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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第一章:すべての始まりはここから
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Ep.16

 わたしは元々、そんなに器用な人間じゃない。

 一度悩み込んだら、そればかり考えつづけるという、なんとも嫌な癖があった。

 癖なので、自分じゃ中々わからないのも事実だ。


 今回だって。


「マツリさん、どうしました?先日から、ずっと難しい顔をされていますが」


 コウヤさんに指摘を頂いて、ようやく気が付いたのだから。

 

●  ●  ●  ●  ●  ●  ●


 わたしがサンジュのおっさん達に拾われて、一カ月以上は経ったと思う。

 いつまでも、甘えているわけにはいかないんだ。


 本格的に元の世界への帰り方も探さないといけない。ようやく慣れて来たのに、正直お別れなんてしたくない。

 仲良くなるまでに、あんなに掛かったんだ。もう少しぐらい、みんなと一緒に居たいと思った。別れは一瞬だ。

 そんな風に甘い考えに逃げるたびに、懐の中にあるお金がすごく重く思えた。

 それは時に、わたしに早く行けと催促しているような錯覚さえ与えた。

 

 決心を決める時なんだ。


●  ●  ●  ●  ●  ●  ●


 次にわたし達が向かったのは、前の町からそう遠くない小さな村だった。

 最初に見た村ほど被害は受けてはいなかったけど、まだ完全に修復が終わったわけではなかった。

 一部の建物や畑はまだ、戦争の爪跡を残している。

 

 もちろん、この村でも、わたし達は歓迎された。

 なんでこんなに歓迎されるんだろうと不思議思って、コウヤさんに聞けば、何故か言葉を濁された。何でも、今はその時ではないとか。


 一体なんなんだろう。


 悪いわけではなさそうなので、特に追求はしなかったし、それ以上の事を他の誰かに聞く事もなかった。

 もうすぐ、わたしも彼らから離れるだろうし、知っていても仕方ないもんね。

 


 今回はお芝居ではなく、各自の芸のお披露目会。

 これは、出来る人と出来ない人がいる。


 バーントさんとコウヤさん、そしてわたしは裏方に回った。今回はコウヤさんも裏方だ。彼にも隠された特技とかあると思ってたんだけど、どうやら違うらしい。コウヤさんに聞いてみれば、自分の技は人に見せる物ではないんだと、無表情のまま諭された。それに、低い声が合わさって、すっごく説得力があった。わたしは話を聞きながら、無言で頭だけを縦に振っていたのを憶えてる。

 バーントさんは、絶対に表にはでない。いつも裏方なので、もう疑問に思うこともバカらしくなった。

 わたしに至っては、当然のことである。特にこれと言った技もないのに、どうやって人前に出ろというのか。


 というわけで、出演者は残る四人と一匹と言う事になった。


 団長は、その大きな体躯を活かした力芸を披露していた。いくつもの丸太を一度に持ってみたり、重いものをたくさん持ってみたり、岩を割ってみたり。とりあえず、人々の笑いを誘っていた。


 カインさんは、意外や意外。手品のような事をしていた。何もないところから花を出してみたり、水を入れたコップを逆さにしても水が零れてこなかったり。後で種を聞いてみたいと思ったが、企業秘密だと断られそうだったので止めた。


 ニールくんとセピアは一緒に唄を歌っていた。ニールくんが童謡を歌い、セピアがリズムを入れるように甲高く吼えたり小さく唸ったり。なんだか、これが芸なんだなと思わされた。見ていて微笑ましくなるものばかりで、観客席も笑顔に溢れた。


 最後はルイさん。彼は、何をさせても完璧だと言う事がはっきりわかった気がする。ルイさんは、女装をして踊った後、今度は普通の男の姿で舞いを見せてくれた。どちらも、同じ人がやっているはずなのに、まるで別人のように違って見えた。その使い分けが見事で、見ている人たちみんなが魅入ってしまっている。わたしも、例外じゃない。ここで改めて、ルイさんがすごく綺麗な人だって事を再認識した。こんなに綺麗な人と一緒に居られるなんて、ちょっと信じられない。

 下は小さい女の子から、上は高齢のおばあさんに至るまで。みんなルイさんの虜になってしまったようだ。


 芸を披露した後は、またまた村の人達に囲まれた。わたしはすぐにそこから離れて、いつものように村の中を探索する。

 これが少し楽しみになっているのだ。

 

 最初の村では不思議な老婆に会って、前の町では伝説のおじいさんに会った。

 さて、今回は誰に出会うだろう。

 いつの間にか、人に出会うことが楽しみになっている自分に気づいた。元の世界では、こんな風に思った事、一度だってなかったのに。これもみんな、旅芸座に加わったせいなのかも。


 人の影響力ってすごいな。


 しばらくぶらぶらしながら歩いていると、ある古い建物を見つけた。無傷で残っているその建物は、巨大な存在感を放っていた。なんだろう、すごく年代のいった作りだ。レンガ造りのその壁には、蔓が幾重にも巻き付いている。

