案の定、びっくりしたようだ。

 今までこんな風に甘えた事なかったから。


「どうした」 

「別にぃ」

 猫になった気分で、膝の上を枕にしてみた。


 すると、今度はやさしく頭を撫でられた。


「微笑ましいね」

 ルイさんが笑う。

「えぇ、本当に」

 コウヤさんもそう言った。


「けれど・・・団長」

「げっ!」

 コウヤさんがもう一つ駒を進めたところで、サンジュ父さんが声をあげた。

「この勝負、私の勝ちです」

「お前、強すぎだ」

「慣れていますので」

 コウヤさんが静かに駒を直していく中、サンジュ父さんは本当に悔しそうだった。


 ふとコウヤさんが手を止め、わたしを見た。横になっていたわたしは、視線だけを彼にやる。


「マツリさん、団長の気をそらして時間稼ぎをしていただき、ありがとうございました。感謝します」

「え、あ、か、感謝されました」


 頭を下げられたので、わたしも上半身を起こして頭を下げ返した。

 別にそういう意味でサンジュ父さんに甘えたわけじゃないけど、コウヤさんを助ける事が出来たなら、それはそれで本望だ。


「おい!」

 サンジュ父さんが突っ込みを入れるように声をあげた。


「マーツーリー」


 あ、少し怒ってる。


 身の危険を感じたわたしは、再びサンジュ父さんの膝に戻った。

「・・・・」

 すると、サンジュ父さんも静かになる。


 彼が何に弱いかぐらい、わかっているもんね。


 その一連の流れを見ていたルイさんが、読んでいた本に隠れて賢明に笑いを堪えていたのを、わたしはちゃんと見ていたぞ。






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