表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第四章:今明かされる真実達
49/107

Ep.2


 この世界の夜は本当に静かで真っ暗だ。 


 日本であれば、車の行き交う音とか、都会のネオンのせいで少しは騒々しくなるのに、ここではそう言ったことはまったくない。

 今居るのが森の中だから、余計にそう感じるのかもしれないけど、それでも、周りは何も聞こえない。時々聞こえてくるのは、動物や虫の鳴き声だったし、わたしを照らしているのも、月と星の光だけ。


 でも、わたしはこういうの、嫌いじゃない。不便ではあるけれど、これが自然なんだと実感出来て、なんだかほっとする。

 体操座りをした状態で空を仰げば、満天の星が夜空を覆い尽くしていた。

 木々の生い茂っている場所と、湖の境界線の所にいるので、星達がいつもより近くに感じる事が出来た。

 一人で星を見上げながら、数日前の会話を思い返す。


●  ●  ●  ●  ●  ●  ●


『今はまだ、何も、言えない』


 素直に打ち明けたわたしの気持ちは、サンジュ父さんの苦しげなその一言に打ち消された。

 みんなも、申し訳なさそうな顔で、それでも何も言わなかった。


『これは、我々だけの問題ではない。そう簡単に、口は出来ないんだ』


 バーントさんが言った。


『でも、ダンジェルに着けば、すべて話してあげられる。それまで、待っていてくれるかい?』

『私達は、決してマツリさんを信用してないというわけではありません。わかってくださいますか』

『ただ、まだ、言えないんだ』


 ルイさんもコウヤさんもカインも、ただ「今は言えない」と繰返すだけだった。

 けれど、ダンジェルに着けば、すべてがわかると。

 その時の彼らの表情がすべてを語っていたように思えたから、だから、わたしは待つ事にした。

 サンジュ父さんが時々、ちょっと難しい顔でわたしを見ていた理由が少しわかったと思う。きっと、自分達の正体は隠している事が、後ろめたかったに違いない。

 いいんだよ。

 わたし、信じてるから。

 みんなが好きで隠し事をしてるわけじゃないって事も、いつかちゃんと話してくれるって事も。


●  ●  ●  ●  ●  ●  ●


「・・・・」


 本当に、空、綺麗だな。

 昔見た、プラネタリウムみたい。

 星の光がどことなく青く見えるし、光の強弱もちゃんとわかる。昔、誰かが、「雪が、空から降って来た星に見えた」って言っていたけれど、今なら分かる気がする。確かに、こんなに小さな光が振ってきたら、雪みたいに見えると思う。

 あんまり星とか星座には詳しくないけれど、ここまで満天の星達を見たら、なんだか星座を探してみたいって気持ちになった。

 北斗七星とか、こっちにもあるんだろうか。

 ふと頭を過ぎったのは、有名な星。

 地球では、北斗七星はいつも北にあるから、旅人達の道標の役割を果たしていたらしい。こっちの世界にも、そういう道標の役割を持つ星ってあるのかな。

 もしあったら、迷った時、その星を目印に進んでいけるのに。わたしが一人で迷った時も、星を頼りにまた、ちゃんとみんなの所に帰れるのに。

 そもそも、星座っていうのがあるのかも些か疑問ではある。

 うん、今度聞いてみよう。

 そこで一旦考えをまとめた所で、立てていた膝をもっと自分の方に寄せた。

 それにより、体操座りをするわたしはもっと小さくなった。

 後ろから、人の歩いてくる足音がして、その体制のまま後ろを振り返った。


「星、好きなのかい?」

「・・・あ、ルイさん」

「隣、いいかな?」

「どうぞ」


 体操座りで縮こまってるわたしを不審に思うこともなく、ルイさんは隣に腰を下ろすとわたしに習うように夜空を見上げた。

 ルイさんはよくわたしの元にやってくる。こうやって、夜一人で居ると必ずといっていいほどわたしを迎えに来てくれる。心配してくれてるんだろうけど、ちょっと過保護過ぎやしないかな。

