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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第一章:すべての始まりはここから
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Ep.14


 次の村に着いたのは、それから数時間の後だった。

 

 移動車から出ればすぐに大勢の人々に囲まれて、花束まで貰ってしまった。しかも、娘さん達に。なにせ、わたしは今男物の服に身を包み、髪も短くなっている。一見優男にしか見えまい。

 そう思うと、うれしいやら複雑やらで、なんとも言えない気分になった。

 今回訪れた村は、前の時よりも裕福そうに見えた。建物も、ほぼ修復は終えているようだし、人々の顔も、前の村に比べれば明るく見える。

 場所も、村というよりは町といった感じだ。


「この村は、そんなに被害は受けなかったんだ」


 カインさんがこそっと教えてくれた。

 それからすぐにお芝居が始まった。移動車の奥で、みんなが化粧や衣装の準備をしている間、わたしはバーントさんと一緒に舞台の方の準備を開始する。


 どことなく、バーントさんの態度が不自然な気がする。わたしを、どう扱ったらいいのか困っているような、そんな感じ。

 わたしに指示を出すとき以外は、話かけてもくれない。

 いいもんね。わたし、こんな事じゃへこたれないから。


 移動車の後ろに回った時、小さくガッツポーズをとって気合いを入れる。たまたま通りかかったセピアが、不思議そうに首を傾げていたが、苦笑いで誤魔化しておいた。最近、セピアの行動が、人間的に見えて仕方ない。狼でも、人間と長い間接していれば、そうなるのだろうか。元の世界に住む、犬達のように。


 準備が終わり、お芝居が始まったら、わたしも客席に座ってみんなのお芝居を見る。


 今回の話は、魔王に魅入られた村娘の話だった。


 村娘役はコウヤさん。確かに、ルイさんがやったら、村娘も女神に見えてしまうだろう。コウヤさん演じる村娘も、普通より美人だったけど、まぁそこは仕方ない。

 最初は頑なに魔王の恋心を受け入れなかった娘も、序々にその一途さに心が揺れ動くといった感じの話だった。そして、最後はやっぱりハッピーエンド。二人とも無事両思いになった。

 女神の時とは違い、今度は娘がすべてを捨てて魔王の元に行ってしまった。


 でも、結局のところ、本当にそんな事があるのだろうか。


 劇を見ながら、ふと思った。

 お芝居の中では、どちらかが、今までの自分を捨てて相手についていくといった内容だった。でも、もし現実で起こるとしたら、はたして人間はそんな思い切った事が出来るのか。こんな事、夢もロマンもないと思うかもしれないけど、そう思ってしまったのだからしょうがない。


 もしかしたら、わたしの立場が立場なだけに、そう思うのかもしれないな。わたしは、この世界の人間ではないし、今持っているものを捨てるつもりなんて毛頭ないから。

 神話の中だとしても、全部捨てて相手を選んだ女神と娘はすごいと思う。相手が、これから先浮気とかした時、彼女達は一体どうなってしまうんだろう。一生、幸せでいられる保証なんてないのに。・・・・うわ、わたし、なんてネガティブな考え方を。

 女として、いや、人間として終わってないか、こんな事考えて。


 少し項垂れながら、席を立った。


 お芝居はすでに終わっている。

 サンジュの団長達の所に戻ろうと歩き出して、ふと後ろを振り返ったら、かなりの高齢のおじいさんを見つけた。

 身体が不自由なのだろうか、杖を軸に椅子から立ち上がろうとしては失敗している。

 それを見て何もしないほど、わたしは薄情ではない。


「おじいさん、お家まで送りますよ」

「・・・・おぉ、すまんな」

「いいえ」


 おじいさんの背中にそっと手を添えて、歩くお手伝いをした。

 少しずつだけど、歩き始める。たまには、こんな風にゆっくりとしたスピードで歩くのも良いかも知れない。おじいさんの隣を歩きながら、そう思った。周りの景色が少し違って見える気がした。


