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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第四章:今明かされる真実達
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Ep.5


 どうやってみんなの所へ帰ろうか。

 先ほどから、わたしの考えはそこから離れない。大して頭の回転が速いわけでもなく、地理にも疎いわたしに出来る事なんて高が知れてるというものだ。

 あー、こんな事なら、リディアスに市場まで連れて行ってもらうんだったな。

 そんなこんなで悩んでいたわたしの雑念を吹っ飛ばす声が近くから聞こえた。


「ガフッ」


 振り向いた先に居たのはもちろん。


「・・・・・セピ、ア?」

「グォ」

「・・・・・セ~ピ~ア~!!」

「!」


 女の子の手を繋いだまま、わたしは反対側から進んでくるセピアを目指して走った。そして、そのフサフサした背中に腕を回して抱きしめた。

 今の気持ちは、さながらあの有名な犬と男の子の友情物語のよう。寒さで震えていて、それでも主を探して雪の中を歩き、最後には主と共に安らかに逝った犬。そして、最後まで人としてのやさしさを忘れなかった健気な少年。


 ・・・・・・くそ、思い出しただけで涙が出てくるじゃないか!


「?」

「あ、うん。大丈夫」


 実際、ちょっと涙目にもなっていたらしい。いかんな。普段はそんなに涙脆くないわたしでも、あのアニメの最終回のシーンを思い出しただけで、少し目頭が熱くなってしまうのだから。女の子が不思議そうに首を傾げてわたしを見てくる。すぐになんでもないと返事をして、わたしは立ち上がった。


「セピア、サンジュ父さん達どこかわかる?」

「ワフッ!」


 ほんと、君は賢いなぁ。彼の頭を撫でながら、ちょっと遠い目になった。わたし、狼にまで世話をかけてるな。

 セピアに続いて歩き出そうとした時、片袖を捕まれた。

 見れば、フランス人形のような美少女が、何かを言いたそうに佇んでいる。

 あ、そうだ。彼女も家に返してあげないと。


「大丈夫だよ。わたしの仲間と合流したら、きっとわかるって」


 なんとなく、あの人達ならなんでも知っていそうな気がするんだ。いや、絶対なんでも知ってると思う。

 すると、少女がわたしの言葉を否定するように首を振って、どこか別の方向へ歩き出した。もちろん、わたしの腕を掴んだまま。


「わっ!・・・ちょ・・・」


 抗議の声を上げようかとした時、少女と目があった。

 その笑顔がすごく可愛くて、文句をいう事も出来なくなる。笑顔でわたしを見た彼女は、まるで「ついて来い」とでも言っているようだ。

 いいなぁ、可愛い子は。こうやって笑ったら、文句を言いたくなる人の気力削いじゃうんだもん。わたしがもし、そんな事をしようものなら、絶対ルイさんやカインに末代までからかわれる事請け合い。


 ほんと、なんで神様はわたしをもっと美人にしてくれなかったんだ。

 少女に連れられるがままに、わたしは歩いた。その隣を、セピアが悠々と歩く。どうやら、彼女の目的地はセピアを一緒であるらしかった。だから、セピアは何も言わないのかもしれない。

 二人の後ろ姿を観察しながら、ここまで推測できたわたしって、ほんとすごい。もう、観察力で言えばかの有名な少年探偵に勝るとも劣ら・・・・いや、絶対劣るから何も考えなかった事にしよう。


 それにしても、この美少女と狼セピアに、どういった共通点があると? 


●  ●  ●  ●  ●  ●  ●


「・・・・あの、さ」


 隣に立つ少女が、天使とも見紛う輝かしい笑顔でわたしを見た。

 もう、何も言うまい。

 今、わたしが居るのは大きな門の前。いや、大きな門というよりも、巨大な門と言った方が正しいかも。・・・・・だってこれ、お城の門みたいだから。

 小高い丘を登った先にあったのがこの門。いや、本当に本当のお城だよね。

 少女が、「こっちこっち」と言うようにわたしの腕を引っ張ってその門の中へ堂々と入っていった。門番の人達は、彼女を見ても何も言わず、逆に敬礼をしていた。


 ほんともうなんなのさ!?