 なんとなく中が気になって、恐る恐る近づいていく。

 勇気を出して、扉を開いてみた。

 中は、古本屋さんだった。


「珍しい、お客かい?」


 中から声をかけてきたのは、老人。

 白髪で髪も少し禿げてるけど、まだまだ元気そうなおじいさんだった。彼が、この店のオーナーなんだろう。

 ちょうどいい時に出くわしたな。何か、異世界に関しての書物なんかないだろうか。

 近くにあった一冊の本を手に取って、背表紙を読んでみる。


『国々の和平条約の真相とは』


 たどたどしくではあるが、なんとか読み取る事ができた。どうやら、歴史の本みたいだ。

 まだ難しいものは読めないので、おじいさんに協力してもらう事にしよう。

 わたしは、老人が座って居る奥のカウンターに向かった。

 ほとんどの本は、動かされた形跡もなく、すごい埃覆われていた。さすがは古本屋。ここになら、何かありそう。


「あの、おじいさん、わたし本を探してるんですけど」

「どんな本をお探しかな?この店には、裏ルートから取り寄せてものもいくつかある、きっと見つかるはずだ」

「・・・・・そう、ですか」


 本を取り寄せるのに、裏も表もあるんだろうか。

 いや、最近まで戦争があったんだ。そういう事もあるんだろう。

 あえて聞かなかった振りをして、わたしは異世界やこの国に纏わる伝説のある本を探している事を伝えた。出来るだけ、簡単な内容がいいと言う事も。じゃないと、わたしが読めない。

 おじいさんは記憶を探るように、しばらく無言で考え込んでいたが、何か思い出したように目を開くと、カウンターの後ろの部屋に引っ込んでしまった。


 いくら待っても出てこないので、わたしは暇つぶしのため、近くにあった本の背表紙の埃を集める事にした。

 手を少し動かしただけで、細かい埃が舞い、大きな埃が手のひらに残った。


「ゴホゴホッ」


 すごい。一体何年放置したらこんな事になるんだろう。

 マントで口を覆って、埃を吸い込まないように気をつける。それでも、埃集めは止めない。だって暇なんだもん。

 それからしばらくして、やっとおじいさんが出てきた。

 その間わたしは、両手に山盛りになるほどの埃を集めた。

 おじいさんは手に、ものすごく古びた薄い冊子を持っていた。


「異世界なんて言葉、最近じゃまったく聞かなかったら、すっかり忘れとった」


 おじいさんはそういって、冊子をめくる。

 その本は、どこかの遺跡の説明が掛かれているようで、所々に絵や図形が描かれていた。どれも奇妙な形をしていて、興味を引かれた。


「おぉ。これだ」


 おじいさんがそう言って、あるところを指差した。


「・・・ア・・・ル・・・バン?・・ト、トゥ?」


 声に出して呼んでみた。すごく難しいけど、なんだか人の名前のような感じだ。


「アルバントゥ・ロンザルオ」


 おじいさんが代わりに呼んでくれた。


「何百年も前に、異世界論を唱えた唯一の考古学者。異世界とは、この世界と異なる場所にある別の世界の事で、彼はなんらかの手がかりを元にこの論を発見したと思われる。世間はこれを真っ当から否定し、事の真相は明らかではない」

「なんらかの手がかり・・・か」


 その手がかりが、もしかしたら、帰る手がかりになるのかもしれない。

 この考古学者が何か知っているのだとしたら、彼に会うのが一番の近道だ。


「でも、この人、何百年も前の人ですよね」


 どう考えたって生きてるはずがない。

 ようやく探した手掛りも、すぐに消滅したと思った。

 するとおじいさんが、再び何かを思い出したように手を叩いた。 


「そういえば、この考古者の曾孫が居ったなぁ」

「ほんとですか!?」


 その貴重な証言に、わたしは思わず身を乗り出してしまう。これは大切な証言だ。


「確かその曾孫も学者だったと思うが・・・・はて、今はどこに居るのか」

「名前、教えていただけますか。あ、出来れば何かに書いていただけると・・・」


 言われただけじゃ、すぐに忘れてしまいそうだったので、そう訂正した。おじいさんは、その要望ちゃんと応えてくれた。

 黄色くなった紙切れに、冊子の情報を簡単に書いてくれて、その下に曾孫の名前も書いてくれた。


「・・ラ・・・シェ・・・バルド?」

「ラシュバルド・ロンザルオ」


 おじいさんが修正してくれた。

 

 それからおじいさんに別れを告げて、わたしは移動車に戻った。ちなみに、集めた埃はおじいさんに渡した。受け取ったおじいさんはなんとも言えない顔をしていたが、あえて忘れることにする。


 ラシュバルド・ロンザルオ。

 彼に会って、曾おじいさんの事を聞いてみよう。もしかしたら、何か残してくれているかもしれない。

 見つけたのは、本当に偶然だったけど、それでも信憑性の高い情報を手に入れることができた。

 それが、素直にうれしい。

 

 


 そんな嬉しい気持ちを覆すように、わたしはその夜ある会話を聞いてしまった。

 セピアと二―ル、わたしを覗く全員が集まって深刻な顔をして話し合っていた事。

 そしてそれが、わたしのこれからの立場についての話し合いだと言う事。


『これいじょう、彼女が居ては、我々はますます動きずらくなる。・・・・報告もしにくい』


 バーントさんが、溜息をつきながら言っていた。


『でも、彼女を一人置いておくわけには・・・』


 これはルイさん。


『・・・・・・・・バーントの懸念も間違ってはいないが』


 カインさんの声。


『どうするか・・・』


 団長の弱りきった声が聞こえた。 



 やっぱり、わたしが居る事で、みんなにすごい迷惑が掛かってる。

 これ以上ここに居ちゃいけない。

 わたしは油断すればすぐにでも嗚咽を漏らしそうになる口を両手で抑えて、移動車の入口から離れると、ニールくんの隣に滑り込んだ。


 わたしの居場所は、わかってはいたけど、やっぱりここにはないんだ。



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