「お嬢さん、ありがとう」

「ここがおじいさんのお家?」

「あぁ、そうだよ」

「一人で暮らしているんですか?」

「あぁ」


 おじいさんが扉を開けて中に入っていった。

 それを見届けて、わたしも方向回転をしようとした。背中を向けたとき、後ろから声をかけられた。


「お嬢さん、せっかくだから、お茶でもどうだい?」


 おじいさんが、皺くちゃの顔に笑みを浮かべてわたしを見てきた。その手には、ティーカップらしきものが二つ。


「ちょうど、ケーキもあるんだ。一人ではとても食べきれないから、よかったら」


 だめだ、断れない。

 こんなに楽しそうな顔をして誘ってくれる老人に、断りの言葉を入れることなんて、わたしには無理だ。


「じゃあ、少しだけ・・・」

 

 わたしが移動車に帰ったのは、それから一時間後の事だった。

 おじいさんには、また来るようにと念を押された。

 

●  ●  ●  ●  ●  ●  ●

 

「団長、わたしそろそろ行きますね」

「あんまり遅くなるなよ」

「わかってます。・・・二―ルくん、行こうか」 

「うん!」


 翌日のお昼頃、わたしはニールくんと二人であのおじいさんの元を訪れた。

 今回の滞在はとても短い。サンジュの団長は、長くても四日程度だと言っていた。

 


「そうか。お嬢さんも色々苦労しているようだね」

「えぇ、まぁ、それなりに」


 わたしとおじいさんは、何故か人生について語り合っていた。隣では、二―ルくんがものすごい勢いでケーキを食べている。これで、もう二つ目なんじゃないかな。

 おじいさんは、そんな彼を微笑ましそうに見つめている。孫を見ている気分にでもなってるのかもしれない。

 わたしは、ケーキを食べ終えて、今はゆっくり紅茶を飲んでいた。

 中々おいしくて、もう二杯目だ。・・・・・あ、自分も人のことは言えない。


「ばあさんが死んでから、ずっと一人だったからなぁ、こうして遊びに来てくれる子供達が居るっていうのは、楽しいもんだ」


 おじいさんがしみじみと呟いていた。


「でも、おじいさんはよくわかりましたね。わたしが女だって」

「そりゃあ、もちろん」


 その時、おじいさんが少し目を細めてわたしを見つめた。まるで、何かを思い出したような表情だ。

 わたしは大して気にもかけずに紅茶を一口飲んで、愚痴ってみる。


「いえ、そうでもないですよ?さっき、ここに来る途中で、娘さん達に熱い視線を投げかけられました」

「ははは、そりゃあいい」

「全然よくないですって」


 おじいさんが愉快そうに笑う中、わたしはげっそりしながら否定の言葉を入れておいた。

 確かに、悪い気はしないけど、良い気も・・・・しない。


「いや、この国では、そっちの方がなにかとやりやすいはずだ。・・・・いくら戦争が終わったとはいえ、まだまだ物騒な世の中だ。女の姿のまま出歩いていたら、何が起こるかわからない」

「山賊とか、ですか?」

「やっぱりまだ出るか」


 おじいさんが厳しい表情になった。


「ねぇ、おかわり」

「・・・・もうだめ」

「えー」

「お腹壊すよ?」

「いいもん」

「良くない」

「・・・・お姉ちゃんのいじわる」


 ニールくんは、すっかりわたしに打ち解けてしまったせいか、わがままを言うようになった。

 少しいじけたようにわたしを見てくるが、ここで折れるわけにはいかない。わたしは、絶対に甘やかさないと決めているんだ。


「だーめ」

「・・・・・・・」


 この一言が効いたのだろう。ニールくんは大人しく紅茶を飲み始めた。


「良い子だ」

「はい」


 おじいさんが笑い、わたしも同意した。

 ニールくんは、最後にはちゃんと言う事を聞いてくれる子だ。だから、ちょっとは甘やかしてもいいかな、という気分になる。


 よし、今夜の夕食で肉が出たら、半分分けてあげよう。


 わたしがそう考えついた時、扉が軽く叩かれた。

 立ち上がろうとしたおじいさんを制して、わたしが扉を開けた。机とドアは、ちょうど一直線なので、ドアを大きく開ければ、座っていても誰が来たのかわかるはずだ。


「あ、ルイさん」

「迎えに来たよ」


 扉を開けた先に居たのは、微笑みを浮かべたルイさんだった。

 しかしなんでまた。

 そう考えたわたしの思考を読み取ったのか(彼なら本当に出来そうだ)ルイさんが神々しい笑顔を向けてきた。


「もう、夕飯の時間だよ」


 彼の背景は、すでに薄暗い。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・す、すみませんすみません!すぐ帰りますっ」


