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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第六章:未来への道標
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Ep.18


「おねえちゃん、何して遊ぶ?」

「みんなは何がしたい?」

「なんでも!」

「じゃあ、リファ、何しようか」

「かくれんぼはどうですか?」

「「「やろう!!」」」

 子供達に腰の辺りを押されながら、わたしとリファは顔を見合わせて笑い合った。


 

 リファの故郷にやってきて二日が過ぎた。



 元々人懐っこい村の子供達のおかげで、わたし達旅の一行もすでにみんなの仲に溶け込んでいる。


 サンジュ父さんやカインは、子供達に護身術の稽古をつけてあげていた。

 ルイさんは、特に女の子達に人気で、彼女達に薬草の育て方や見極め方を伝授していた。それは子供達だけではない。村の女性達も、すっかり彼の魅力に当てられてしまっているよう。

 コウヤさんやバーントさんも、時間がある時は子供達と戯れているけれど、大半は牧師様と何かを話し合っている。きっと、子供達に関しての事や、村の教会についてなのだろう。


 この国には、もっとたくさんの孤児達を引き取るための教会が必要だ。

 そう、バーントさんがぼやいていた。


 かくれんぼは教会の一角にある一つの民家で行なわれたけれど、これが中々に難航した。わたしが鬼になったのだから、尚更のこと。


 それでなくても、子供達は体も小さくその家を熟知しているのに。

 一人を見つけるだけでも、軽く十分以上は費やしたはずだ。


「お姉ちゃん、かくれんぼ下手だね」

 鬼を交代して、隠れる側に回った時、子供達に言われてしまった。

「・・・・・・な、慣れてなくて」

 きっと、鬼をした時の頼りなさと、わたしが一番最初に見つかった時の事を含めて子供達はそう結論付けたのだろう。わたしは思わず瞳を泳がせた。


「じゃあ、僕たちが教えてあげるよ。そしたら、きっとじょうずになれる」

 一人の男の子がそう提案してくれた。

「そうですね」

 リファもその提案に賛同する。

「うん!お姉ちゃんがんばって」

 二―ルくんも拳を握り締めて応援してくれた。

「オレが先生になってやるよ」

 キュシュがなにやらはにかみながら申し出た。

「うん。お願いします、先生」

 笑顔で返事をした。


「皆さ~ん、昼食の用意が出来ましたよ~」

 決して遠くない距離から、ロレアさんの声が聞こえた。


 ロレアさんは、教会に住み込みで働く女性の事だ。

 リファと一緒に、子供達の世話をしている人。


 牧師様を父だというならば、きっと彼女はお母さんの位置に居る。


 けれど、ロレアさんはもう五十代ぐらいだから、おばあさんになってしまうのかもしれない。結婚していたら、牧師様くらいの子供がいてもおかしくはないのだから。


「ごはんだ!」

「お腹減ったでしょ?」

 片手を二―ルくんと、そしてもう片方をジュリちゃんと繋いで歩きながら、周りを歩く子供達を見た。


 朝から遊んでいたんだ。

 何を隠そう、このわたしも、さっきまでお腹が空いて死にそうになっていた。


 教会の離れにある食堂には、すでに他の子供達と旅の一行、そして牧師様が座ってわたし達のことを待っていた。


 寝泊りは民宿にしているわたし達だけれど、食事は子供達と共にしている。

 彼らにとって、たくさんの大人達は珍しいことなのだろう。だから、誰よりもお近づきになりたいと思っているようで、旅のみんなの隣の席を巡って、いつも子供達の間で争奪戦が起きている。


 サンジュ父さんやカインは、快活な男の子達の間で人気が高く、ルイさんはもちろん女の子達に好かれている。バーントさんやコウヤさんの周りは、どちらかというと大人しい子供達が多い。


 わたしの場合、いつも二―ルくんとジュリちゃんに囲まれている。けれど、時々他の子供達もやってくる。

 その層は実に広い。嬉しい。


 牧師様もリファも、いつも以上に活動的な子供達を微笑ましそうに眺めていた。


 彼らの表情が、まるで子供達の両親のように見えてしまうのは、わたしだけなのだろうか。牧師様がお父さんだというならば、リファはきっとお母さん。お姉さんなんかよりも、その方がしっくりくるのだ。


