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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第一章:すべての始まりはここから
21/107

Ep.1

第二章のスタートです。

 

「で、お前は元の世界へ帰る手掛りを見つけたと」

「はい。この間の村で見つけた古本屋のおじいさんに、一応情報らしきものを貰いました」 

「・・・・だから、敬語はなしだって」

「でも、みなさんわたしより歳上だし」


 わたしはとりあえずルイさんの意見に反論する。急に言葉遣いを変えろと言われても無理だ。しかも周りはどう見てもわたしより歳上しかいない。約一名、同世代と思われる人もいるけれど。


「言ったはずだ。これからは、素の自分を出していけと」


 その彼は、上から目線でモノを言ってくるのだ。


「そんな事言われても~」

「つべこべ言うな」

「・・・・カインの意地悪」

「ほぉ、こういう時だけ素直に聞くんだな」

「いいじゃん。本当の事だし」

「よし、いい度胸だ。今すぐこのオレがその図太い根性、叩きなおしてやる」 

「コウヤさ~ん!」 

「・・・カイン、あまりマツリさんをいじめては・・・」

「ちっ」

 


 数日前に、わたしを本当の意味で受け止めてもらえてから、周りの態度が百八十度変わった。

 もちろん、コウヤさんや団長など、元々から素で接してきてくれた人は変わらない。

 けれど、カインやバーントさんなど、これは一体誰なのかと疑いたくなるほど変わってしまった人もいる。先ほどだって、カインと軽く言い合いをしたし。


 カインが意外と短気でデリカシーのない奴だと判明したのは、ついこの間だ。

 それからはずっと、何かあるたびにこうやって口喧嘩をしてきた。それを止めてくれるのは、いつもコウヤさん。わたしが彼に助けを求めれば、無表情でありながらも、わたし側についてくれる。

 頼れるお兄ちゃんだなぁもう。


 それからバーントさん。

 彼はわたし達の幼い行動を見て、薄笑いを浮かべていた。その後、「若者は元気だな」と小さくぼやいていた。

 彼の行動の変化には、意表をつかれた。今まであんなに厳しい態度で接してきていたのに、今は普通に話し掛けてきてくれるようになったし、たまに笑いかけてくれる事だってある。


 人の変化ってすごいな。


 そんなわたしも、今は敬語ではなく、普通に素で使う言葉遣いを強制されていた。確かに、この方が楽ではあるんだけど、敬語に慣れてしまったんだ。


「なら、これも慣れだろう?」


 ルイさんに正論を返され、とりあえず努力をしてみることに、する。


 そんなわたし達は今、野宿の真っ最中である。

 ニールくんとセピアが寝てしまった後、みんなで移動車の前で炎を囲んで座っていた。ちなみにバーントさんは帽子を脱いで、キセルを噴かしている。あれだ、どこかの有名な探偵とかがいつも加えてそうなあれの長い版。すごく様になっててかっこいい。ダンディだな。

 コウヤさんの後ろから見つめながら、思わず見蕩れてしまう。


 けど、まさかわたしがこの場に居られるようになるなんて思わなかった。ここに入り込める場所なんてないと思ってたから尚更。

 すごく嬉しいし、なんとなく照れくさい。

 

 ニールくんが居ないのは、この話が彼に聞かれては困るから。前にわたしが居なくなった時、二―ルくんが団長に食いかかって大変だったらしい。もし、わたしが異世界に帰ると言う事を聞かれてしまえば、大騒ぎになる可能性もあったのだ。だから、二―ルくんにはまだ話せない。


「で?その情報っていうのは?」


 ルイさんが、わたしの手元にあるメモを覗き込みながら話しを本題に戻した。

 そうだ、アホな口喧嘩なんてしてる場合じゃないや。


「えーと、昔、異世界についての論文を発表した学者がいたそ・・・居たんだって。で、その曾孫さんが生きてるから、もしかしたらその曾孫が何か知ってるんじゃないかって話になったわけですよ」

「なるほど。つまり、先祖の伝えた物があるかもしれないってことだよな」

「うんうん」


 飲み込みの良いカインの言葉に頷いて見せた。


「その曾孫はどこに居るんだ?」

「この国の首都のどっか」

「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」


 わたしの簡単な答えに、みんなが一斉に黙り込んだ。


 え、なんか変な事言った?


