Ep.6
カラナールという場所は、今まで感じたことがない異国の雰囲気を感じさせてくれる場所だった。
大きな石で出来たアーチ型の門を潜れば、すぐに賑やかな雰囲気のそこが、わたし達を迎えてくれた。
爽やかな感じで、港町みたい。・・・・まぁ、この辺りに海なんてないけど。
その場所全体が、石畳の道で覆われていた。中央の馬車が行き交う部分は白い石畳の道路で、両脇の歩行者専用の道が茶色のレンガみたいなので出来ている。
その道の両側を埋め尽くすように、小さな雑貨屋さんや店が、所狭しと並んでいる。
途中には、人工の川も流れていて、白鳥達が気持ちよさそうに泳いでいた。
人々も多くて、みんな楽しそうに買い物をしている。
すごい。たくさんの村や町が荒れている中で、こんなに賑やかな所が存在していたなんて。
首都は、一体どんな感じなんだろうか。
王の膝元と呼ばれる、この国で一番美しい場所とは。
「着いたようだね」
移動車の動きが止まり、窓から外の様子を窺っていたルイさんが、そう言うと同時に、移動車の扉が開かれた。
「みなさん、降りてください」
コウヤさんが開けてくれたのだ。
団長達に習って、わたしもニールくんと一緒に移動車から降りた。
「わぁ~」
窓から眺めていた時よりも、更にすごいその解放感溢れるその街の雰囲気に、なんだか感動した。今まで、どこか気落ちしていた町や村を廻っていたせいだろうか。
移動車が止まったのは、ある大きな建物の前。カインが移動車をその中へと移動させる。どうやら、そこが駐車場みたいだ。
その建物は、ホテルのようだった。
ここの常連さんなのだろうか。
でなければ、こんなに大きな場馬車がすっぽり入り込めるくらい大きな駐車場なんてあるはずがない。
「今日から一週間ぐらい、ここに泊まる事になるからね」
やっぱりホテルらしい。ルイさんがそう言って歩き始めた。
わたしも自分の荷物を持って・・・・といっても荷物なんて何もない。元の世界の服は、ちゃんとタンスの中に入っているし、お金と短剣は懐の中。
年頃の娘なのに、モノがないって、おかしくない?なんてツッコミは聞きたくない。
建物の二階に上がり、団長とバーントさんが受け付けで話を済ませている間、わたしは二―ルくんとセピアと一緒に、外の様子を眺めていた。ちょうど、ロビーのように大きな空間スペースがあったから、そこで。
二―ルくんが好きになる理由もわかる気がするな。
わたしも、後で街に繰り出してみたい。色々、買いたいものもあるしね。
その間、通りかかった女性方が、わたし達の方を見て、頬を染める様子も見ることが出来た。
いつになくはしゃいでいるわたし達を傍で見ているのは、若い兄さん達三人だったし、わたしも一応、外見だけは男という事になっているようだし、仕方がないことか。
「後で、みんなで街に出るし、その時に色々買いに行こうか」
「はーい!」
ルイさんの提案に、間をおく事なく元気に返事を返したところで、団長達が戻ってきた。
団長は困った様子で頭を掻いていて、バーントさんはどこか楽しげな表情を浮かべていた。
「さぁて。どうすっかな」
「どうしました?」
コウヤさんがみんなの代わりに団長に尋ねてくれた。
すると、彼は三つの鍵をブラブラを掲げて見せてから、わたしの方を見た。
「部屋は三つ取れた。一部屋に二人寝るとして・・・マツリと二―ルは二人で一人と考えてみても、後一人、この二人と共に部屋を使う人間が必要になる」
バーントさんが事のあらましを説明してくれた。
なるほど。
本当に無抵抗な女のわたしと、まだ子供の二―ルくんを二人だけで部屋に置いておくことは出来ないもんね。いつ何があるかもわからないんだし。
でも、男の人と一緒の部屋っていうのも、なんとなく抵抗があるな。
忘れてはいけない。
わたしは花も恥らう、うら若き娘なのだ。
「仕方ねぇ、マツリ、俺と寝るぞ」
「!?」
「・・・・・・・・おい、変な勘違いをするな。戻って来い」
「団長、そりゃあ勘違いもしますよ。そんな言い方じゃ」
「そうか。・・・・・マツリ、止めろ、そんな顔で見るな。誤解だから」
わたしは、団長から距離を置くためにへばり付いていた壁から、ゆっくり体を離し、みんなの元へ戻る。その時、団長が傷ついた顔でわたしを見てきた。
すっかり、冷めた目で彼を見てしまっていたらしい。確かに、なんだこのエロ親父とかは思ったけどさ。
「誰がかわいい娘に手ぇ出すか。俺なんかより、こいつらの方が危ないだろうが」
「・・・」
「まぁ、なんだ。俺も、もうこんな歳だからな。それくらいは・・・・思うんだ」
団長が、恥かしそうに頬を掻きながらわたしを横目で見てきた。髭で覆われている顔の、辛うじて人肌が見える部分は、ほんのり朱色に染まっていた。
わたしは間抜けな感じで彼を見上げていたに違いない。
「よし、荷物を置きにいくぞ」
そんなわたしの視線から逃れるように、団長は階段を上がって行ってしまった。
「団長、意外とかわいいとこもあるのな」
カインがしみじみといった体で呟いていた。
うん、わたしも同じこと思ってしまったよ。
ベッドルームは、どうやら現代でいうスイートルームみたいな感じだった。
二つの大きなベッドと、ソファー、大きな窓がわたし達を出迎えたのだ。
・・・・・・こんな部屋をとる、団長達は何者だい?