「今日はピラフですよ」

 ロレアさんの手伝いとして、リファとわたしは昼食の配膳を開始した。


 その際、まるで当然とでもいうようにコウヤさんが手伝ってくれたのは予想していた。本当に、彼は、下手すれば普通の女の人より気が回る。

 ピラフのおいしそうな匂いが、食堂に満遍なく広がっていった。


「さぁ、皆さん。今日もまた食事を頂ける事に感謝をしましょう。感謝の気持ちを忘れずに、残さずすべていただきましょう」

 牧師様の号令で手を合わせた後、食事の時間が始まった。


 ロレアさんの料理はおいしくて、何度もおかわりを要求してしまう。

 それは他のみんなもそうだ。


 特に子供達なんかは、すごい勢いで食べ始めている。まるで競争をしているみたい。

「おかわり!」

「ボクも」

 二―ルくんもその子供達の一人だ。

とても楽しんでいるようなので、今回は大目に見ることにしよう。


 ついでとでもいうように、わたしもカインもおかわり合戦に参加した。

 


●  ●  ●  ●  ●  ●  ●


 昼食が終われば、また子供達と一緒に遊ぶ。


 今度は、牧師様やバーントさん達も誘っての鬼ごっこだ。

 もちろんカインやサンジュ父さん、ルイさんやコウヤさんも強制参加である。


「じゃあ、ここはサンジュ父さんに走ってもらおう!」

「マツリ、お前、一番年上の俺を走らせる気か」

「いい訓練になりますよ、団長」


 珍しく、カインもわたしの援護に回ってくれる。

 みんな参加ということもあって、みんなテンションがハイになっているよう。もちろん、わたしも例外ではなかった。


「無理だろ、どう考えても。これだけの人数を一人で捕まえるのは無理があるぞ」

 サンジュ父さんは少し青い顔をして食い下がる。


 そんな彼の意見を聞き入れたのは、もちろん他でもないコウヤさんだ。

「団長の意見も一理あります。私も共に捕まえる側に回りましょう」

 やっぱり彼はどこまでもやさしい。


「コウヤはなしじゃないかい」

 ルイさんが反論の声をあげる。


 確かに、コウヤさんは仕事上こうゆう事になれているかもしれない。それを思い出したわたし達旅の仲間は、一斉に反論に回る。


 もちろん、サンジュ父さんは賛成側だ。


 結局、範囲の広さを指定しても、参加する人間の多さを配慮して、サンジュ父さんとコウヤさんが鬼に決まった。


 ちなみに、この世界には、『鬼』という概念が無いらしい。

 鬼、ではなく、率直に『捕まえる人』なんだそうだ。


 だから、うっかり鬼と言ってしまわないように気をつけなければいけない。一々説明するのも面倒だし、なにより、どこでボロが出てしまうかも分からない。


「おねえちゃん!いこう」

 ジュリちゃんがわたしの服の袖を引っ張って走り出した。


 その後ろをセピアがついてくる。

 数名の子供達は、足の悪い牧師様の補助にまわっていた。


 二―ルくんはキュシュくん達と行ってしまった。

 夜や朝はいつも通りわたしにベッタリだけれど、こうやって遊ぶ時は他の子供達といる時の方が多くなった彼。こうやって少しずつ、たくさんの事を知るようになっていくんだろう。


 サンジュ父さんが走ってくるのが見えて、わたしはジュリちゃんと一緒にその場から逃げた。



 

 ―――旅のみんなにはもう伝えてある。


 わたしが何を見つけたのかとか、元の世界に戻ったら何をしたいのかとか。だから、元の世界に変える方法を諦めたくないとも。

 彼らは静かに聞いてくれた。

 

 そしてただ一言、「よかった」と言ってくれた。


 本当に、ただそれだけだったけれど。




「マツリ!」 

「わっ!?」


 サンジュ父さんは、当たり前だけど足がとても速かった。

 ジュリちゃんと逃げていたけれどすぐに捕まって腕を捕まれてしまった。


「あ~あ、もう捕まっちゃった」

 そう笑いながら後ろを振り向いた瞬間、力強く抱きしめられた。


 太い腕に体を締め付けられて、一瞬息が止まった。


「サンジュ父さん?」 

「・・・・・」 

「ねぇ」


 すぐに腕が離れた。先ほどの行動を誤魔化すように、頭をワシャワシャと少し強く撫でられた。


「よし、お前らは教会に戻ってろ。俺は他のやつらを捕まえてくる」

「サンジュ父さん」


 彼はまるでわたしに声が聞こえないように背を向けると、そのまま去って行った。


「おねえちゃん、もどろ」

 サンジュ父さんの行動が気にかかったけれど、本人はもう声の届かないような遠くに居る。仕方がないので、ジュリちゃんに手を引かれてわたしは教会に戻る事にした。




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