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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第三章:一時帰国と永遠の別れ
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Ep.3


「けれど、彼はどうやらマツリを狙っていたみたいですね」


 男をその辺に無造作に放り投げたルイさんは、わたし達の元にやってきた。彼が傍にやってきた際、一瞬恐怖を覚えてしまったのは、人間としての本能だ。

 その事に、ルイさんは気がついたようだったけれど、特に何も言わなかった。

 彼の報告を聞いて、バーントさんが思案顔になった。


「・・・それでは、辻褄が合わない」

「あぁ、確かにな。マツリの存在を知っている者はそう居ない。ましてや、その素性を知っている者は俺達六人だけのはずだ」

「クゥーン」

「・・・・と一匹だ」


 サンジュ父さんの言葉に、セピアが小さく項垂れた。そんな彼に気づいたサンジュ父さんがきちんと訂正しておく。

 たとえ種族が違えど、セピアもちゃんとした彼らの仲間なのだ。


「それに、彼女を狙って得をする事など何もないはずでは」


 カインが口を挟む。

 その意に適った言葉に、みんな無言で考え込んだ。

 確かに、それもそうだ。

 それに、わたしが異世界から来たと言う事を知っているのは、サンジュ父さん達だけ。他の者達が知っているとは考えにくい。

 まぁ、異世界に居たわたしを見たっていう人がこの世界に居るなら話は別だけどさ。


「・・・・」


 そこまで考えて、わたしは少し自分の異変に気がついた。

 異変といっても、ただ、胸の辺りがちょっと熱っぽいって事だけなんだけど。

 無言で擦ってみる。

 布からも伝わるその熱さ。・・・この感じ、前にも感じた事がある。わたしが、夫婦と話して、未来を見ようと決心した時に感じた熱さに良く似ている。


「とりあえず、マツリが狙われてるんだとすれば、下手には動けんぞ」

「一旦、首都の方に戻るべきかと」

「私も、その意見に賛成です」


 わたしの周りで話が進んでいく。


「・・・・お姉ちゃん?」


 すぐ隣に居た二―ルくんが、わたしの様子がおかしい事に気づいたようだ。


「・・・・っ」


 胸の奥が更に熱を増し、尚且つ痛みを伴い出した事に気づいた私は、胸元を押さえたまま歯を食いしばってその痛みをやり過ごそうとした。

 おかしいおかしいおかしい。

 なんで、胸がこんなに痛いの。どうしてこんなに体中が熱いの。


「マツリ!」


 みんながわたしの周りを囲むように集まってきた事が分かった。

 その刹那、わたしの脳裏を過ぎった光景。

 


「・・・・・」

 愕然とした。

 そんなこと、あるはずがない。

 ここは日本から遠く離れた異世界で、わたしはもう長いことおばあちゃんには会ってなくて。


 ・・・・・わたしがこの世界にやってきて、元の世界ではどのくらいの時間が流れた?


 ふと頭を過った考えに、心が凍りついた。

 それに比例するように、胸の熱さが増していく。


「マツリ!!」


 サンジュ父さんに呼ばれ、顔を上げる。

 彼らが、思っていたよりも遠くに居る事に気づいた。

 いや、違う。

 わたしが、彼らを遠ざけているのだ。


「・・・・なに、これ?」


 わたしは自分の手を見下ろして、無意識の内にそう呟いていた。

 なんで、わたしが、こんなに輝いているのだろうか。

 まるで、自分自身が黄色い炎の中に放り投げられたように、わたしの周りは眩い位に輝いていた。そしてその様子をわたしは中から見つめていた。

 このせいで、みんなに近寄れないんだ。


「!?」


 ぼんやりとそんな事を考えていれば、突然変な浮遊感に襲われた。 

 前にも感じたことのあるそれは、確か、この世界にやってきた時同じで―――。

 抵抗する間もなく、わたしは突如現れた大きな真っ黒い空間の中に落ちていった。


 最後に見えた二つの手は、一体誰のものだったんだろう。



●  ●  ●  ●  ●  ●  ●


「・・・・・・・・・ぅ」


 わたしの意識が浮上した。

 それと同時に、耳元に感じる人の鼓動と背中越しに伝わる心地よい重さ。

 一体何が起きたのか。情況を整理しようと、わたしはゆっくりと目を開いた。


「・・・・」


 うーん、わたしは本当に疲れているらしい。

 目の前光景は到底信じられる物はなかったので、とりあえずもう一度意識を失おうかと本気で思案した。しかし、途中でその考えも遮られる。


「マツリさん」


 わたしを抱きしめるように倒れていたコウヤさんが、ゆっくり目を開けた。彼の一番近くに居たわたしの名を呼んだ後、何故か勢い良く上半身を起こしてきた。

 背中に回されている彼の腕により、身動きのとれないわたしは、彼と一緒に上半身を起こす。


「マツリ、ここ・・・は?」


 その後、近くから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「カイン」


 コウヤさんの胸元に頬を押し付けた形で座っていたわたしは、カインの姿を探した。


 彼は、居た。

 わたしの、ベッドの上に。


 そしてわたしとコウヤさんも居た。

 懐かしい、わたしの自室の真中に。

 

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

 叫び声を上げてコウヤさんから体を離したわたしは、動揺が治まらないまま今の自分の現在地を確認した。


 わたしの、家の、わたしの、自室。

 日本の、家の。



 ―――どうやら、わたしは元の世界へ帰ってきたらしい。カインとコウヤさんと共に。



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