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キセキが起きるその場所へ  作者: あかり
第六章:未来への道標
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Ep.12

連続投稿最終話です。今回は区切りの良いところまで一気に進めてみました。


 お祭り一日目は、リファとサンジュ父さんと二―ルくんと回った。


「なんだ、一気に子供が増えたみたいだな」

 わたし達が騒いでいる後ろを、保護者同然のようについてくるサンジュ父さんが苦笑いした。


 ちなみ、先ほど、焼き鳥のような肉の棒を買ってもらったばかりだ。匂いや味は焼肉に酷似しているけれど、こっちの方がよほどボリュームもあって長い。

 これ一本だけで、お腹が一杯になりそうだ。


「「おいしいねぇ」」

 わたしと二―ルくんが声を揃えて笑い合い、リファは少し戸惑いながらサンジュ父さんにお礼を言っている。

 彼女も、祭りに参加するのは初めてらしい。


 しかも、こうやって何かを買ってもらうのも初めてとの事。


「あんまり離れるなよ」

「だいじょうぶー」

 二―ルくんが笑った。

「あ、サンジュ父さんも食べる?」


 焼き鳥の棒を差し出せば、サンジュ父さんが一口齧り付いた。


「これ、おしいね」

「あぁ、そうだな」

 わたしが笑いかけると、サンジュ父さんは少し泣き顔にも似た苦笑を浮かべてわたしを見た。

「?」

 少し不思議に思った。

「次は何を見ましょうか?」

 けれどすぐにリファの声がかかり、わたし達はまた、祭りの騒ぎの中に戻って行った。




 二日目は、旅の仲間みんなと回った。


 今更ではあったけれど、仲間達はみんなイケメン揃いのため(サンジュ父さんもバーントさんも、おっさんだけどハンサムなんだ)みんなの視線がわたし達の周りに集まった。


 リファも可愛い事に変わりはなく、セピアという狼も一緒にいる。

 人々の視線を集めるには十分な要素だ。


 それでもみんな、各々祭りを楽しんでいたようだ。


 コウヤさんが、屋台にあるもの一つ一つを丁寧に紹介してくれたおかげで、たくさんの知識も身につ

いたきがするし。


 カインは何故か的当てのような遊びに夢中になっていた。

 使うのは、矢で、それを投げて的に当てるというもの。点数によって、賞品がもらえるのだ。


「あ、あの置物かわいい!」

「ぼく、あの望遠鏡がいいなぁ」


 カインが集中しているのを応援している最中、賞品の並んでいる棚に目をやったわたしは、そこに置いてあるガラスの置物に心を奪われた。立体的雪の結晶の形としたそのガラスの置物はとてもキラキラしていて、とても綺麗。


「カイン!がんばって!!」

 自然と、応援にも力が篭った。


 すると、コウヤさんとルイさんもその的当てに参加すると言い出した。彼ら曰く、多くでたほうが、取れる率も多くなるだろうからということ。


 当然、皆さん持ち前の運動神経と野性的勘をもとに、それぞれ賞品をゲットしてくれた。


 わたしのガラスの置物はコウヤさんが。二―ルくんの望遠鏡はルイさんが。そして、カインが取った熊のぬいぐるみはリファに渡された。

 その時も、リファはひどく戸惑っていた顔をしていたけれど、最後には嬉しそうに笑っていた。



 最終日も、みんなで回った。


 その日の夜は、花火があるということで、周りに人達も少し浮き足立っているみたい。どんな色の花火が打ちあがるかとか、興奮しながら話しているのをよく聞いた気がする。


「・・・ここの花火って、どんなものがあるの?」

「マツリさんの国にも、花火はありましたよね」

「そっか、コウヤさん知ってるもんね」


 前に、コウヤさんとカインと一緒に日本に戻った際、何度か花火のことについて取り上げた番組がテレビで流されていたっけ。

 二人共すごく驚いていたから、てっきりこっちにはないものと思っていたのだ。


「あそこまで高い技術はありません」

 コウヤさん達が驚いていた理由はそこなのか。


 確かに、あの時の花火は、ハートの形とか、ナイアガラの滝とか、結構すごいものがあったな。


「ただ、色のついたものが空に打ちあがるだけですよ」

「それでも、花のように見えるけれどね」

 ルイさんが声をかけてきた。

「・・・へぇ」 


 やっぱり、少し不自然な感じになってしまう。


 どうしても、ルイさんが直視できないのだ。

 彼は元々背が高いので、目を合わせなくてもいいんだけど、話ている時は否応なしにでも顔を合わせないといけない。

 じゃなきゃ、失礼になるから。


「マツリ、いいもんがあるぞ」

 タイミングよく、カインが誘ってくれたおかげで、その気まずさから逃れる事が出来た。


 

