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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第五章:変わりゆく現在(いま)
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Ep.5


「お姉ちゃん!!」

「・・・あ、二―ルくん」

「ガフッ」

「セピアも」

 

 少しルイさんが怖くなったわたしは、彼の数歩後を歩いて、夕食を食べる予定らしい広間に辿り着いた。広間に入れば、すぐに二―ルくんとセピアが駆け寄ってきた。

 実に半日ぶりの再会だ。


「二―ル、だれ、その人」


 腰に抱きついてきた二―ルくんの背中をやんわりと抱きしめていると、他の子供の声が聞こえた。

 少し高飛車の声の主。


「あ、シンディ」


 二―ルくんが顔を上げてその少女を見た。 

 視線をやった先に居たのは、フリフリのドレスに身を包んだ、二―ルくんと同い年ぐらいの女の子。青い瞳に綺麗な金髪の巻き毛を持った彼女は、王様に酷似していた。

 そこでピンと来る。

 もしかしなくても。


「お姉ちゃん、シンディだよ。王様の娘さんで、姫さまなんだ」

「・・・は、始めまして」

「・・・・」

 シンディ姫が、物凄い形相で睨んでくる。

 あれ、わたし、なんかした?

「お姉ちゃん、一緒に食べよ。シンディ、いいよね?」

「・・・・・・・かってにしなさい」


 シンディ姫は、つんけんした態度でそっぽを向くと、今まさに歩いてきた両親の元へと歩いていった。その歩き方でさえも、なんだか自信に満ち溢れているようで、まさに王家の姫に相応しいなと思えた。あの歳でここまでなら、大きくなったらどうなるんだろう?

 シンディ姫を見送った後、改めて二―ルくんを見下ろす。

 さて、ここで確認しておく事が一つ。


「二―ルくんは、このお城でどんな事をしてるの?」

「シンディの遊び相手」

「・・・・・へぇ」


 簡潔な答えをありがとう。

 そうですか、王家の姫様の遊び相手ですか。

 ねぇ、ちょっと泣いてもいい?腰にへばり付いてる二―ルくんの肩に手を置いたまま、上を見上げた。今の気分を歌で例えるならこう。


『上○向いて歩こう』

 上を向いて歩こう、涙が、零れないように。・・・・・・・・・まったくです。


 それからすぐ後、二―ルくんはシンディ姫に呼ばれて行ってしまった。そんな彼の姿を見送りつつ、自分も何か食べないといけないなと思い当たった。


「・・・あの、あなたが、マツリさん、ですか?」

「はい」


 何を食べようか思案していると、後ろから声を掛けられた。肯定の返事を返してその声の方を振り返る。


「は、始めましてっ」

「・・・・・は・・じめまして?」


 後ろに立っていた男の人が、わたしが振りぬくと同時に物凄い勢いで頭を下げてきた。それはもう大袈裟な動作でだ。

 この人わたしに何かしたのかなってくらい真剣な頭の下げ方にちょっとたじたじになった。

 とりあえず、疑問符を浮かべながらあいさつを返す。

 すると男性が顔を上げた。


「・・・・・・」


 彼の顔を直視した瞬間、わたしの魂は一瞬抜けた。(気がした)いや、絶対抜けたと思う。


「は、始めまして。ぼ、僕は、シュリルと申します。その、マツリさんのこと、は、父や母から聞いていたので、えっと、ぜひ、お話が・・・して、みたくて」 

 シュリルと名乗ったその男性は、ルイさんに負けるとも劣らない女顔の持ち主だった。いや、ルイさん以上かもしれない。こう、か弱い女性的な人だ。

 ルイさんはああ見えて、ものすごく強いから。

 王子様、っていうよりは、城に閉じ込められていたお姫様みたいなイメージを受ける人だった。

 肌はすっごく白くて、雪を擦り込ませたみたいだし、その瞳は真っ青。極めつけは、その襟元に届くか届かないかぐらいの、茶髪と金髪が混ざった髪。

 はい、もしかしなくてもですね。


「王子、こちらに居られましたか」

「ば、バーント。・・・・久しぶりです。その、旅はどうでしたか?」


 予想通りだったので、今回は驚かなかった。

 一瞬、男装したお姫様かなとも思ったけれど、正真正銘の王子様のようだ。


「マツリ、彼は次期国王のシュリル王子だ。報告から聞く君に興味を持っていたらしい」


 バーントさんから、改めて紹介してもらった。


「始めまして、マツリです。このたびは、城への滞在を許可していただいて、どうもありがとうございました」

「い、いいえ!僕にそんな、こと・・・感謝されても」


 シュリル王子がオドオドしたように手を首を同時に振って否定する。

 この王子、なんか挙動不審だなぁ。大丈夫なのかな、こんなにヘナヘナした王子様が居て。しかも、次期国王なんでしょ?


