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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第一章:すべての始まりはここから
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Ep.4

主人公が痛いターンがしばらく続きます。


「さ、相良茉里です」

「マツリ?聞いた事がない名前だな」

「お姉さんは、どうしてあんなところに居たの?」


 わたしの名前に首を傾げたおっさんを尻目に、男の子が話しを進めていく。そんな彼を、大男が何か言いたそうな顔で見つめていたが、あいにく彼は男の子の背後に居るので、気づかないようだ。


 それとも、あえて気づかない振りをしているのか。


 とにもかくにも、将来大物になりそうな予感のする子供だ。

 わたしは正座をし直して男の子と真正面から向き合った。

 彼と話ながら、わたし自身の頭の中も、整理していこうと思った。今の段階では、まったく何が起こっているのかわからない。

 隠すのも馬鹿らしく思えたので、素直に告白してみた。


「・・・・・自分でも、よくわからない」

「?」

「自分の部屋のドアを開けたら、床がなくって・・・・・そこにあった穴に落ちたら、ココに居た」

「「「「・・・・・・・」」」」


 荷台に沈黙が落ちる。


 うん、まぁ、わかっていた。誰がこんな話信じるというのだろう。もし、わたしが彼らの立場だったら、絶対頭のおかしい娘だと思う。


 それでも、わたしには一番に知らなければいけない情報が欠けていた。だから、ここで聞いてみる。


「・・・ねぇ、ココはどこ?」


 どこか、遠く日本から離れた国だろうか。

 飛行機か船で帰れる距離だといいんだけど。お金の事は後で考えるとして。

 現実的に帰り方を考えてみる。

 あぁ、約束に遅れるから、後で連絡も入れなくちゃいけないな。

 すると、男の子の声が聞こえてきた。


「どこって・・・・アルゼンテンとセイレスの国境だよ?」


 男の子が首を傾げながらも、質問に答えてくれた。その顔は、「どうしてそんな事を聞いてくるんだろう」的な感じ。


 わたしの思考が一気に凍りついた。

 彼の口から零れた単語は、まったく聞き慣れないもの。

 少し、体が震えた。

 それでも、無理矢理自分を奮い立たせて、更に質問してみる。


「日本・・・・・東京って、どうやったら帰れる?」


 一生懸命自分を保たせようとしたが、聞こえてきた自分の声は完全に震えを含んでいた。

 大丈夫、きっとここはわたしの知らない国の町なんだ。


 すると男の子が、明らかに困惑したようにわたしを見た後、後ろに居る三人の男達を振り返った。その視線の受けた男達も、明らかに困惑している。話が見えていない様子だ。

 だけど、わたしにはどうでも良い。どんどん、頭が混乱していくのがわかった。


「東京よ。・・・に、日本の中心都市の」

「・・・・」

「じゃ、じゃあ、アメリカは?イギリスは?中国は??」


 誰もが一度は聞いたことがあるはずの国の名前を出してみた。

 それでも、男の子の表情は変わらない。

 そこで、一つの可能性が頭の中をよぎる。

 

 嫌だ、絶対に、認めない。


「ここ、地球でしょっ!?」

「「「!!」」」


 わたしは衝動的に男の子の肩を掴んで、前後に揺らした。

 この行動が更に自分の立場を危ぶめるものだという事は分かっていたのに、わたしは止められなかった。止めずにはいられなかった。


 しかし当然といえば当然のように、すぐに男の子から離され、剣を喉元に当てられた。この時、きっとわたしは危険人物として彼らに認識されてしまったに違いない。けれど、そんな事どうでも良かった。その時のわたしは、先ほどまで味わっていた恐怖とはまったく違った恐怖を抱えていたから。


 剣先の冷たさが、現実を突きつけてくるような気がして。


 こんどは、傍目から見てもわかるだろうと思うほど激しく、体が震え始めた。

 その衝動で、首筋にチクリと痛みが走り、何かがそこから流れ出した。それが血だと気づくのに、そう時間は掛からない。

 首に手を当て、それから手の平を見る。

 見えたのは、どす黒い赤。感触も何もかもがリアルで。

 

 認めたくない、認めたくない。・・・嫌だ、いやだっ。


「お前・・・」


 おっさんは狼狽の表情を浮かべ、持っていた剣をわたしから離した。その時、わたしの頬を何かが伝う。首から垂れているものとは違う何か。


 男達の表情が少し変わった。


 けれど、今のわたしにそれに気づく余裕なんてなかった。

 

 体の半分が考えを拒否して、もう半分が懸命に現実を受け止めようとする。

 パンクしそうになった。

 頭も、心も、体も、すべて受領オーバだ。

 


 そう気持ちが悟ったとたん、わたしは人生で一番馬鹿な行動を取った。

 


「お、おいっ―――」

「「「「!?」」」」

「お姉ちゃん!?」

 

 背後から、驚いた声と気配を感じた。

 

 そんな事、どうでもいい。

 もう、すべてがどうでもよかった。


 わたしは、走っている荷台の上から飛び降りた。

 自分の意志を持って。

 簡単にいえば、自殺になるのかもしれない。


 それでもよかった。

 厳しい現実に向き合うくらいなら、認めたくない現実を見なければいけないのなら。

 

 死んだ方がマシだ。

 

 そもそも、生き続ける理由はなかったから。

 元の世界でも、罪にさいなまれて生きてきたわたしなんか、がんばる必要なんてどこにもない。



 絶対に信じたくなかった。

 

 ―――自分だけが、世界から切り離されてしまった事を。

 

 ―――地球以外の別の世界に来てしまったという事実を。



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