●  ●  ●  ●  ●  ●  ●


 しかしまぁ、なんでこんなに小説のような展開になってしまうのか。


 今の状況に、緊張とかよりも溜息の方が先に出てしまう。


「ん?」

 この溜息の元凶ともいえる人物は、わたしの溜息を聞きとがめ、その麗しい笑みを向けてきた。


 いや、っていっても、この状況を生み出したのは他でもないわたしなんだけど。


「マツリ、君は本当に、なんでここまで迷子になるのかな」

「・・・・さぁ?」

「私が見つけなかったら、また同じ事を繰り返していたかもしれないね」

「・・・・ぐ」


 そうだ。


 もうすぐ花火が始まるという頃、わたしはまたもや仲間達からはぐれてしまったのだ。簡単にいえばまた迷子になってしまったということ。


 けれど、あれだけ注目を集めているみんなのことだから、すぐに見つかるだろうと高を括っていたから失敗した。

 みんな、わたしを探すために分散したらしく、ルイさんが見つけてくれなければきっとわたしはもっと迷子になっていたと思う。


 迷惑をかけたという自覚はあるので、何も言えない。


 とういうか、なんで、よりによって、わたしを一番に見つけたのがルイさんなのだろうか。

 ほんと、勘弁してもらいたいんだけど。


「マツリ」

「は、はい!!」

 ルイさんに名前を呼ばれ、声が裏返ってしまった。


 あぁ、わたしって奴は、なんてわかり易い人間なんだ!