 引っ張られながら、わたしは少女を見た。

 もしかして、この国のお姫様とかいうオチじゃないよね。そんなメルヘンチックなオチわたし要らないんだからね!?

 少女がスキップでもしそうな勢いで、城の中へ入り、そのまま物凄く長い廊下を歩いていく。ちなみにわたしはもう少女に操られるように歩いていた。

 時々、人と出くわしたが、誰も咎める事はなかった。逆に、微笑ましそうに少女を見ている。そりゃあ、こんなに可愛い子が明るく歩いてたら、微笑ましくもなるわ。だから、お願い。もう、わたしを放して・・・・惨めになるわ・・・。


「シナマレリーン様、お兄様が、お待ちですよ」

「・・・・」

「大広間の方に」


 途中、侍女さんみたいな女の人が少女に声を掛けていた。シ・・・ナ・・・なんていった、この子の名前。長いんですけれど。

 女性の話を聞いた後、少女の頬は高潮していて、すごくうれしそう。何かいいことでもあるのかな。

 頭の端ではどうでもいい事を考えながら、わたしは足を進めた。


 正直に言おう。わたしは今、お城の中に居る。あの、移動車の座席で見た立派な城の中に。けれど、観光できるほどの余裕を持っているはずもなく。お城の中に居る事を忘れた状態で、頭の中は少女の正体と今自分が向かっている場所の究明で一杯になっていた。

 しばらく歩いた後(大体二十分くらい?)わたし達は、それはそれは立派な扉の前に居た。

 ここで、自分が改めてお城の中に居た事に気づく。

 むちゃくちゃ大きな木材の扉には、目を細めないとよくわからない所にまで基目細やかに彫り物が施されていて、天使やら女神やらが踊ってる。


 ・・・・・ねぇ、帰っていい?


 誰に問うわけでもなく、わたしはふとそう思った。

 昔、良く、お姫様になりたいなぁとか夢見てた時期はあったさ。それは、つい先ほどまで変わらなかったさ。でも、今変わった。根っからの民衆派のわたしは、今すぐ市場に帰りたい。サンジュ父さん達のとこに行きたい。

 そんなわたしの心の葛藤を知るはずもなく。少女の瞳の会話によって(多分そう)扉が開かれた。もちろん、開いたのは扉の前にいた騎士・・・さん。白と緑の色彩を纏った彼は、結構かっこよかった。


 うわぁ、生で見ちゃった!生で見ちゃったよ本物の若い騎士をっ!!


 さっきまでの不安を取り払って、わたしは興奮した。誰だって、綺麗なモノを見ればテンションは上がる。それが、絶対に見ることは出来ないだろうと思っていたものなら尚更。


 少女に引っ張られながら扉の潜れば、そこは大きなホールがあった。世に言う、大広間ってやつ。

 くらってきた。眩しくて目が眩んだ。

 今が昼間のせいだろう。壁を取り囲む大きな窓達を通して、柔らかい太陽の日差しが大広間全体を綺麗に照らし出していた。全体的なイメージで、教会を思い出したのは、そこがとても神聖な感じだったから。あくまでも感じで。わたしには、何が神聖でそうじゃないかなんてわかるはずもない。

 天井の中心には、ルネッサンス時代を思わせる異様にリアルな天使達の絵が描かれていて、すごく圧倒された。あれだ、よく、美術の教科書の中に紹介されているリアル過ぎて圧倒される人々の絵。


