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序章:認知と忘却

「生きているという事の証明出来なければ、それは死んでいると同じ事では無いのだろうか?」


 その考えに否定出来る理由も無ければ肯定する理由も同一である事は確かだった。

 彼もしくは彼女は思量深げに悩むと、口から『んー』と声を漏らした。

 どうやって伝えるべきか悩んでいるという感じだ。

 脳にある情報を誰だって人に伝える事は難しい。簡潔にいかに簡単にまとめる作業は人によって言語ひいては単語をどれだけ知っているかによって変わるし、相手の読み取る能力も異なってくるからだ。

 僕だって自分の頭にある事を言語にまとめるのはかなり苦手だ。どうしても起承転結というのが出来ないのである。話始めたら途中で止まってしまい、その後どうしても口ごもってしまう。


「例えば認知がされなかった人間はどうだろう、親が腹を痛めて産んだ我が子を認知出来ない場合、その子供は果たして生きていると言えるのだろうか? はたまた、子が親を忘れた場合もそれは生きていると言えるのだろうか?」


 やはりそれも否定も出来なければ肯定も出来る筈も無い。前例が無いのだ、所詮この話は仮定でしか無い訳だし、想像でしか無いわけだから論議としては間違っちゃいないだろうけど、生きる死ぬの問題に対しては少しだけ問題点がズレているような気がした。


「それは産まれて来なかったと同意語なのでは無いのだろうか? 記憶は酷くあやふやな物であるのだから、親が自分の子供では無いと理解した場合。もしくは誤認した場合、それは無意識による酷く無粋で滑稽な虐待では無いのだろうか?」


 虐待という定義に子供を認知しない。などという項目があるのならそうなのかも知れないが、虐待は暴力と精神的外傷の産物では無いのだろうか? そもそも忘却、はたまた痴呆にかかった親を誰が責められようか。親に悪意は無い筈である。虐待は悪意もしくは憎悪、怨念、好意の部類に入るのでは無いのだろうか?

 可愛すぎて子を殴る親も居るかも知れないでは無いか。

 前例はやはり――見た事は無いが。


「ん? 君はまた至極当然のように虐待とは暴力であると考えて無いか? 今はそんな話をしていないだろ? 認識しているか、していないかの話だ。そもそも君は虐待は肉体的外傷しかり精神的外傷などと考えているのか? 私はそうは思えない。虐待とは親に異常に愛されているという事だ」


「なら虐待などしない筈じゃないか」


 思い上がって訊いてしまった。

 こうなると僕の友は喋る事を止めようとはしない。どこぞの古本屋亭主兼神主によく似ていた。


「いやそれが異常なんだ。彼らもしくは彼女らは子供のあやし方、愛情の注ぎ方を知らない。それは彼らひいては彼女らが幼少の頃に愛されなかったからだ。それ故、その愛情を歪んだ形でしか表現が出来ない。彼女ら彼らはだから暴力によって愛情を注ぐんだ」


 歪んだ愛情を持った人間。

 心理学的根拠に基づくならば幼少の頃に受けた記憶とでも言うのだろうか?

 虐待をしている親というのは科学的調査では八割方、幼少の頃に肉体的外傷を受けている。それは隠しようもない事実だ。

 しかし、その事実と忘却。

 一体どのような関係があるというのだろうか?


「関係は無いさ。ある訳が無いだろ? ただ虐待と忘却は切っても切れない関係にあるんだ。言うなれば脳と心のような関係だよ」


 なる程。彼女いや彼にしてはもっとも分かり易くもっとも歪んだ比喩をだと僕は思う。

 ――しかし。


「君がオズの魔法使いが好きだと始めてしったよ」


 少しだけ彼女と彼に向けて皮肉を垂れた。

 こうでもしないとまた彼女と彼のペースに持っていかれそうだからだ。

 反論を唱えなければ彼女しかり彼はいつも僕を丸めこむのだから。


「あの作品は最高だよ? 沙希がよく見るんだが何回見ても飽きないね。昔は心と脳は別々であると思われていたのだから科学の発展がよくわかる」


 確かに昔は人の脳と心は別々の物だと考えられていた。それこそ案山子が心。ロボットが脳であるかのようにだ。それはどこの国でもそうだった。それは日本も例外ではない人魂、魂、鬼火などの存在は脳ではなく心にあると思われていたのだ。

 実際は精神や精神的という類はすべて脳にあると分かったのだが。

 だが――今現在目の前にいる人間は一体どうだろう?

 コイツの場合は心と脳。

 どちらに分けられると云うのだろうか?


「なんだ、僕か? いや、僕らか僕らはどちらでもない、心が二つあるんだ」


 彼、彼女はそう言って笑う。

 肩まであるしなやかな黒髪に、切り目の細い瞳そんな目でありながら瞳孔は人より少しだけデカくて限りなく深い闇によく似ている。

 汚れをしらないような真っ白なカッターシャツを第二ボタンまではずしているせいで、ピンクのブラジャーが少しだけ顔を見せている。

 女の子独特のふっくらとした輪郭はどこか幼女を思わせる。

 そう彼女は女だ。

 ――女であり男なのだ。

 ただ少しだけ変わった……いや、凄くまともでまともでは無い理由があるだけだ。

 彼女の名前は『速水 沙希』という。

 そして――


「で? 今日はどうしたんだ。僕が“出ている”日に会いに来るなんて珍しいじゃないか」


 そう言って彼は笑う。沙希の顔をして笑みを浮かべる。それは彼氏という名称を持つ僕にとって面白いとは言えない事だった。


「また何か問題事か? 親友」

「その呼び名はやめてくれ、お前が生きてるみたいに感じる」


 そう言うと彼は苦笑でもするかのように右頬だけを上げて苦笑する。

 『まだ生きてるさ』そう言わんばかりの苦笑だった。

 しかし僕は本題に入らなければならない。その為に今日、ここにやって来たのだから。

 そうじゃなきゃ何しにここに来たのか分かった物ではない。


「さっき認知という話をしたが、人間がもし忘れられない存在だとしたらお前はどうなると思う?」


 忘れられた存在と忘れられない存在。

 その価値は同一であるのだろうか? はたまた等しい存在なのだろうか。同一では無いはずである。裏とも表ともつかない対極に位置する存在だ。


「ふむ。また奇妙な事を言い出すね君は。忘れられない存在か。多分、仮定で論弁を述べるというならば多分、死ねないだろうね」


 彼はそう言う。

 しかし、その後彼の顔から笑顔が消える事になる。

 それは確実に忘れられない存在であった。


「速水 己克という名前の死体が上がった。年齢不詳の放浪者だ。お前の死体だよ。二年前に死んだ筈の――な」


 彼は絶句を通り越して僅かに苦笑した。

 『確かに忘れられない存在』だと苦笑しながら静かに表情を消した。




 これから伝える物語は酷く無粋で酷く無関係な物語だ。

 関係の無い場所で勝手に始まり、関係の無い場面で勝手に終わった物語だ。

 それを読みたいというのなら僕は止めないが、出来れば見ない方が懸命である。

 それでもみたいと言うのなら止めやしないが……

 そうだなヒントというならこの物語は二本の物語が合わさってできた物語だ。

 だから多重変奏曲。

 その言葉が一番相応しい。


大嫌いな大嫌いな連載をしてしまいました。

でも連載書きたかった

下手すりゃ途中で飽きるかもしれません。

投稿は不定期ですがあまり気にしないで下さい。

マイペースでやりたいと思います

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