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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第三章:一時帰国と永遠の別れ
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Ep.4


 「つまり、ここはマツリさんの生家だと」

 「生家っていうか、まぁ、祖母と暮らしている家ですね」 

 「・・・・・・なら、何故オレ達まで居る。マツリは元の世界に帰ってきたんだろ」


 自室の真中で、顔を見合わせながら、わたし達は情況確認を行なっていた。


「マツリさんがいきなり光を放ち始めたのが、原因だと思ってまず間違いはないでしょう。そして、あなたの下に現れた大きな空間を通して、私達はこちらにやってきてしまった」


 コウヤさんが、淡々と情況説明をしてくれる。

 わたしもカインも、聞き役に回るしかない。


「その時、私とカインがあなたの腕を掴んだ。そこで、空間が捻じ曲がり、マツリさんと物理的に交渉を交わしていた我々二人も共にこちらにやってきた、ということになりますね」

「・・・・ですね」


 あの時見えた二つの腕は、彼らのものだったのか。


「その、ありがとう。・・・・・わざわざ、手を伸ばしてくれて」


 ちょっとテレ気味に礼を言えば、コウヤさんは何でもないと言う風に首を振った。

「実際のところ、ルイや団長達もあなたを掴もうとしてはいたんですよ。ただ、一番動きの速かった私とカインが一番先にあなたに辿り着いた。・・・・でもよかった、怪我もありませんね」

「はい」


 コウヤさん、言ってる事とその表情がまったく違いますよ。せめて小さな微笑を浮かべてくれと頼むのは、わがままなのかな。怪我の心配してもらっているのに、すごく複雑な気持ちになった。


「いきなりだったからな。あれだ、条件反射という奴だ」


 カインが、何故か怒ったように弁解してきた。

 本当に彼は素直じゃないんだから。

 そこで、コウヤさんが思い出したようにわたしに視線を移してきた。


「マツリさん、あなたのおばあ様は?」

「!」


 その言葉に、わたしは飛び上がる。

 コウヤさん達に構う事なく、部屋を飛び出してリビングに向かった。

 胸の痛みを感じていた時に見えたものが、現実でなければいい。あれが、わたしのただの幻想ならば。 

 とりあえず、祖母はリビングにもキッチンにも居なかった。

 部屋の方を覗いても、誰も居ない。


 ・・・・・・おかしい。


 外はもう日が暮れかかっていて、時間帯は夕方だと言うことを知らせてくれる。普段、祖母は日中に出掛けるのが常で、夕方は絶対家に居るはずだ。

 どうしようもない不安に駆られたわたしは、コウヤさん達に部屋から出ないように伝えて、家を出た。

 マンションの廊下を歩き、近所を探すためにマンションのエレベーターの前に立つ。


「茉里ちゃん!?」


 エレベータを待っていると、突然後ろから声を掛けられた。

 振り返れば、隣に住む小母さんが立っていた。

 驚いたようにわたしの姿を凝視していた彼女を疑問に思ったところで、わたしは、自分がむこうの世界の旅装束のままだと言うことに気づいた。

 小母さんは、わたしがコスプレでもしているのだと思ったのだろう。

 すごく厳しい視線で眉を顰めた後、呆れたように溜息をついてきた。


「・・・志乃さんが倒れたっていうのに、あなたは呑気に・・・」

「・・・・え?」


 小母さんの言葉に、わたしの周りの時が止まった。

 志乃とは、わたしの祖母の名前だ。 

 小母さんは、軽蔑を含んだ眼差しをわたしに向けてきたまま、事のあらましを話してくれた。


「志乃さんが倒れたのよ、二週間ぐらい前に。あたし達はどうにかあなたに連絡を取ろうとしたけれど、どこに居るかもわからなかったから、どうしようもなくて。志乃さんが、茉里ちゃんはちょっと遠出しているだけだからって言ってたから、待っていたのよ。・・・・なのに、あなたったら」

「・・・祖母の、容態は?」

「二週間前に担ぎ込まれて、それから一度も退院は出来てないわ」

「・・・・・・」

「早く着替えて、志乃さんのところに行きなさい。あなた以外に、身内の方なんていないんだから」


 小母さんのその言葉を聞き終える前に、わたしは自分の家へと全速力で引き返した。


「マツリ!」

「ちょっと出てっ」


 自分の部屋まで戻ると、中で待っていたコウヤさんとカインを一旦部屋から追い出し、自分の服を着替える。それから、コウヤさん達にも、祖母が取っていた父の服に着替えるように指示した。

 やはりさすがというべきか。彼らはすぐに自分で着方を見つけ出したようで、わたしが説明する必要もなかった。


「カイン、これ被って」


 深緑のカインの髪は、この世界では異様過ぎる。だから、部屋を出る時、わたしは彼にニット帽を被るように伝えた。

 コウヤさんには、髪を結んで貰って、とりあえず髪を短く見せるようにお願いした。

 エレベーターで下まで降りて、マンションのすぐ前でタクシーを捕まえる。小母さんに教えてもらった病院名を告げれば、タクシーは出発した。


「マツリ、一体どうしたって言うんだ」

 タクシーの中で、カインが不審そうに声を掛けてきた。

「祖母が倒れたって」


 抑揚を失った声で、わたしは簡潔に告げる。

 コウヤさんは、賢明にも無言を通してくれている。今は、その方がありがたかったけれど、わたしは祖母が倒れたという事実の方に気を取られていて、大切な事を失念していた。

 

 コウヤさんとカインにとって、この世界は異世界なのだ。

 わたしが初めて異世界を訪れた時に感じた不安を、彼らもまた、味わっていることに、わたしはこの時気がつく余裕さえ持ち合わせては居なかった。

 

 

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