Ep.1
昔々あるところに、娘さんとその仲間達が住んでいました。仲間達は山へ芝刈りに、娘さんは川へ洗濯に出かけました。
娘でんが川で洗濯をしていると、桃・・・ならざる、人影が、どんぶらこどんぶらこ・・・・と・・・・。
「・・・・て、二―ルくん!?」
娘さん―――ことわたし、茉里は、洗濯していた手を止めて、川の中を流れてきた二―ルくんを見て叫び声を上げた。
「おねーちゃーん!」
「・・・・」
あ、無事ね。
元気良く手を振ってきた二―ルくんを見て、一まず安堵する。
吃驚した。水の中を漂ってたから、死体かなんかに見えちゃったじゃないか。
わたしは手を止めていた洗濯を開始する。
わたし達、旅の一行は今、森の中を流れている川の近くでのんびりとした一時を過ごしていた。
といっても、ご覧の通り、わたしは洗濯物を洗ってるし、コウヤさんは移動車の掃除。他のみんなは、川やその付近を探索している。
何の用があってそんな事をしているのか、わたしが知るわけがない。
「マツリさん」
後ろから声を掛けられて、振り返れば、わたしが洗ったものを入れた洗濯籠を抱えたコウヤさんが立っていた。
「紐を用意しておきました。今日は天気も良いですし、すぐに乾くでしょう」
「はーい」
二、三枚残っていた上着を洗って、コウヤさんに続く。彼が向かった先には、木と木の間に結ばれた紐がいくつか並んでいた。
ここに洗濯物を干して自然乾燥させるのだ。
わたしとコウヤさんは手分けして洗濯物を紐に掛けていく。
こういっちゃなんだけど、コウヤさんって、旦那さんにはもってこいな人だと思う。こんな風に、炊事洗濯はしてくれるし、喧嘩も強い。そして何より、いい人なんだ。きっと日本に居たら、家計簿とかつけちゃいそう。・・・・・そのまったく動かない顔の筋肉はどうかと思うけども。
「・・・愛○勇気だけ○、友達さ~」
洗濯を干しながら、自然と歌を口ずさんでしまう。
選曲はもちろん、昔から日本全国民に愛されつづけてやまない、ある意味突込みどころ満載のあの有名なアニメの主題歌だ。
あのアニメは、本当に突込みどころ満載だった。今でも、思い出すだけで色々突っ込みたい気分になる。
最後のシーツを干し終わったところで、わたしはようやく、コウヤさんがじっとこちらを見つめていた事に気がついた。
現代っ子であるわたしが、人の視線など気づく事なんてまずないから、全然わからなかった。
いつもと違い、何か言いたそうなその視線を受けて、わたしは首を傾げた。
二人で籠を持って、移動車に戻りながら、その質問をぶつけてみる。
「どうかした?」
「・・・・いえ」
コウヤさんはそう言って一旦視線をわたしから逸らしたが、そのすぐ後、意を決したようにわたしに視線を戻してきた。
「・・・先ほどの歌・・・は、その、マツリさんが作ったんですか?」
「さっきの?」
「愛と勇気だけが・・・・友達、だと」
「・・・・・あぁ」
そこで、わたしは彼が何を云わんとしているのか察しが付いた。
思わず苦笑が零れるも、ちゃんと返答はしておく。
「あれはわたしの国の人気の歌なんだ。別に、わたしが作ったわけじゃないよ。ただ、ノリが良い曲だから、歌い易いんだよね」
「そうですか」
『ノリ』という言葉が果たしてコウヤさんに伝わったかどうかは些か疑問だが、彼はなんとなく察してくれたように返事を返してくれた。
そうか、コウヤさんも、わたしと同じ事を思ったのだな。
益々親近感を感じるではないか。
「掃除も大方終わりましたし、わたし達も、川の方に行きましょうか」
「はーい」
籠を移動車の中に片付けて、わたしはコウヤさんと一緒に川の方に向かった。
● ● ● ● ● ● ●
「おー、来たか」
わたしとコウヤさんに気づいたサンジュ父さんが、岩に座った状態で声を掛けてきた。
みんな薄着になって川の中を泳いでいたり、川縁で日向ぼっこをしている。
・・・・・いい年した大人が、寄って集って水遊びですかい。
「仕方ありませんよ。皆さんも、羽目を外したい時もあるのでしょう」
わたしの考えを読み取ったらしいコウヤさんが、宥めるようにそう言った。けれど、わたしは納得いかない。
「でも、コウヤさんはちゃんと働いてたじゃん」
「マツリさんも手伝ってくださいましたから、助かりましたよ」
「それならいいけどさ・・・」
わたしは言葉を切って、隣に立つコウヤさんを見上げる。
「・・・・・」
うーむ。本当に助かったのかどうか、彼の表情だけじゃ全然わかんない。
「それに」
わたしのそんな考えを知るよしもないコウヤさんが話しを続ける。そこでわたしは、自分の世界から現実へ戻ってきた。
「皆さんも、ちゃんと仕事はしてくれているんですよ」
「え?」
そう言って指差された先にあったのは、魚で溢れているバケツみたいな籠。
「あー、なるほど」
彼が何を云わんとしているかはわかった。
食料調達って事ね。
「いっぱい取れた!!」
二―ルくんが、満面の笑顔で走り寄ってきた。その両手に握られているのは、意気の良い魚二匹。彼の手の中で、すごい身を捩じらせている。
うわぁぁ、ちょっと絵的にどうだろうこれ・・・・。
「コウヤ、後でおいしい魚料理作ってね!」
「はい、もちろんです」
「あ、わたしもお手伝いします」
「そうですね。魚料理も作れるようになったほうがいいですしね」
「僕も手伝う~」
「はいはい」
二―ルくんを籠の所まで誘導して、魚くん達を放して上げるように促した。とりあえず、魚がビチビチ音を立てているその隣に長く居る勇気は、わたしにはない。
ルイさん達は、川辺でなにやら話し込んでいる。コウヤさんもその中に入っていった。
そんな彼らを眺めながら、わたしはセピアと二―ルくんと一緒に大量の魚を見ながら笑った。
後で、食べる分だけ残して、後は川に返してあげないとね。