「わぁー、久しぶりのベッドだね~」
二―ルくんが、興奮したようにベッドの上に飛び上がろうとした。わたしは急いで彼を捕まえて、それを止める。
「だめでしょ。ベッドが汚れるから、飛び跳ねるのはお風呂に入った後」
わたしだって飛び跳ねたい。
「は~い」
二―ルくんがなんだか嬉しそうに返事をして、わたしのお腹に顔を埋める様に擦り寄ってきた。
「まるで、親子みたいだね」
ルイさんが部屋にやってきた。そして丁度わたしの腕の中で嬉しそうに笑っている二―ルくんを見て、苦笑をする。
部屋割りは、ルイさんとコウヤさん、カインさんとバーントさんに落ち着いたらしい。みんな部屋を確認した後、こっちにやってきた。
これから街に繰り出すのである。
「その前に寄って置きたい所がある。マツリ、お前に紹介しておきたい奴が居るんだ」
バーントさんがそう言って来た。
「あぁ、マリンデールか」
団長が思い出したように誰かの名前を呟いた。その後、ニターとした変な笑みでバーントさんを見た後、わたしの方に視線を移す。
「お前も、色々入用なもんがあるだろうしな」
てか、マリンデールって誰?
● ● ● ● ● ● ●
わたしの素朴な疑問は、その人物に実際に会う事で解消した。
マリンデールさんは、非常に妖艶な雰囲気を纏った、綺麗な女性だったのだ。
でもって、街の一角で小さな雑貨屋さんを営んでいた。
「おや、これまた、珍しいお客が来たもんだねぇ」
わたし達が中に入っていった時、店の置くに居た彼女はそう言いながら、笑顔で出迎えてくれた。
その笑顔は、男性が一目みたら絶対に落ちるだろうって思うほど綺麗で、同性のわたしでも頬が赤くなった。
淡い桃色のウェーブがかった長い髪も、宝石みたいに蒼い目も、すごく綺麗。
しかし、わたしと共にいる男性方は、なんの反応も示さず、それぞれにあいさつを交わしていた。
ちっ、つまらんな。
そこで、マリンデールさんはわたしに気がついたようで、あいさつもそこそこにわたしを覗き込んでいた。すぐに顎をとられ、彼女の方を向かされる。
「見かけない顔だね。・・・なんだい?新しい子かい?」
「まぁ、そんなとこだ」
「中々かわいらしい顔をしてるじゃないか。坊や、名前はなんていうんだ・・・・」
そこで、彼女は不自然に言葉を切った。
彼女の視線が向かう先は、わたしの胸の辺り。
「・・・・・・」
「~わぁっ!」
「女の子だったんだねぇ。それなりに胸はある。・・・・もしかして、布で巻いているのかい?」
「ッ!?」
ごめんなさい。他人に、しかも初対面で、突然胸を揉まれたのは初めてです。
なんかもう、衝撃的です。
マリンデールさんは、なんだか興味深い様子でじっとこちらも見てくる。まだ、手は胸にあった。わたしはどう反応したらいいのかわからず、ただ顔を赤くするしかなかった。
彼女は女性だから、セクハラにはならない・・・・よね?
「あの・・・・・私達も居るんだけれどね」
「!」
勢い良く後ろを振り返れば、苦笑したルイさんが立っていた。
しまった、衝撃の強さですっかり男性方の存在を忘れてしまっていた。
ルイさんはいつものよく分からない苦笑いを浮かべ、カインはそっぽを向いている。コウヤさんは律儀に黙想をして二人の間に立っていた。団長も苦笑していたし、バーントさんは呆れた顔をしていた。二―ルくんに至っては、純粋な目でわたしを見上げていた。
「~~ッ」
穴があったら入りたい。
「へぇ、あんた達も、とうとう女の子に手ぇ出しちまったって事か」
「変な誤解をするな」
バーントさんがわたしの隣に進み出た。
「こいつは、行く当てがなかったから拾った。俺達は男だから、女に何が入用かよくわからん。マリンデール、適当に何か見繕ってやってくれ」
バーントさん、ちゃんと気づいててくれたんだ。
ちょっとうれしくなった。
マリンデールさんは、わたしとバーントさんを見比べて、肩を竦めた。承諾してくれたんだろう。
「まぁ、普段は何も頼み事をしてこない恋人の頼みなら、受けるしかないだろうね。それに、この子、気に入った」
・・・・・・・恋人?
「恋人ぉぉぉぉ!?」
「何も話してやっていないのかい?」
マリンデールさんがバーントさんを見つめる。
バーントさんはあらぬ方向に視線を移動させ何も言わない。あ、逃げた。
「マリンデ―ルは、バーントの恋人だ」
誰も何も言わないので、団長が教えてくれた。
確かに、二人はお似合いだ。
どちらも大人な感じがして。
でも、・・・・へぇ、バーントさんって、意外と妖艶美人好きだったのね。




