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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第一章:すべての始まりはここから
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Ep.6

「・・・・信じられん」

「普通じゃありえませんね」

「・・・・・・・・」

 

 先日意識を手放して、次に目を覚ました時、わたしの体は完璧とはいかないものの、ほぼ快復していた。まだ、骨が完全に繋がったというわけではないので、立ち上がったり、動かしたりはできないけれど、上半身を起こして座れるぐらいにはなった。痛みもほぼない。

 そして今は、小部屋の壁に凭れるようにして座って居る。


 わたしの隣には、大きな犬・・・・いや、この大きさと尻尾の長さから考えると、狼に分類されるのかもしれないが、とにかく、最初に会った時わたしが悲鳴を上げた狼が居た。

 そして、目の前には、すでにおなじみのおっさんと怖すぎるお兄さん、そして男の子が座っている。


 先日の事で、かなり怖がらせてしまったのだろう。男の子はどこか青い顔をして怯えながら、わたしの様子をおっさんの影から窺っていた。

 その怯え方に少し傷つきながら、そうさせる原因を作ったのは自分だと素直に反省しておく。


 冷静になって振り返って見ると、確かにあの混乱の仕方は、ホラー以外の何ものでもないな。


「お、お前・・・その、大丈夫・・か?」


 KYおっさんが、どこか空気を読むようにわたしに声を掛けてきた。彼も彼なりにわたしに怯えているらしい。まぁ、あれだけ突拍子もない自虐的な行動をとってしまったから、仕方がない事ではあるな。


 再び反省。


「先日は、ほんとすみませんでした。暴れすぎたせいで、少し落ち着きました」


 ある程度の事は、最頂点を過ぎれば治まると聞いた事があったが、本当にそうだった。あれだけ混乱していた事が嘘のように・・・とまではいかないものの、少しは冷静に物事を考える事が出来そう。


 頭を下げて非礼を詫びれば、金髪のお兄さんが小さく溜息をついてわたしの傍に寄ってきた。

 もう今は彼らに対して、そんなに恐怖心はなかった。

 なんだかんだ言いながら、面倒を見てくれたのは、他でもない彼らなのだから。もし、悪い人だったら、今頃わたしは見捨てられていたか、殺されていたかのどちらかだったはず。


 ちなみに、他の黒髪と短髪とウェーブさんは、仕事で今は居ないらしい。


「謝るくらいなら、最初からあんな馬鹿な真似、しないでほしいね」

「・・・す、すみません」

「そのせいで、私達がどれぐらい迷惑したか、わかるかい?」

「・・・・」

「グヮッ」


 かなり迷惑そうなその声音に言葉を返せないでいると、隣に座っていた狼くんが牙を向いてお兄さんを威嚇した。

 最初、あんなに怖がってしまったのに、わたしは何故か懐かれてしまったらしい。


「あー、わかったわかった」


 お兄さんが脈を取っていた手首から手を離して、おっさん達の元に戻った。


「セピアは、すっかり嬢ちゃんの味方ってわけか」


 狼くんは、セピアという名前らしい。

 むちゃくちゃかわいらしい名前ではないか。中々センスが良いな。

 心の中で名前を賞賛しておいた。


「君、名前はなんだったかな?」

「ま、茉里です」

「マツリか。私はルイシェル、ルイって呼んでくれて構わないよ」


 美人の怖いお兄さんが自己紹介をしてくれた。


「はい」

「それで、こちらがサンジュさん、私達の纏める頭でね、みんな団長って呼んでる」

「おぅ」


 ルイシェル・・・いや、ルイさんの紹介に、サンジュのおっさんは短めのよくわからない相槌を打った。彼にはなんとなく「さん」という呼称は付けたくないから、あえておっさんを通させていただこう。


