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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第二章:解けない過去の楔
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Ep.13

この話で二章は完結です。

 夏のはずなのに、氷点下の気温を感じるという、摩訶不思議な体験をしたその夜から数日後の昼、わたし達は、カラナールを出ることになった。

 

 コウヤさんの指示の元、わたしは食料品などを積み込んでいき、最終確認をしておいた。

 カインは、馬屋に預けていた馬を引き取って、移動車に繋げていた。

 サンジュ父さんも、バーントさんも、ルイさんも、それぞれ各自最終調整を行なっていた。


「また、遊びにおいで」

「色々、ありがとうございました」

「アタシも、楽しかった。・・・・久々だったよ。あんなに楽しい思いをしたのは」


 きっと、あの夜の事を言っているに違いない。

 あの後、収集をつけるのは一苦労だったんだ。わたしはいまだになんであんな風になったのか、原因がわからないけれど。

 一番苦労してたのは、コウヤさんとサンジュ父さんだった。

 あれを楽しかったと表現する姐さんは、ある意味強者だ。

 旅をしていると、必ず別れがある。だけど、姐さんの場合、バーントさんの恋人だから、またいつかきっと会えるんだ。

 そう思えば、寂しい事なんてない。


「ちゃんと、自分の足で立つんだよ」

「はい」

「・・・・もしも、好きな人が出来たりしたら、手紙でも書きな。相談相手にはなれるから」

「はい!」


 最後に軽き抱きしめられた後、わたしは移動車に乗った。

 二―ルくんもセピアも、少し寂しそうだ。でも大丈夫、すぐに新しい出会いをして、元気になってくれると思うから。

 ゆっくりと、移動車が出発した。


● ● ● ● ●


 しばらく、ゆっくりと走っていた移動車だったけど、窓から外の様子を窺っていたわたしは、その通りにある夫婦を見かけて、ストップを掛けてもらった。

 移動車から降りて、彼らの元へ走り寄った。


「あの!」

 その背に向かって声を掛ける。

「おや」

「あなたは、あの時の・・」


 やっぱり、あの時、リディアスを通して知り合った夫婦だった。


「あの時は、本当にありがとうございました。わたし、がんばって生きていきたいと思います」


 わたしは深くお辞儀をして、感謝の意を示した。

 そこで、二人の後ろに隠れている小さな女の子を見つけた。


「最後にあなたに言われた事をね、夫と相談したの」


 奥さんが、女の子の手を繋いで笑みを浮かべた。

 その笑みは、すごく柔らかくなっている。旦那さんもだ。

 二人も、乗り越えられたのだろうか。


「この子を、養子にしたんだ。彼女も、両親を亡くしていてね。ワタシ達が引き取った」

「そうですか」


 三人は、幸せそうに見えた。きっとこれから、もっと幸せになれるだろう。


「おーい、マツリ!」


 背後から、サンジュ父さんの声が聞こえた。


「今行く!」


 軽くそう返して、わたしは夫婦を振り返った。

 二人共、笑顔でわたしを見つめている。


「あなたも、一人じゃないのね」

「はい」

「・・・安心したよ」


 旦那さんがそう呟いた。

 二人が、わたしの事を心配してくれていたらしい事がわかった。


「わたし、行きますね。・・・・本当に、ありがとうございました」

「こちらこそ」

「君のおかげで、また進む事が出来るよ」

 二人に別れを告げて、わたしは移動車に戻った。




 人は、一人では生きていけない。

 支えあい、助け合って、生きていく。

 

 この世界に来て、ようやくその事が身に染みてわかった。


 わたし自身、あの夫婦の助けによって、前を見る決心ができた。

 あの夫婦も、わたしの言葉が少しは助けになって、新たな道を進み始めた。 


 この暖かい場所が、やさしい人達が、これからも笑顔で居てくれたら、わたしはなんだってやれそうな気がする。


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