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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第五章:変わりゆく現在(いま)
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Ep.9


 朝、ジュエリの持ってきてくれた朝食を食べたわたしは、彼女の半ば攻撃的な視線から逃げるように室を出た。

 本当に、彼女はわたしを快く思っていないことは一目瞭然だ。でも、その理由がまだよくわからない。

 きっと、国のお偉いさんであるバーントさん達と親しいのも要因の一つではあるだろうけど、それだけじゃ済まされない何かがその視線には含まれているような気がした。

 さっき感じたあれは、嫌悪感などが含まれていたに違いない。それも、かなり強い。


 それに、この城に勤める大体の人達がわたしに警戒心を抱いていることもなんとなくわかった。

 室から逃げ出して、城の中をなんとなく歩いていると、なんども使用人の人達に出会った。でも、そのほとんどがわたしの姿を見るなり眉を顰めてあからさまに視線を逸らし足早に去っていくのだ。ここで働いているメイドさんたちも、わたしが通った後は、みんなでなにやら井戸端会議のようなものを開いていた。

 この城に来てからまだ二日しか経っていないのに、これだけ嫌われてるわたしって一体どうなんだろう。わたしだけじゃどうにもできない問題だけど、バーントさんやせっかくわたしを迎え入れてくれた王様達には申し訳なくて何もいえない。


 別にいじめを受けているわけでもないから、言う必要などないと思ったのだ。

 そんなもやもやした気持ちを抱えたまま歩いていたわたしは、行き止まりにぶつかる事で自分が目的地もないままに歩いていたことに気がついた。

 顔を上げればすぐに入ってきた父の肖像画。


「・・・・・」


 複雑だ。すごく複雑。

 昨日のこともあるし、わたしの血の半分はこの国に繋がっていると考えるとすごく変な感じもする。これらの気持ちを持て余し、途方に暮れてしまうのも仕様のない話だろう。

 昨日の話を整理してみる。

 つまり、母はなんらかの理由でこの世界に来て、父と出逢った。父はこの国の将軍でいくつもの戦いで勝利を収めた王の側近で、サンジュ父さんの実の兄。それから母と恋に落ちた父は、これまたなんらかの理由で母と生きる道を選び、自分の持っていたものすべてを投げ捨てて母の国に帰ったと。


 ・・・・・・全然わからない!!


 だから、その『なんらかの理由』っていうものが一番大切なことなのに、まったく予想が出来ないです。

 そもそもなんで父は母と生きる道を選んだんだろう。この国には父のすべてがあったのに。家族に地位、友人達。

 旅の中でみんながやっていた劇を思い出す。

 あの話の中では、女の人達が自分のすべてを投げ打ってでも男性と結ばれようとした。・・・・父の場合、逆だったと?あの、冗談が好きでいつも明るく笑っていた父が、実は女性にも負けない純情さも持っていたとでも?

 それとも、わたしの知っている父はまた違う彼なのだろうか。十年も前に死んだ人の事なんて、今更考えたところで新しい答えが生まれるわけでもない。


「はぁ」


 帰ろう。シナちゃんでも会おう。

 そう思って溜息をつきつつ方向回転をしたところで、わたしは自分の現在地を見失った。

 否、元々から見失っていたと言っても過言ではない。というか、わたしは自分の人生の現在地すら見失っている最中である。


「・・・なんだかなぁ」


 ここに突っ立ったままでいるのもなんなので、とりあえず歩く。

 コウヤさんやカインにも謝らないと。あー、気が重い。二人共きっと笑って許してくれるだろうけど、それじゃあ、わたしの罪悪感が積もるばかりだ。

 ここに来て、右も左もわからないわたしを拾ってくれた命の恩人達に対して、わたしは何も出来ないんだと、痛感する。

 この恩を返すには、どうしたらいいんだろう。わたしはぼんやりとそう思った。

 きっと、わたしには出来る。自分の命を投げ出すことは怖くて出来ないだろうけど、それ以外のことだったらきっと何でもできる気がした。

 それが例え、わたしの人生のすべてを変えることになったとしても。

 それくらい、旅の一行のみんなには、この国には、恩があるのだから。



●  ●  ●  ●  ●  ●  ●


「・・・・あ」

「あら」 


 運命はわたしを見捨てなかった。

 再びあの女子校の王子になりうる剣使いの少女に出会った時、わたしは思わずそう思った。

 今回は廊下でばったり出くわしたのだ。


「また迷子?」

「・・・・う、は、はい」


 開口一番核心部分を直で突かれたわたしは、俯きつつ彼女の言葉を肯定した。


「いらっしゃい。今回はどこに行きたいの?」


 この少女はどうやらわたしを嫌ってはいないらしかった。


「あの、シナちゃ・・・・ルイシェル様の妹さんがどこにいるかご存知ですか?」

「シナマレリーンのこと?・・・さぁ、屋敷に戻ったんじゃないの?」

「そう、ですか」


 居ないのか。さて、どうしよう。


「暇なの?」

「はい、まぁ」

「それじゃあ、一緒に来る?今から剣の練習をしようと思っていたところなの。あなた前に見ていたでしょ」

「いいんですか!?」


 少女の思ってもみなかったありがたい申し出に、思わず大声を上げていた。


「・・も、もちろんよ」


 案の定、少女は少し引き気味に笑みを浮かべた。

 やさしい人だった。


「あなた名前は?わたしはアイシャレラ」

「茉里です」

「マツリ。面白い名前ね」

「えぇ、まぁ」


 アイシャレラさんが感想を言って来た。

 アイシャレラ・・・・・これまたちょっと難しい名前だな。なにかニックネームを考えたいと思う。というか、人のニックネームを付けるのって意外と楽しかったりする。


「アイシャレラさん、何か愛称ってありますか?」


 とりあえず先に聞いてみることにした。


「そうねぇ、あんまり愛称では呼ばれないわよ」

「・・・じゃあ、付けてもいいですか?」

「えぇ、別に構わないけれど」

「それじゃあ」


 少しばかり考えに浸る。わたしは自分の世界に飛んでしまっているので、二人の間に会話はなかった。アイシャレラさんはそんなわたしを観察しているよう。視線を感じる。


「アイシャさんはどうでしょう?」

「なんでもいいわよ。私は」


 見た目はどこかの気高い貴族令嬢を思わせるアイシャさんは意外とサバサバした性格であるらしい。わたしのリクエストをさらりと受け取ってくれた。

 彼女はわたしを見つめながら少し首を傾ける。 


「それはそうと、マツリは今いくつ?私とそんなに変わらないように見えるけれど」

「19です」

「・・・・私と同じ」

「え、本当ですか!?」

「シナマレリーンもよ」

「うっそぉ?」

「・?・・えぇ・・じゃあ、私達同い年なんだし、お互い敬語はなしでいきましょうよ」

「う、うん!」

 

 わたしは小躍りを始めんばかりの勢いで大きく頷いた。初めて、歳の近い女の子達とお近づきになれたのだ。喜ばずにはいられない。

 


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