 案の定、ルイさんも少し驚いたように瞠目して、それから口元を抑えて笑い出した。


 あいにく街の片隅にあるこの場所に、あまり人影はない。


 だから、こんなに綺麗なルイさんが居ても、そんな彼が爆笑していても、気に止める人は居ない。わたし意外には。


「・・・っ」

 彼があまりに笑うものだから、恥かしくなった。

「マツリ、君はわかり易いよ。すぐに、考えていることがわかる」

「・・・左様ですか」

「まぁ、時と場合によって違うけれどね」 

「え?」

 意外な言葉に今度はわたしが驚く番だ。


 いつの間にか、目の前にルイさんが居た。


 反射条件で後ろに下がろうとしたけれど、腕を捕まれてそれを拒まれる。

 わたし達の間には、人一人分の空間しかない。


 すぐ前に、ルイさんの静かな面差しがあった。


「本当に辛いことだけは、うまく隠すから、始末に終えないんだよ」

「・・・・」

「ご両親のことも、あの時君が夢で魘されていなければ、きっと私達は気づかなかった」

「それ、は」

「マツリ、私は、君が好きだ」

「!!」


 唐突な告白の言葉に、心の臓が一度、大きく跳ねた。


「カシギの言葉を借りるわけじゃないけれど、君を、一人の女性として、愛している」

「・・・・」


 卑怯。ずるい。


 なんでこんな時だけ、そんなに真剣な顔をして言うの。

 いつもみたいに、甘い笑顔でもなければ、魔王仮みたいな意地悪な顔でもない。見た者すべての心を奪うような、男の人の顔をして。


 急に胸がドキドキしてきた。


「わ、わたし・・・は」

 あぁ、なんて言えばいいんだろう。


『・・・・確かに、性格にはちょいと問題があるかもしれないが、外面はあんなにいい男なんだ。そんな男に惚れられた自分を褒めてもいいと思うけどねぇ』

 姐さんの言葉が脳内に蘇る。


 すこしだけ、嬉しくなってしまった。


 こんなにかっこよくて綺麗な人が、わたしのことを好きだといってくれる。素直に、嬉しく思えた。

 でもそれは、彼を受け入れるのとはまた違う意味で。


「ルイさんは、知ってるでしょ。・・・・わたしがいずれ、元の世界に帰るってこと。そのために、今、みんなと一緒に居るってこと」

「・・・あぁ」

「だったら、どうして」

「愛しいと思ったから」

「・・・っ」


 ルイさんの真剣な顔は変わらない。ただ静かにわたしを見つめてくる。


 それが、わたしと彼の違いを思い出させた。

 わたしはまだこんなに子供だ。こんなに幼い。ルイさんに比べれば、ずっと。


「私はマツリに惹かれた。・・・・最初は我慢しようとしたさ、でも、もう、出来ない。どうしようもないくらい、君に惹かれているから」

「ルイ、さん」

「君がいつか帰ることは知っている。だからなんだい?それだけの理由で、君を想う事を止めると?そんな事ができると?」

「ルイ・・・さ」

「だめなんだ。もう、君しか」

「ルイさん!」


 これ以上聞いたらだめだ。

 わたしは大きな声を出して、ルイさんの言葉を無理矢理遮った。


 彼はわたしなんかを選んじゃいけない。選んでは、いけないんだ。


「ルイさん、だめです。わたしは、あなたの想いには、答えられない。・・・・・わたしはいつか自分の世界に帰る。でも、ルイさんはこの世界にいなくちゃ、だめ」

「何故?君の父上はすべてを捨てて君の母と一緒になった」


 ルイさんは食い下がる。


 こんなにわたしを想ってくれているのかと想うと、すごく、胸の奥が痛くなった。わたしの父と、ルイさんとでは、立つ位置が違いすぎるから。


「ルイさんには、シナちゃんが居る。シナちゃんには、医者であるあなたが必要。・・・戦争の傷が癒えないこの国の人々には、天才医師といわれる、あなたが、必要なんです」


 だから、どうかわかってほしい。


 わたしは、あなたを受け入れられない。

 それにわたしは、ルイさんを仲間以上に想っているわけではない。

 そんな状態で、彼を受け入れる事はとても失礼なことだ。


「マツリ・・・」

 すごく悲しい顔をしたルイさんがわたしを見つめる。


 わかってる。わたしがどれだけ身勝手な事をしているのかも、どれだけルイさんに失礼なことを言っているのかも。


 でも、わかって。 


 わたし達は、あまりにも、生きる場所が違い過ぎるってこと。

 母だって、一度は父と生きることを諦めたじゃないか。わたしをお腹に宿して、父には自分の道を生きてほしいと願ったじゃないか。


 わたしは、今、同じ事をしている。


「ルイさん、ごめん・・・な・・・」

 再び謝罪の言葉を口にしたわたしの言葉が、不自然に途切れた。


 目の前一杯に、目を閉じたルイさんの顔。わたしの肩にはルイさんの大きな手が置かれて、わたしの唇には、ルイさんのそれが重なっていた。


「!?」

「黙って」

 一度唇を離した時、小さくそう言われた。

「マツリは、私がどんな人間か、知っていると思っていたよ」

「・・・え」

「私は、誰よりもずるくて、卑怯で、諦めの悪い人間だ。君が他の男と話しているだけで、嫉妬してしまう、心の狭い人間だということ、知っていたはずだろう?」

「・・・う」

 開き直ったかのようなその言い草に思わず言葉が詰まる。


 その時、後ろで何かが大きな音を立てた。


 緑や赤、黄色に染まる周りの景色。


 ――――花火が始まったのだ。


 一度見てみたくて、わたしは今の状況を忘れて後ろ向こうとした。


 けれど、それも虚しく失敗に終わる。


「本当に、厄介な人間に惚れられたね」

「んっ」

 強引に引き寄せられて、また、口付けをされた。


 今度は触れるだけじゃない、もっと深いもの。


 啄ばむようなキスを繰り返し、それからもっと、深く、重ねられたそのキスは、ルイさんの今の気持ちを如実に表しているようで。



 ――――花火なんか、もうすっかり忘れてしまった。





奴がやりよりました笑

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