 超絶魔王スマイル再来。

 わたしはすぐに居間の方に戻って、ニールくんの手を引いた。


「おじいさん、すみません、わたし達もう行きますね」

「行ってしまうのかい?」

「・・・・迎えが来てますし」


 ごめんなさい。相手があの魔王様では、わたしに決定権なんてないんです。悲しい事に。

 おじいさんは、扉の所まで送ってくれた。

 ルイさんが、いかにもわたし達の保護者であるように、彼にお礼を言って頭を下げた。


「また、次に機会でも遊びに来ておくれ」

「はい、二人がとてもお世話になりました」

「いいんだよ。二人共いい子だからねぇ」

「二人が、お世話になりました。また後日、挨拶に参ります」


 ルイさんの口調が異様に丁寧なのが少し引っ掛かったが、そんなに深く考えずに、わたし達はおじいさんの元を後にした。


 この村に来て、わたし達は近場の酒場のような場所で食事を摂っていた。といっても、荒々しい感じの場所ではない。現代的に言えば、お洒落なバーと言った感じだろうか。

 わたし達がここで食べるようになってから、やってくるお客さんが増えたと、バーのおじさんが言っていた。確かに、たくさんの人が食事をしている。みんなの視線のほとんどが、ルイさんやカインさん達に向けられている事に、果たして本人達は気づいているだろうか。

 ルイさんは絶対に気づいてるだろうけど。


 今夜の夕食はステーキのようなものだった。

 さっき決めたように、わたしはそれを半分に切って、片方をニールくんに上げた。すっごく喜んで食べてくれてよかった。


 たくさん栄養を摂って、早く大きくなりなさい。


 半ば母親のような心境で、夕食を食べるニールくんを見つめた。足元では、セピアも夕食の肉の塊を食い千切りながら食べている。

 自分の分はさっさと食べ終わり、わたしは静かに、そんな二人を見つめた。

 本当に良かったと思う。この旅の一行の中に二人が居てくれて。

 わたしを同行させてくれるように頼んでくれたのはニールくんだったし、わたしを最初に庇ってくれたのはセピアだ。彼らが居なかったら、わたしはきっとここには居なかった。

 感謝してもしきれないな、本当に。


「お姉ちゃん?」


 じっと見つめていたことに気づいたのだろう。ニールくんが首をかしげながらわたしを見てきた。

 その口元に付いているソースを拭いてやりながら、わたしはにっこりと笑った。


「今日は、一緒に寝ようか」

「ほんとっ!?」

「うん、せっかくだしね」

「やった!」 


 わたしの提案がよほど嬉しかったのか、二―ルくんが夕食を食べかけのまま、大袈裟に万歳のポーズをとった。

 夕食の最中、こんな事をしたら、誰だって驚くのは当然だろう。

 団長達の視線が一気にこちらに集まってしまった。


「どうした二―ル」 


 カインさんが驚いたようにニールくんに声をかけた。

 いまや、店中の注目がこちらに向いている。

 居た堪れなくなって、わたしはバーの方に顔を向けたまま、一ミリたりとも動かずに静止した。このままこの場をやり過ごす事にしよう。


「あのね、今日ね、マツリお姉ちゃんと一緒に寝るんだ!」


 かわいいなぁ、もう。


「へぇ、いいね。私も一緒にいいかな」


 綺麗な声だなぁ、も・・・・。


「ちょっと、何言ってんですか!」


 うっかり聞き逃しそうになったが、すぐに我に帰った。さっきの声はルイさんだ。


「冗談だよ、冗談」


 ルイさんはそう言って笑ってるけど、目が本気に見える。いや、きっとわたしの気のせい。


「ニールくん、ハンモックで寝ようか」 

「はーい」


 ハンモックに寝れば、ルイさんは絶対に寄って来れない。なにせ、場所がないのだから。

 わたしがその考えに至った瞬間、一瞬金縛りにあった気がしたけど・・・・・いやいやいや、きっと気のせいに違いない、うん。




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