「それで、この子がコレニ―ル。愛称はニールだ」

「は、初めまして・・・」

「初めまして」


 ニ―ルくんが、今だ怯えた様子を見せながら、それでも頭を下げてあいさつしてくれた。わたしも頭を下げてあいさつを返す。


「この前は、ごめんね。すっかり、怯えさせちゃったみたいで」


 申し訳なくそう言えば、二―ルくんは勢いよく頭を横に振って、気にしてないと言ってくれた。

 そう言ってもらえただけで、少しほっとした。


「団長、ただいま戻りました」


 短髪くんが部屋の中に入ってきた。少し肌寒いせいか、みんなマントを着たままなので、わたしは今だに彼らがどんな服を着ているのかわからない。

 短髪くんに続くように、ウェーブヘアーの人と、黒髪の兄さんが入ってくる。

 二人共、わたしの方を少し見たが、特に反応を示した様子もなく、短髪君に習って前に腰を下ろした。

 ルイさんが紹介を続ける。


「彼がカイン。君が、窓を割ろうとした時、止めてくれたのが彼だ」


 そう言って指し示したのは、深緑の短髪くんだ。彼は紹介された後、鋭い視線をわたしに向けてきた。


「・・・説明なんかいらない。オレは、あれ以上迷惑をかけられるのはごめんだったから止めたんだ」


 かなり冷たい声音。


「カインの隣に居る黒髪が、コウヤ」


 紹介された男の人を見ると、すぐに視線を逸らされた。しかもあからさまに。


「で、帽子を被っているのがバーント。一応副団長とみたいなものだかな」

「・・・・・」


 バーントさんにも、睨みつけられた。

 怖い。


 バーントさんは、小さな目皺がある年齢不詳の男性だ。軽く見積もって、三十代前半かそれくらいだろう。ちなみに、サンジュのおっさんは四十代、ルイさん、コウヤさん、カインさんは二十代前後だと推定する。



