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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第六章:未来への道標
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Ep.14


 これまで、たくさんの村や町を見てきた。


 そこには、確かに生活に困って居る人々や、住処がなくなって途方に暮れている人々もいた。だけどみんな、助け合って生きていた。

 村の人間同士が助け合って、必死に生きていこうとしていた。


「・・・」


 人攫いにあって、大変な思いをした。

 それだけでも、この国の裏をみたと思ったのに。


 それ以上に悲しい裏側があったのか。


 路地裏にひっそり存在する子供達を見つめて、わたしは焦燥感に襲われた。


「彼らは、戦争で家族を失った子供達です」

 隣を歩いていたコウヤさんが説明してくれた。その声はどこまでも静かで、わたしの中に生まれた焦燥感をさらに煽る。


「・・・どうして、小さな子達があんな・・・」

 さきほど見た子供達は、薄手の服を着ていた。

 もうすぐ冬が来るというのに、夏服と大差のない格好で。それでも寒いのか、たくさんの子供達が寄り添っていた。少しでも体を温めようとしているかのように。


 薄暗い場所に集う、たくさんの子供達。


 暗がりの中で、大きな目だけがギラギラと光って見えた。

 背筋がぞっとした。


「戦争が終わったばかりの今、誰も彼らに気を回せるような人は居ない。皆、自分の生活に必死なんですよ」

「・・・」

 責める言葉が見当たらなかった。


 わたしにはどうすることも出来なくて、マントのフードで視界を隠した。こうでもしないと、心が動いてしまいそうで。見てみぬ振りなんて出来そうにない。


 みんなの後を追おうと歩き出した時、誰かがわたしのマントの裾を掴む。

 驚いて視線を向ければ、二人の子供達が立っていた。兄と妹だろうか。二人共半袖で、頬はすっかり痩せこけて。


 けれどその身体の細さに反比例するような大きな瞳はぎょろぎょろと光っている。

 彼らが何を思ってわたしを見ているのかぐらい、わかった。

 姐さんから貰っていた果物の存在を思い出したわたしは、鞄の中をのぞく。

 こんな風に見つめられて、何も渡さないで行ってしまうなんてこと、わたしに出来るわけがないじゃないか。


 けれど、鞄からリンゴを一つ取ったところで、バーントさんに腕を捕まれた。

「マツリ、だめだ」

 厳しい表情でわたしを止める彼。


 彼は無情にも、マントを握っている子供達の手を引き離す。それからわたしの腕を取って歩き出した。


 遠のいていく、二人の兄妹。棒のように細い彼らは、すぐに見えなくなってしまった。バーントさんはただ歩きつづける。周りには見向きもせずに。それがあまりにも非情に見えて、わたしは抗議する。


「バーントさん、なんで、あんなひどいこと」

「・・・・」

「あの子達にリンゴ一つ上げるくらい・・・」

「一人にやれば、他の者にやらないといけない。そんな事をすれば、きりがないんだ。今は、ただ堪えていろ。この国に住む全員が裕福になることはできない」


 何かを堪えるようにそう言ったバーントさん。

 見上げれば、唇を噛み締めた彼が見えた。

 非情なんかじゃない。そうするしかなかったんだ。


 彼の言う事は正しい。一人の子を救えば、他の子供達も同様にしなければいけなくなる。この国に数多居る孤児の子供達。

 彼らを一人一人救うとなると、かなりの年月が必要になるだろう。


 そうでなくても、今の国の状勢は大変なのに。


「上に報告して、近くの教会に引き取ってもらおう」 

 サンジュ父さん達と合流する時、バーントさんがそう呟いたのを、わたしは確かに聞き取った。


 彼だってなんとかしたいんだ。

 だから、こうして旅をして色々なものを見て、考えているんだ。


 サンジュ父さんとバーントさんとコウヤさん、そしてルイさんは何かの話合いのために、この街の市役所のような場所に行ってしまった。


 残されたわたし達は、カインとセピアの護衛の元、街を歩く。

 昔はカラナールに並び賞される街であったことをうかがわせる建物が並んでいたが、それも大半が崩れ去り、人々が忙しそうに復旧作業に勤しんでいた。


 その合間合間に見える、子供達の姿。


 カインもまた、ひどく悲しそうな顔で彼らを見つめていた。

 誰だって、考える事は一緒。

 何人かの子供達が、ゴミ捨て場でゴミを漁っているのを見つけた。二―ルくんよりも、幾つか年下の子供達。

 きっと食料を探しているのだろう。


 しかし途中で大人に見つかって、怒鳴られ、散り散りになって逃げていった。


「・・・っ」

 思わず抗議をしようかと足を踏み出したとき、リファに止められた。

「この街の掟は、彼らにあります。部外者のワタシ達に、口出しはできません」

 彼女の瞳は静かだった。


 そうだ。彼女もまた、孤児で。彼らの気持ちが分かるのだろう。


「しょうがない、こと、なんですよ」

 彼女らしからぬ言葉を聞いた時、わたしは現実を悟った。


 そして、どれだけ自分が恵まれた環境に居たのかを思い知る。

 自分がどれだけ平和な世界に居たかを実感する。

 両親はいなくても、世話をしてくれる祖母や人々、そして食べ物に困らない生活を持っていたのだから。

 日本はとても平和で、安穏としていて。



 ―――ニュースでも流れていたじゃないか。わたしの世界でも、たくさんの子供達が苦しんでいる。今まで、酷いこととは思いつつ、そんなに深く考えてこなかったけれど、なんの罪もない子供達が苦しむなんておかしい。

 子供達は何もしてないのに・・・・。争いを起こしているのは、大人達なのに。


 脳裏にニュースで見る、子供達の姿が蘇る。細すぎる体に、恵まれない環境で生き抜く精神。それでも、力がないばかりに犠牲になる彼ら。


 何が違うんだろうか?

 何が、どう。

 あの子達は、何も間違ったことなんてしていない。


 日本で生きる子供達と、違う所なんて一つもない。母と呼ばれる人のお腹に宿って、そしてこの世に生まれでた。

 ただ、生きる場所が違うだけで、こうも色々な事が違ってしますうのだ。

 

 ―――なんて、悲しい世の中だろう。

 

 すごく皮肉だ。

 異世界に来て初めて、こんな事を感じて。

 

「行くぞ」

「・・・・うん」

 カインに促されるがままに、わたしは彼らの後に続いた。


 ふと振り返ったその先に居たのは、先ほどゴミ置き場に居た子供達。


 大きな瞳をこちらに向けて、ただじっとわたしの方を見つめてくる。

 目立つ格好をしていたからか、それとも、見慣れない人間だったからか。

 理由はどうであれ、わたしと彼らの視線は交差した。


 子供達はすぐに逃げていってしまったけれど、わたしはしばらくの間その後ろ姿を見送った。

 胸の奥に何かキラリ輝くものを見た。

 

 それは、まるで、わたしを導くような、そんな。




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