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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第五章:変わりゆく現在(いま)
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Ep.3


 とりあえず、その少女の行動を観察することにした。

 

 二―ルくんの灰色の髪に、少し黒を加えたような黒とも灰色ともつかない不思議な色の髪。それは腰以上の長いもので、所々ウェーブがかっている。わたしと同じ少しくせ毛なんだなと思った。

 ほどよく焼けた肌の色に、ドレス越しでもわかる、引き締まった腰。それにしても、よくドレス姿であんなに俊敏な動きが出来るな。

 キリっとした横顔は、すごくかっこよくて、男装が似合いそうだなと思ってしまうほどだ。

 しばらく見ていると、急に少女の動きが止まった。


「さっきから、何を見ているの?」

「!?」


 ・・・・わたしが居たことに気づいていらっしゃったみたいです。


 少女が剣を鞘に納めると、キビキビした足取りでわたしの方に向かってきた。

 ここでようやく、彼女の顔を真正面から見ることが出来た。

 やっぱり美少女だ。


「私に、何か御用でも?」

「え、あ、いや、その・・・」


 特に理由なく見ていたわたしは、その質問にうろたえてしまう。

 すると彼女は、何かに気づいたようにわたしを凝視してきた。


「もしかしてあなた、右大臣様が連れてきた女の子?」

「・・・はぁ、多分」

「どんな子かと思っていたけれど、案外普通の子みたいね。・・・こんなところで、何をしているの?」

「えーと、道に、迷いまして。・・・その、あなたの剣使いがすごく綺麗だったので、思わず見惚れていました・・・」


 正直に自分が何をしていたかを説明してみた。

 すると彼女は面食らった顔してきた。


 あれ、なにか、まずい事言っちゃったかな?


 ちょっと挙動不審になっているわたしを見ていた少女は、小さく溜息をついて、廊下の方に上がってきた。それから、さっさと歩き出す。

 置いていかれるのかと思ってその場に突っ立ったままでいると、少女が肩越しにわたしを呆れたように見てきた。


「何してるの。このまま迷子になってるつもり?」

「は、はい!」


 どうやら、送ってくれるらしかった。

 少女の隣に並んで、歩き出す。

 その間、わたし達の間に会話はなかった。

 わたし側には、たくさん聞きたい事はあったのだ。例えば、彼女の名前や、なんで女性のしかも貴族のお嬢様らしき彼女が剣の練習なんてしていたのかとか。

 けれど、ただ前だけを見て歩く彼女に質問できる勇気は、なかった。

 

 結局少女は、わたしの部屋がある廊下まで連れて行ってくれた。


「あ、ありがとう!」

「どういたしまして」


 わたしのお礼に答えた後、少女は颯爽と去っていった。


 室に戻れば、誰も居なかった。

 ジュエリも、仕事を終えて帰ってしまったらしい。

 わたしは、ソファーの上に座って、少女のことを思い返してみた。

 前からみた彼女の顔は、ルイさんとはまた違う中世的な印象を与えさせた。

 シナちゃんとはまた違った意味を持つ美少女。

 そう、現代風にいえば、女子高ではきっと王子様のような立ち位置になるだろうなと思わせるすっきりとした顔立ちをしていたのだ。

 長身のわたしと同じくらいの、でも、わたしよりずっとスタイルのいいすらりとした体。すっと流れるような瞳の色は、浅黄色という爽やかな色。

 雰囲気的に、どこかコウヤさんみたいだなと思った。 


 ・・・・・いや、まさか、コウヤさんの妹、なんてことはないよね?


 ルイさんとシナちゃんを思い出して、一旦はそんなことを考えてしまったけれど、すぐさまありえないと打ち消した。


 コウヤさんはもっと東洋系の顔つきだから。

 そこで思考は、サンジュ父さん達のことへと移っていった。

 考える事はもちろん、これからの彼らへの態度。

 わからない。今までどおり接していいのかどうか。

 両親が王の知人であったとしても、父が、サンジュ父さんの実の兄であったとしても、わたしは今までそんな事少しも知らずに生きてきた。

 無知な自分が、国の偉い人であるみんなと親密にしてしまったら、他の人の反感を買ってしまう。


「・・・・あ」


 そこでわかった気がした。あのジュエリの不可解な態度や、シナちゃんを迎えに来た侍女さんの不審者を見るような視線の意味を。

 でも、わかったとしても、わたしにはどうする事も出来ない。

 だって、出逢ってしまったから。

 わたしは、サンジュ父さん達と出会って、彼らに拾われて今まで旅をしてきた。

 それは変えようのない事実で。

 でも、まだ確信が持てたわけではないので、この考えにストップをかけた。これ以上悩んでも、自分を追い詰めるだけだと思う。

 ソファーの背凭れに背中を押し付けて、目を閉じた。

 

 少しの間だけでいいから、何も考えないで、ただこの場に居たいと思った。



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