「・・・っ!」


 突然、腕を掴んでいた少女の重りが離れた。

 完全に彼女に体重すらも任せていたわたしは、彼女が離れると共に床に尻餅をついた。うーん、やっぱりいきなりの衝撃は辛いな。

 ジンジンするお尻を擦っていると、心配してくれたらしいセピアが鼻をわたしの頬に押し付けてくる。


「あぁ、大丈夫だよ」


 安心させようと彼に声を掛けた時、第三者のそれはそれは大きな声が大広間に響き渡った。


「マツリ!!」


 あまりに大きすぎて、わたしは反射的に自分の両耳を塞いだ。あやうく鼓膜が破れるところだったよ。最悪の事態は免れたけれど、それでも防ぎ切れなかった音が耳の奥で反響している。


「・・・・・」


 そんな事よりも、今、注意をしなければいけないのは・・・・・。

 自分の名を呼んだ声には、すごく聞き覚えがあった。前にもなんか同じ事が会った気がする。わたしが建物に入ってきた途端、周りに響き渡った低くドスの聞いた野太い声。


 もしかしなくてもさ。


「お前は!!そんなに俺達が嫌いかっ!?・・・・いつもいつもいつもいつも勝手に居なくなりやがってっ」

「・・・・う・・」


 サンジュ父さんが、わたしの前に立って怒鳴ってきた。

 怖くて、顔が上げられなくて、俯いてしまう。

 サンジュ父さん、キレるとほんとおっかないから、嫌だ。


「・・・仕方がないだろう。これはもう、一種の才能だ」


 続いて聞こえた深みのある声には、呆れた声音が混じっていた。もちろん、これはバーントさん。どうやら、サンジュ父さんの隣にきたようだ。

 ふん、そんな才能要らないやい。

 バーントさんの言葉に、心の中で批判しておく。

 確かに、自分は勝手に居なくなる事がただある。しかしそれはすべて理由があってのことで、わたし自身が悪いわけではない。・・・・カラナ―ルの件は、わたしに非があるけども。


「・・・・」


 二人に見下ろされてる感じがして、さらに顔が上げられなくなる。

 うぅ、怖いよぉ。

 なんか、お父さんに説教されてる娘の気持ちを実体験している気がした。

 どうしようかと思案していれば、突然目の前を遮った深緑。


「?」 


 何事かと思って顔を上げれば、さっき走り去ってしまったはずの美少女が、サンジュ父さん達とわたしの間に立っていた。

 手には何か、スケッチブックみたいなものを持っていて、その手には羽ペン?らしきものが握られている。不思議に思いながら彼女を観察していると、少女は何かをそのスケッチブックに書き始めた。

 俯いていた顔を上げて初めて気がついた。


「・・・・!?」


 人は、ほんと、やろうと思えば色々出来るんだよ。可能性は無限大。

 わたしは、床に付いていた両腕を使って、一気に後方へと後ずさりした。それはもう、風の反動でわたしの髪の毛が煽られるぐらいすばやく、大広間の扉の前まで一気に移動した。


 見よ、忍者顔負けのこの瞬間移動的移動速度。


 でも、わたしはそんな馬鹿な事だけを考えていたわけではない。


「・・・な・・・・み・・・・い・・?」

「支離滅裂だ。はっきり言え」


 そう言ったのは、もちろんカイン。


「無理もありません。マツリさんも、驚いているのでしょう」


 これはコウヤさん。

 その周りには、もう、おなじみ過ぎる面々が揃いも揃って並んで立っていた。

 問題はそこじゃない。こんなの普通だ。みんなが居るだけで、なんで驚かなきゃいかん。

 そう、わたしが一番驚いたのは、みんなの纏っている服装の事。


「・・・あ・・れぇ?わたし、もう、ボケたのかなぁ」


 頭を擦りつつ軽く現実逃避を開始しようとした。


「何を言っているかは分からんが、安心しろ、お前は正常だ」


 けれど、すぐさまカインがご丁寧に訂正してくれる。そんな彼が今纏っているのは、さっき扉の前で会った騎士さんと同じ服。いや、彼の場合白と金で構成されていて、明らかに一流騎士ですって言った感じ。


