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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
プロローグ
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Ep.1

お待たせしました。第一章のスタートです。所々残酷表現がでてきますが、表示はしていないのでご注意ください。


 研究者というものは、どうして存在しているのだろう。

 彼らは何故、多大な額のお金を研究費に費やしているのだろうか。

 いや、そもそも何故、人類は解決できない謎を解明したいと思い始めたのか。


 わたし――相良茉里さがら まつり――は、ふとそんな事を思った。

 ちなみに、わたしの現在所在地は森の中である。


「ウァッ」

「グェェエェェ!!」

「ダァァァァ」


 正しく言い直せば、乱闘が起きているすぐ近くの森の中に隠れるようしにて身を潜めている。


 いやいやいや、そんな呑気な事言ってる場合じゃないってば。

 さっきからすごい喧嘩が、目の前で繰り広げてられているんだけど。・・・ヒィ、本物の真剣だ。ち、血らしきものもなんか見えるよ。

 ちょっとまって、何?・・・ドラマの撮影か何か?


 いや、そもそもなんでわたしはこんな所に居るの。

 今やロボット開発だって行われているこのご時世の中で、なんだってわたしは森の中でこんなものに遭遇しているんだ。人類が住んでいるのは、町だぞ、都会だぞ。

 時間の速度だって、空気に何が含まれているのかもわかる今、なんでこんな事が起きているんだ。いや、確かに今の技術をもってしても、ピラミッドがどう作られたかとか、飛行機がなぜ飛んでいるのかとはわからないことはあるけどさ・・・。

 現在の状況を整理しようとすればするほど、わたしの思考は馬鹿な方向に向かっている。それが、人類に対する意味もない批判だ。

 いや、もしかしたら野生の本能が、考えるなと言っているのかもしれない。うん、きっとそうだ。ならば、わたしに出来る事はただ一つ。


 素直に従おう。


 わたしがそう考えを纏め上げた時、変な浮遊感に襲われた。


「おい!今すぐ仲間を放せっ。でなければ、この娘の命はないぞ」


 誰かに抱え上げられたらしい。

 そして、首元に突きつけられてくる何か。さっきの乱闘を見ていたおかげで、なんとなく想像が出来た。・・・きっと、多分、その予想は合ってる。


 嫌だなぁ、こういう時に限って自分の予想が当たるのは。出来れば、ドラえもんが来るって想像して、本当に来てくれるみたいな予想の方が合ったってほしいな。わたし、多分、今、絶体絶命の大ピンチに襲われているみたいだから。ははは。 


 心の中で乾いた笑いが零れた。

 けれど現実の私は、顔から血の気がなくなっていくのが自分でもわかるほどの恐怖に怯えている。

 気を失えるものならそうしたいのに、極度の緊張に包まれているためか、あと一歩の所でそれも出来ない。

 わたしを捕まえた男が、木々の間から出てきた。

 もちろん、腕にはわたしを抱え、もう片方でわたしの首に剣を向けている。下手すれば、すぐに首を掻き切れる位置だ。

 首からリアルに伝わる冷たい刃物の感覚。

 どうせなら一生知りたくなかったのに、この際そんな事はどうでもいい。


 視界が開けたわたしの前に居るのは、何人かの倒れた男達と、先ほどまでそんな彼らをけちょんけちょんにしていた五人の男。

 ひょっとしなくても、わたしは人質という立場に居るのだろうか。だとしたら、嫌だ。なんでこの自分が知らない奴らの仲間に見られて、こんな目に合わなければいけない。


 心の中で正当な意見を主張してみる。あいにく、それを声に出して言う気はない。


 なぜならば、わたしの仲間と思われているらしい五人の男達が、それぞれに訝しげな表情を浮かべながら、わたしと男を見比べていたのだから。

 完全に状況を把握していない顔だ。

 こういう時、小説では、彼らの誰かが王子として自分を助けてくれるのだろう。今、それを期待しても良いのか。みなさんがどこか冷めた目でわたしの方を見ているのは自分の被害妄想のせいだと思ってもいいですか。いや、きっとそう。・・・うん、絶対。


「おい、さっさと俺の仲間を放せ!」

「「「「・・・・・」」」」


 五人の男達が黙ってお互いに目線で会話をしている、ように見えた。

 その内の一人、一番体付きがいい大柄の男がなにやらめんどくさそうにわたし達の方に顔をやり、今この場で一番言ってはいけないない言葉を言った。


「俺達は、そいつなんて知らねぇなぁ。人質としては使えないぜ、その嬢ちゃん」


「「・・・・・」」


 ちょっと待ったァァァ!!なんというKYなおっさんなんだ!


 この大男はこの数分という短時間で、KYだという事が判明した。


 空気読もうよっ、そしたら絶対そんな冷たい事言えないから!


 わたしを拘束していた男の腕が驚きで少し弱まった。それと同時にわたしは声にならない叫び声をあげた。それは唯一の抵抗だ。先の見えない自分自身の未来に対する悲しき抵抗。あぁ、考えているだけで涙が出てきた。

 よく考えれば、ここで身を捩れば、まったく護身術に精通していないわたしでも、なんとか逃げられたかもしれない。

 けれど、わたしはそんな現実に気づいてなどいなかった。

 ただ、現実の非道さに言葉を失ってしまっていた。


 あぁ、おばあちゃん。

 あなたの愛する孫娘は、ここで十九年の短い一生を終えることになりそうです。


 

 ―――いやその前に、一つ疑問が。どうしてあの時、部屋の床がなかったのだろう。



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