 マントを着ていないルイさんは、どこかゆったりとした仕草で星を見上げている。


「・・・・・」


 本当に、絵になるよなぁ。

 整いすぎているルイさんの横顔にわたしの目は釘付けだ。そのバックには満天の星空。

 あぁ、羨ましすぎる。なんで彼は男なのに、女のわたしよりこんなに綺麗なんだろう。しかも踊りは出来るし強いし、・・・魔王だし。

 コウヤさんもバーントさんも男前で取っ付き難い所もあるけど、良い人達だし。

 サンジュ父さんは、かっこいいけどおっさんだし、カインはちょっと切れやすいけど、でも二人共すごく強くてやさしい。


 ・・・・神様は不公平だ。なんでわたしにもっと使える特技とかくれなかったのさ。美貌はもう諦めるとしても、物覚えの良さとか、反射神経の良さとか、欲しいものはいっぱいある。そのどれも、今のわたしは持ってはいない。

 だからいつも、みんなの足手まといになってしまうんだ。


「ん?」

「あ、ううん。なんでもない」


 不思議そうにわたしを見てきたので、慌てて視線を外して誤魔化した。

 いかんいかん。

 最初はただ彼の横顔に見蕩れてただけなのに、いつのまにか神様に文句言ってた。わたしの思考回路って時々変なところに行くからなぁ。気をつけないと。


「あ、そうだ」


 せっかくルイさんが居るんだし、ここで星座の話とか聞かせてもらおう。


「ねぇ、ルイさん。この世界って、星座とかあるの?」

「・・・・・まぁ、あるけど・・・」

「じゃあ、北斗七星とかある?」

「北斗、七星?」


 やっぱり、これは日本の言葉になっちゃうのか。


「そう。・・・北にある七つの星のことなんだけど。ちょうど柄杓・・・こんな感じの形で、旅人の道標になる星」

「・・・・七星(しちせい)()のことかな」

「七星、都?」


 それはまた、不思議なお名前だことで。


「そう。この国首都の真上にある七つの星の事だよ。北・・・ってわけではないけれど、旅人達の道標にはなっているよ。四季を通して、絶対に動かない星達だからね」

「へぇ」


 同じだ。わたしの世界にある北斗七星と、同じ。


「マツリ、明日にはダンジェルに着くよ」

「ほんと?」

「あぁ。・・・でも、頼むから迷子にはならないでくれるかい?」

「・・・・・」


 失礼な。

 それじゃあまるで、わたしが小さなお子様みたいじゃない。迷子の件は、わたしにだってどうしようもない事なんだから、文句を言われたって困る。


「君が私達から離れなければいいだけの話だよ」

「・・・確かに」

「今度また君が居なくなったら、本当に困るからね」

「二―ルくんも、最近じゃ、わたしの行動に敏感だもんね」


 わたしがちょっとみんなから離れるたびに、どこに行くか聞いてくるもん。

 二―ルくん、なんだか旅の一行のみんなに似てきたかも。無言で抗議してくる所はバーントさんとかコウヤさんみたいだし、時々口うるさくなる所はルイさんやカイン、サンジュ父さんに似ている。・・・・・そうか、こうして子供は大人になっていくのね。

 そこでわたしは、ちょっと遠い目になった。


「二―ルもだけど」


 わたしの言葉にルイさんは苦笑した。

 それから片方の手をわたしの頬に添えてくる。

 彼の手の動きに合わせるかのように、わたしの顔も自然とルイさんの方を向いた。


「・・・ルイ、さん?」

「二―ルだけの話じゃないよ」


 ルイさんが耳元に口を寄せながら、内緒話をするように耳打ちをしてきた。

 彼の首元が目の前にあって、少し良い匂いがした。これが、ルイさんの匂い、なのかなぁ。男の人なのに、良い匂いだ。


「私だって、マツリが居ないと、困るんだ」

「っ!?」


 すぐ傍で囁かれたその美声にもだけど、その内容に吃驚した。

 十九年生きてきて、こんな事言われた事ない。


 困る?・・・困るってどういう意味!?


「さて、もう行こうか。そろそろ寝ないと明日が辛いよ」

「る、る、ルイさん・・・」

「なに?」

「あの、困るって・・・・」

「そのままの意味だよ」

「・・・」

「さぁ、帰ろう」


 ルイさんが手を差し出してきた。断る理由を思いつけなかったわたしは、素直にその手を掴んで立ち上がる。そのまま引っ張られながら歩いた。

 よかった、今が夜で。

 ルイさんと手を繋いで歩きながら、わたしはそう思った。


 きっと今、わたしの顔、真っ赤になってるだろうから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