 そこで気がついた事。

 どうやらわたしは、狼のセピア以外の皆様から、完全に警戒されるべき人間と認識されてしまったらしい。みんなの冷たい視線と態度がすごく胸に来る。

 確かに、迷惑をかけたのはこっちだし、その自覚があるからこそ何も言えない。


 けれど、わたしだっていっぱいいっぱいだったんだ。

 あれしか、自分を止める方法がなかっただけなんだ。



「で、マツリ」


 いきなり呼び捨てか。

 サンジュおっさんに名前を呼ばれた時、突っ込みたくなった点はそこだ。しかし、彼にちゃん付けをされるのもなんとなく癪なので、あえて黙っておいた。


「お前さんは、本当は誰だ」

「・・・・」

「別に、あんたがスパイとか疑ってるわけじゃない。そうだったら、俺達にはわかる。・・・・だが、あんたは違う。じゃあ、誰なんだ」



 サンジュのおっさんや他の方々の視線が痛い。

 セピアが少しだけ頭をわたしの方に寄せてきた。彼はこうして少しずつわたしとの距離を詰めてきている。とても賢い狼だ。 


「人間か?」


 カインさんが疑問に満ちた口調で呟いてきた。

 その言い様に少しむっと来た。


「あ、当たり前じゃないですかっ、わたしは人間です!!」


 母も、父も、絶対に人間だった。失礼にもほどがある。


「ほら、落ち着いて。・・・カインも、あんまり彼女を刺激しないでくれるかい」

「また、暴れられても困る」 


 ウェーブ髪のバーントさんが、少し皮肉気にそう呟いた。

 何も言えなくなって、わたしは顔を伏せた。


「・・・・バーント」


 サンジュのおじさんが困り果てた声で名を呟いた。

 リーダーのくせに、なんだか周りに振り回されてばかりだな、この人。


「では、質問に戻します。あなたは、誰ですか」


 黒髪を後ろで束ねているコウヤさんが、感情のまったく読めない表情と声で、話の軌道修正をした。そうだ、今はこれが重要なんだ。


 六人の一匹の視線が一気に集中する。

 わたしは膝に掛けられている毛布の下で、小さく拳を握った。


 信じてもらえるだろうか。・・・・いや、無理だろうな。


 すぐに諦めに似た絶望の気持ちが胸に広がる。そう思うと、少し気が楽になった。

 こんな事を思って楽になるなんて、わたしの頭は本格的におかしくなってしまったようだ。


 わたしは目の前に座るサンジュのおっさんを見た。


 信じてもらえなくたっていい。後は、もう、彼らに任せよう。

 わたしはただ、流されていればいいんだ。


「・・・・わたしは、地球の、日本という所から来ました」


 予想通り、サンジュのおっさんの眉が寄った。


「チキュウ・・・・ニホン・・・聞いた事ねぇな。お前らは?」


 彼は意見を求めるように他の皆様を振り返った。


「あり・・・ませんね」

「私も同じく」

「オレも」

「ない」

「・・・僕も」

「ワフッ」


 セピア、君のそれは肯定なのかい、否定なのかい。


「そんな所、聞いた事がない。だが、お前さんはそこから来たというんだな?」


 サンジュのおっさんの表情に表れる、「不信感」の三文字。


 他の人達もそうだ。誰も、わたしの言う事なんて信じてはいない。

 小説などでは、ここで主人公の体から何か身の潔白を晴らすようなモノが出てきたり、仲間の一人に気に入られて仲間に入れてもらえたり、すごい宿命を背負っている事が判明したりするのかもしれないが、あいにくわたしはそのどれにも該当しない。


 そして、これが、現実なのだろう。


「わたしが居た世界は、こことはまた違った場所・・・・・異世界かも知れません」

「なに?」

「信じるも信じないも、あなた方の自由です。後は、好きにしてください」


 わたしは完全に諦めて、彼らにすべてを預けた。

 他人から見たら、無責任な行動に思われるかもしれないけど、この問題は、わたしにはどうする事も出来ない。わたしと、彼らの住む世界は違いすぎる。


 わたしのその言葉に、皆が一斉に顔を顰めた。何か、気に障ってしまったらしい。


 バーントさんが、どこから取り出したのか、剣を向けてきた。

 そこに表情はない。

 そしてわたしも、剣に対してなんの思いも抱かなかった。

 人間慣れればなんとも思わないとは言うが、わたしの場合、慣れるのに早すぎだろうと、心の中で指摘を入れた。まったくその通り。

 剣にも、慣れてしまったようだ。


 死んだって、それがわたしの運命だったんだろう。今なら、そう受け止める事が出来そうだった。

 知らない場所で、知らない人の手によって殺される。

 人殺しのわたしにとっては、お似合いかもしれない。


「・・・娘、お前、ここで死んでもいいと思っているのか」

「・・・・」


 彼と視線を合わせながらも、わたしは答えなかった。それを肯定と受け取ったのか、バーントさんの眉が寄った。なんだか、さらに不機嫌になったみたい。


「グルルル・・・・」


 セピアが立ち上がってわたしと剣の間に立ちふさがると、毛を逆立ててバーントに向かって牙を剥いた。


「どうして・・・」


 どうして、この狼は仲間に牙を向けているのだろうか。なんで、わたしなんかのために。


「ば、バーントさん!団長っ」


 その時、ニールくんが声を上げて、二人の注意を自分に向けた。

 彼はサンジュのおっさんの背後から出ると、セピアの隣に並ぶ。つまり、わたしを庇う形になると言う事だ。ますます、今の状況がわからなくなっていく。


 なんで、そこまでして、わたしを庇ってくれるの?


「このお姉ちゃん、嘘、言ってないと思うよ」

「・・・二―ル」


 カインさんが拍子抜けしたような声音で幼少の彼の名を呼んだ。

 ニールくんは、必死に言い募る。


「だって・・・・だって、すっごく困った顔してたもん!荷台の時も、窓壊そうとしてた時も、お姉ちゃん、なんか分けわかんないって顔してたよ?・・・・うまく言えないけど・・・・迷子になった僕みたいだったっ」

「・・・二―ルくん・・・」


 さっきまで、あんなにわたしの事を怖がっていたのに、今はこうして自分の仲間に意見してくれている。わたしを、庇うために。


 一瞬で、胸が、温かくなった。


 さっきまで、絶望と諦めで埋め尽くされていたのに。

 セピアの行動と、二―ルくんの言葉が、すごく胸に響いた。


 例え、世界が違っていても、こんなにやさしい人はどこにでも居るんだ。あの時、わたしを見捨てなかったおばあちゃんのように。

 目頭が熱くなった。


「・・・・ぁ・・」


 ニールくんがわたしの方を振り返って、驚いた顔をした。


「お、お姉ちゃん!?・・・ど、どこか痛いの?」


 すぐに傍に駆け寄って来てくれて、一瞬躊躇ったものの、すぐに腕にその小さな手を添えてきた。セピアも、頭を膝の上に預けてきてくれる。

 頬を伝う暖かい雫たちが止まらない。


「・・・あ・・・りがと」


 わたしは溜まらずに顔を覆った。

 小さなやさしさに触れて、涙が止まらなかった。

 


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