「王子、王がお呼びです」

「い、今行きます!」


 バーントさんの呼びかけに、飛び上がらんばかりに驚いた後、シュリル王子はわたしの方にお辞儀して行ってしまった。

 そのさい、緊張ゆえか何もない床に躓いて転びそうになってた。


 本当に大丈夫なのかな。


 バーントさんも王子の後に続こうとしたが、何かを忘れたらしく、わたしの方に戻ってきた。そして、頭に手を置いて何度か撫でてくる。


「マツリ、もしも何かあればすぐに言え。いいか?」

「・・・・う、うん」


 バーントさんにも気づかれたようだった。

 それだけ言い残して、バーントさんは王子達の元に向かった。

 わたしも遠巻きに王子の様子を窺ってみる。だって気になるんだもん。

 いやぁ、思うに、妹にすべての自信を吸い取られている感じだった。だって、隣に並んでいると、立ち方から違って見えた。

 シュリル王子はちゃんと背骨は真っ直ぐしていたけれど、気を抜けばすぐに猫背になりそうな危うさがある。反対に、妹さんのシンディ姫の背筋は真っ直ぐし過ぎていて、間違えれば胸を張って立っている感じがある。

 そんな二人に気づいているはずの王様と王妃様は別に気にした様子もなく笑っている。

 あの人達、絶対息子と娘の違いを観察して楽しんでる。だって、王妃様なんて必要以上に笑顔で、ちょっと笑いを噛み殺しているみたいだったから。

 まぁ、わたしが親でもそうしたかもしれない。

 別に周りに迷惑が掛かっているわけでもないので、ちょっとは楽しめる兄妹なんだなというのが、わたしの第一印象だった。

 失礼だけどね。


 ウェイターらしき人が水を持ってきてくれたので、ありがたく頂いた。その時、ウェイターさんがお酒を勧めてくれたんだけど、丁重に断った。わたしはまだ未成年です。


「シュリル王子は、剣も勉学もそれなりにできるんだ」

「カイン」 


 その後も王家兄妹の観察を続行していると、カインが声を掛けてきた。

 前にも見た白と銀の騎士服に、ルイさん同様袖のない白いローブらしきものを着ている。

 うむ。彼も意外にイケメン類に入る事を、この騎士服のおかげで思い知った。わたしの中で、彼はある意味普通の青年的なイメージだったから。まぁ、ケンカばかりしていたのもその要因ではある。

 あるいは、ルイさんが異常に輝いていたからかもしれない。

 どっちでもいいや。


「え・・・と」


 さて、頭を下げるべきか否か。ルイさんは、変わらないで居てくれと言ってくれたけど、それはあくまでもルイさんの意見だ。というか、ここには、周りにたくさん人が居る。そのほとんどが、知らない人ばかり。

 目を泳がせながら反応に困っているわたしを見て、カインが苦笑いを浮かべた。

 それから、ポンっと肩に手を乗せられた。そして、すばやく耳打ちされた。


「お前は、お前のままでいいから」

「・・・・はい」


 騎士の服が似合っているカインにそんな事言われると、なんだか気恥ずかしい。ちょっと照れつつ頭を垂れていると、どこからか感じた殺気の篭った視線と寒気。


「うぉ・・」


 鳥肌が立って、背中を何かが撫でた気がした。思わず身を震わせる。

 ここまであからさまな殺気だったら、さすがのわたしでもわかるというもの。


「どうした?」

「あ、ううん。なんでも」


 カインが不思議そうな顔で見てきたから、なんでもないと手を振っておく。その際、さっと辺りを見たけど、殺気を送ってきた人は見当たらなかった。

 なんだったんだ。

 わたしが首を傾げていると、カインが話を続けてきた。もちろん、王子の話だ。


「けどな、失礼ではあるが、あの方にはまったくといって良いほど自信がないんだ」

「うん」

 なんか、妹の方が王に相応しい気もするよ。

「王子自身はそんな自分を変えようと努力されているらしいんだけどな、結果はまぁ、あんな感じだ」

 つまり、改善はされていないと。

「そんな王子も、この城では、誰よりも柔軟性の高い知能を持っておられる」

「どういう意味?」

「頭ごなしには反論せず、ちゃんと相手の立場にも立てる方だ」

「へぇ、すごいね」


 いいことじゃない。

 ちゃんと相手のことも考えるなんて。最近はみんな追い詰められがちだから、自分のことしか考えられない人が多いんだけど、そんな中でこの特性はすごい事だと思う。

 いや、追い詰められている人が多いのは、わたしの国の話だけどさ。


「あれ、サンジュ父さんは?」


 コウヤさんや他のみんなも居る中、彼だけが居ないことに気がついて、聞いてみた。カインは一級騎士で、サンジュ父さんは将軍。一番繋がりがあるのは二人だ。

 今更ながら、二人がなんであんなに馬が合っていたのか分かった気がする。カインも、サンジュ父さんのこと尊敬してたみたいだし。 


「団長なら、実家に連絡を取っている」

「実家?」

「・・・・お前、団長の姪だろう。団長の母上殿はご健在だから、会わせようとしてるんだ。お前からしてみれば、祖母になるからな」

「おばあ、ちゃん」


 そうだ。もし、わたしのお父さんがこの国出身だったら、身内はサンジュ父さんだけじゃない。サンジュ父さんの親戚が、わたしの親戚にもなる。

 すごい、変な感じ。


「団長も、すごく驚いていたみたいだから、後で二人で話すといい。ターキトール殿については、オレも話には聞いている」

「でも、わたしのお父さんがその人か、まだ本当にはわかってないでしょ?」


 実は、心の底ではまだ疑っている自分が居る。

 そのわたしの言葉を聞いたカインは、わたしの腕を取って歩き出した。そのさい、いつの間にか持っていたグラスが消えていた。

 さすが。

 広間を出て、二人で歩いていると、カインが言った。


「見せてやるよ、ターキトール殿の肖像画。これで、はっきりさせろ」


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