悪役令嬢とヒロイン、イケメン、サキュバス
あれから数日後、レーアは学園でのイベント発生に遭遇していた。
「あっ! ご免なさいっ!」
「いや…………言いんだ、気にしないでくれ」
主人公マルレーネとミヒャエル王子たちの出会いと言う場面である。
「はああ、何度見ても飽きないわ? でも、本来なら、あそこに立つのは私なのよね」
遠巻きに、レーアは二人を観察しながら、ニヤニヤとした笑顔で呟く。
イケメン男子は、ミヒャエル・フォン・フォルクヴァルツ第一王子だ。
王国一の美男子と言われ、文武両道であり、次期国王になる人物だ。
明るいカールしな金髪に、光輝く青い瞳、スラリとした高身長が、とても目立つ。
「まあ、流石に王子さまは無理よね? 私の家も大貴族だけど、恋人同士の恋愛は邪魔できないわ」
レーアは、二人を静に見守りながら、嫉妬を抱きながらも、穏やかに呟くだけである。
他にも、この学園には、教師や異国から留学してきているイケメン男性が多数存在する。
「王子さまは無理でも、異国の王子さまや教師だったら…………ウフフ♡」
そう考えながら、両手を頬に当てて、レーアは恥ずかしい妄想に耽ようとする。
「また、あの女ったら許せないわ」
「王子さまに手を出して」
「泥棒猫めっ!」
「キィィーーーー!」
レーアを余所に、取り巻きである貴族令嬢たちは、嫉妬心をむき出しにしながら怒り狂う。
なにせ、マルレーネの相手は、超イケメン王子様だから、余計に苛立つワケだ。
「うぅぅ? 頭が痛くなってきたわ…………確か、この後、原作では悪役令嬢=私が魔物を召喚して、マルレーネを暗殺しようとするのよね」
取り巻きたちが憤慨する中、レーアは冷静に次なるマルレーネへの嫌がらせを考察する。
呼び出された魔物たちが、男子生徒と戦い、どさくさ紛れに貴族令嬢たちが、暗殺に動く。
これを主導するのは、本来ならば自分であり、作戦も考えねば成らない。
だが、今回は暗殺阻止のために、密かに主人公をサポートしようと彼女は考えていた。
「レーアさま、前々から計画していた魔物の召喚の儀式、近隣の魔獣の捕獲、学園への誘導準備は整っています」
「マルレーネの奴を、私たちで暗殺、または魔獣の餌食にするのねっ!」
学院の会議室として使われる余った部屋で、レーアを囲み、貴族令嬢たちは暗殺計画を企てている。
当然ながら、この計画に狂いを生じさせるべく、彼女はスパイとして、細かい情報を集める。
まさか、貴族令嬢たちも、自身らのリーダーが妨害工作をしているとは思わないだろう。
ここは、表向き魔獣保護サークルや部活の活動場所として、普段は使っている。
それに、顧問教師も、アクセルソン派であるため、ここには誰も来ない。
また、ドアには、頑丈な鍵と魔法が掛けられており、中を見る事や声を聞くのもできない。
「ええ、それでは皆さま…………私が魔物を召喚しますわ? ソイツに魔獣を率いらせて、学園で暴れて貰います」
そう言うと、会議室に描かれた円と星の魔方陣が、紫色に輝き、そこから淫魔が現れる。
奴は、紫色の長い髪に、ピンク色に光る三白眼と細い顔をした若い娘であった。
そして、口角を両方とも、ニィっと上げて、薄ら笑いを浮かべている。
頭からは、山羊の角が生え、黒い翼を背中に広げ、堂々と立っている。
黒いビキニ、イブニンググローブ、ロングタイツ、ガーターベルト等しか衣類は着ていない。
「召喚してくれたのは、誰でしょうか? ご主人様のために、私リリトーは必ずや力になりましょう」
そう言った瞬間、リリトーに見惚れてしまった一同は、彼女の魅了によって、動けなくなった。
これは、幻惑魔法とサキュバス特有のフェロモンを組み合わせた技だ。
「彼女、キレイ…………♡」
「本当に、そうだわ」
「はああ、何だか彼女を見ていたら、下腹部が熱く…………」
「いやん、ダメなのに惚れちゃう」
黒髪ロングヘアの貴族令嬢は、リリトーに見惚れてしまい、目にはハートを浮かべている。
金髪ショートヘアの貴族令嬢も、椅子に座ったまま、ボケ~~としながら口から、ヨダレを垂らす。
足をくねらせ、身震いしながら、茶髪ボブヘアの貴族令嬢は、頬を真っ赤に染める。
目をそらして、意識を保とうとする白髪ミディアムヘアの貴族令嬢も、額から汗を滲ませる。
「しまったわ、原作では、レーアが魔王化するけど、彼女も嫉妬心や計画を利用されていたのねっ!」
原作では、描ききれなかった細かい展開に、レーアは焦り、なるべくリリトーを見ないようにする。
「あら? 貴女は、魔力が強いようね? せっかくだから、私が直々に魔眼の魅了をかけて上げるわっ! 嬉しいでしょう?」
リリトーは、目を瞑り、苦悶の表情を浮かべるレーアに気がついた。
そして、彼女を獲物に定めて、目を細めながら、段々と近づいてくる。
「そおれっ♡ 束縛&魅了♡」
「ふあっ? や、やめ…………私は? レズは嫌………あ♡」
リリトーから魔法をかけられてしまい、レーアは驚きのあまり、目を開けてしまった。
「い、嫌♡ いやん、好きになっては…………なっちゃう? いや、ダメッ!」
「うぅ~~ん、かかりが悪いはねーー? 貴女たち、出番よ? その娘を拘束しなさいっ! そうしたら、好きにして良いわよぉ~~♡」
それでも、気力を振り絞り、魔眼の魅力にかかってたまるかと、レーアは抵抗しようとする。
とはいえ、彼女は体が動かせないため、リリトーは魅了するべく、次なる手段に出た。
「あと、魔力を注いで上げるわねーー♡」
そう言って、リリトーは全身から紫電を放ち、凄まじい魔力を貴族令嬢たちに浴びせ始めた。