「・・・」 


 よく見れば、サンジュ父さんも着ていた。しかし、彼はその上から銀の鎧みたいなものをつけていた。右肩から胸に掛けて。見るからに隊長してます、的な。

 バーントさんもコウヤさんもルイさんも、いつもの旅装束ではなく、こざっぱりとした服装に変わっていた。彼らは揃いも揃って、丈の長い袖なしの白い羽織りを着ていた。それは、廊下ですれ違った人達が着ていたものとほぼ同じ。違うのは、縁取りの色が金だという事。


 あからさまに、俺達重役ですよ、みたいな空気を纏っていませんか?・・・・あれ?


 わたしの動揺に気づいているのか居ないのか、ルイさん達が集まってきた。美少女は、すごくうれしそうにルイさんの腕に捕まっている。


「・・・・あ」


 そこで見つけた共通点。でも、まさか。

 わたしの目の前に立ったルイさんが、超絶甘スマイルをわたしに向けてきた。「獄」じゃないだけましかもしれないけれど、これもこれで大ダメージが・・・・。


「マツリ、すまないね。妹が世話を掛けたようで」

「・・・い、、もう・・・と?」

「あぁ。彼女は私の血の繋がった実の妹、シナマレリーンだよ」


 シナマ・・・めんどくさい、シナちゃんでいいや、が、わたしに頭を下げてきた。


「あ、いいえ!」 


 すぐに頭を上げるように促して、目の前に立つルイさんとシナちゃんを見比べた。確かに、似てる。髪の色はちょっと違うけれど、どちらもストレートで長いし、瞳の色は同じ水色。何より、二人共かなりの美男女。間違いなく血が繋がってるね。だからか、あの時、シナちゃんが見せた笑顔を別の場所で見たと思ったのは。二人共、同じ超絶甘スマイルを所有している。

 それにしても、まさか、ルイさんに妹が居たとは。

 この国のお姫様ですよって言われるよりも遥かにすごい事実かもしれない。

 呑気に情況整理をしているわたしの耳に飛び込んできた言葉達。


「コウヤ司令官、例の件について指示を扇ぎたいのですが・・・」

「将軍、では、我らの稽古時刻は夕方に変更になります」

「カイン隊長もそれでよろしいでしょうか」

「ルイシェル医師長、医研究室にて薬の配合の確認願えますか」


 あぁ、もう、ごめん。何に突っ込んでいいのかさっぱりわかんねぇや。


 とりあえず、考えるのは止めようかと思った。だって、また受領オーバーとか嫌だし。

 そう決意して、脳内に残った突っ込み難い単語達を排除しようとした。その時、止めとばかりに聞こえてきた言葉。


「右大臣殿、只今、王が・・・」


 そう呼ばれた先に居たのはバーントさん。

 続いて聞こえてきた声。


「おぉ、みんな帰ってきたか」


 人々の視線が一気に大広間の奥にある螺旋階段の奥に向けられた。

 一斉に周りのみんなが膝をついて頭を垂れたので、わたしも慌ててそれに習う。もちろん、シナちゃんもだ。

 でも、数名違う人が居た。

 それは、わたしの旅の仲間達。みんな跪いてこそないが、それでも頭を下げていた。しかしそれだけ。・・・・あれ、これって、みんな、相当地位が高いとかなんとか?


「いつも済まぬな。疲れたであろう。・・・・きちんと旅の疲れを癒せ」

「仰せのままに」


 バーントさんが頭を下げて王に言葉を返した。


「お前達が居ないせいで、我らも随分退屈していたぞ」

「えぇ、本当に」


 王と、お妃様らしき人の笑い声が聞こえた。


「皆、無事でなによりだ」



 ・・・・・ごめん、わたしの脳は早くも受領オーバーです。

 


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