 わたしが首を傾げれば、ルイさんが、恐る恐るといった体でわたしを見つめてくる。やっぱり、綺麗な人に見つめられると照れてしまうな。


「マツリは、ダンジェルがどれだけ広いかわかっているのかい?」


 ダンジェルとは、首都の名前だ。


「ううん?」

「やっぱりな・・・」


 カインがわざとらしく溜息をついていた。

 それは言外で「お前馬鹿だな」と言われてるような気がして腹がたった。


「仕方ないじゃん、わたし、まだこの国のことよく知らないんだもん」

「・・・・・・それでよく、独り立ちしようと思えたな」

「・・・うっ」


 バーントさんの言葉はとても的確に、わたしの胸に突き刺さった。


「首都といっても、本当に大きいですから。どうやって探すおつもりだったんですか?」


 コウヤさんが聞いてきた。きっと素朴な疑問だったに違いない。

 けれど、わたしにとってはすごくきつい質問で。

 動きが一瞬止まった。


「まさか」


 こんな時だけ察しの良いカインが、半眼でわたしを見てきた。隣のルイさんも理解したのだろう。掌で目元を覆って俯く。

 ルイさんは髪を縛らないため、その長い髪がまるでカーテンのようにルイさんの表情を隠してしまった。けれど、何を考えているのか察するのは容易い。きっと呆れているんだ。


「・・・・何も考えていなかったのか」

「・・・・・ぐぅ」


 ここでも、バーントさんの痛恨の一撃を喰らった。

 この人嫌いだ!いつも人痛いとこばっかり突いて来る。絶対確信犯だっ。


「い、行けばどうにかなると思って!!」

「なるわけないだろうが」

「うぅ」


 団長の留めの一言に反撃の言葉も出ず崩れ落ちたわたしは、まだまだ修行が足りないんだな。


「まぁ、そうだとは思っていたけどね」


 ルイさんがやっと顔を上げた。・・・けど。


「何笑ってんですか」 

「だって、おもしろいんだもん」


 ルイさんがにっこりした笑顔で言った。

 いい歳した大人が、「もん」って。馬鹿にしてるよ、完全に。


「まぁいいさ。俺達もどうせ、ダンジェルには用があるしな。・・・・まだいくつか回らなければいけない村もあるが・・・それまで待てるか」

「もちろん」


 団長の言葉に笑顔で頷いた。

 しかし、団長はなんともいえない顔でわたしを見つめた。何かを言おうか迷ってる感じ。


「団長?」


 気になって声をかければ、すぐに何でもないとはぐらかされた。

 いいや。大人も色々大変なんだろう。

 とりあえず話が一段落したところで、わたしは未だに一人で笑っているルイさんを見つめた。


「いつまで笑ってるつもりですか?」

「くくく・・・ごめんごめん」


 お腹に手を当てて、体をくの字型にしながら彼は笑っていた。

 しかも、反省の色はゼロ。


「お前の行動を見たら、誰だって笑うか呆れるかのどっちかだろ」


 カインはそう言って、あからさまに呆れたと行動に示してきた。バーントさんもなんだか呆れてる感じがする。ルイさんは・・・言うまでもなく。


「いいもん!コウヤさんはどっちでもないからっ」


 コウヤさんの腕に手を乗せて、わたしはそう宣言した。彼はわたしの味方、そう信じてる。


「えぇ、確かに」

「ほら」

「予想はついていましたから」

「・・・・・・・・」

 


 みんな・・・・・わたしを受け入れたんだと態度で示してくれるのはうれしいけどさ。ちょっと苛め過ぎてるとは思わないかい?

 

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