Ep.2
「すごく大きいね」
城巡りをする中で、わたしはもちろんその大きさに度肝を抜かれていた。
そのすぐ隣を、シナちゃんが嬉々としながら歩いている。
何がそんなに嬉しいんだろうかと疑問にも思ったけれど、嬉しいなら嬉しいでいいよね、と気を取り直すことにした。
見た目だけではなく、中も半端なく大きいその城は、まさに国を象徴するものだ。
小高い丘の上にあるせいか、城の窓から首都が見渡せた。
その反対側にはまた別の丘が広がっていて、その先には森も見えた。シナちゃんによると、そこは王の所有地なんだそうだ。
さ、さすが・・・王様。
城は中庭を囲むように正方形に建っている。
廊下を歩いていれば、どこからでも庭が見れるという仕組みだ。でも、その庭も半端なく大きな事をちゃんと心に留めておいてもらいたい。
とりあえず、この城はとても複雑な造りをしている。一部が四階建てだったり、六階建てだったり。外観からわかるように、いくつも違う形の建物が合わさって、城の形を造っているようなものなのだ。てっぺんには大きな鐘の塔が真中に堂々と立っていて、その近くに小さな塔が建っている。
すごく複雑すぎて、もうしも迷ったら、わたし、きっとミイラになっちゃうと思う。
あらゆる場所を回り、シナちゃんがスケッチブックでそこがどこであるかを説明してくれた。
簡単な単語だけを使ってくれるから、わたしにもわかった。
廻っていてわかったことだけど、お城で働くほとんどの人達が、サンジュ父さん達が着ていた羽織りを着ていたのだ。
でも、その色は実にさまざまで、黒もあれば灰色もあった。さすがに、ピンクや黄色はないけれど、紫はあった。何が基準かは考えないでおこう。
ただ、白色を着ている人はほとんど居なかった。
『白、偉い人、着る』
「・・・へぇ」
シナちゃんの説明を見て、頬が引き攣った。
今更だとは思うけど、わたし、やっぱり言葉遣いとか変えた方がいいかな。そんな国のお偉いさん達にタメ語なんて使ってたら、お城の人達から反感を買ってしまいそうなんだけど。
「シナマレリーン様」
音楽室から出たところで、シナちゃんが声をかけられた。
やっぱり、難しい名前だな。
「今晩の夕食会のことで、お父上がお話があるとお呼びですが・・・」
シナちゃんを呼んだ侍女さんがそう言ってわたしを見た。その瞳に含まれる色は、不審者をみるような色。
「じゃあ、わたし、後は一人で平気だよ」
『本当?』
「うん。一応、方向音痴ではないからね」
どこかの誰かさん達が聞いたら、一斉に反論と渋い表情が返ってくるだろうその台詞を、わたしはサラリと口にした。
今までのわたしの行動を知らないシナちゃんは、もちろんあっさりその言葉を信じる。
だって、これ以上シナちゃんに迷惑かけてたら、きっとこの侍女さんのわたしに対する視線が、不審じゃなくて殺気にかわる。
「シナマレリーン様、お父上がお待ちです」
「じゃあ、またね」
シナちゃんは、別れ間際までちょっと心配そうにしていたけれど、侍女さんの催促に負けて行ってしまった。もちろん、去り際には、軽いハグ付きで。
一人、広く長い廊下に残されたわたしは、とりあえず歩き出した。
でも、やっぱりわたしは自分を買いかぶり過ぎていたのかもしれない。
・・・・・・・・完全に迷いました。
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「うーん、わたし、方向音痴なはずないんだけどなぁ」
頭をかきつつ、自分のこれまでの行動など振り返ってみた。
うん、やっぱり、場所がいけないだけだね。わたしのせいじゃないね。
「でも、どうしようか・・・」
そういえば、二―ルくんとセピアの姿が見えない。二人にも、なにかすごい偉い地位なんてあったら、わたし、今度こそ本気で泣くから。
そう思いつつ足を進めていると、廊下の突き当たりに来た。迷わずそこを曲がれば、何故か裏庭に出てしまった。
ほんとに、ここの城の造りはどうなっているだろう?
半分探検家になった気分で歩いていたわたしの耳に、鋭く風を切る音がはいってきた。
その音は、何度も何度も繰り返し風を切っているようで、同じ音が幾重にも重なって聞こえる。騎士さんか誰かが、訓練でもしているのかと辺りを窺えば、なんとも奇妙な光景を目にした。
「・・・・・おぉ」
確かにわたしの予想は当たっていた。誰かが、剣の練習をしていたのだ。
でも、その誰かまでは、さすがに無理だ。だって、誰も思わないでしょうよ。
―――男顔負けの剣さばきを披露していたのが、ドレスを身に纏った黒髪の美少女だった、なんて。




