地味で、上等
私は、どこにでもいる“地味な女の子”だった。
黒髪ストレート、メガネ、シャツにカーディガン。喋るときも小声で、周りに埋もれて気づかれない存在。
でも、ある日。
放課後のコンビニで見かけた、同じ学校のギャルの笑顔に目を奪われた。
カラフルな髪に、キラキラの爪。声は大きくて、まっすぐで。
――かっこよかった。自由で、自信があって。
私は、私もこんなふうになれたら…と、思った。
その日から「変わろう」と決めた。
YouTubeでメイク動画を見まくって、ファンデーションの色も明るくして、髪は脱色剤で金に近づけた。
アイラインは長く引いて、つけまつげをつけた。服も明るく派手な色に。
「おはよー☆」なんて言って、自分でも笑っちゃうようなテンションで教室に入った。
みんな、びっくりしてた。
「えっ、誰?」「え、あの子が?」「似合ってるじゃん、意外と」
最初は、それが嬉しかった。
でも、日が経つにつれ、だんだん心が疲れてきた。
メイクも服も、毎朝“頑張らないと”って思わなきゃできない。
大きな声も、明るいリアクションも、心のどこかで無理してる。
家に帰ってメイクを落とすと、鏡の前にいるのは、ほっとした私だった。
そして、気づいた。
――ギャルって、「誰かみたいになろう」としてなれるものじゃない。
――本当に自由な人は、「無理してない」ってことだ。
それから私は、派手さは捨てたけど、自分らしさは捨てなかった。
メガネはそのまま。でも、レンズをちょっとおしゃれなものに変えた。
シャツの上には落ち着いた色のジャケットを羽織り、口元には控えめな色のリップ。
本も映画も、好きなものはそのままに。
「なんか、垢抜けたね」
そう言われるようになった。でも私は笑ってこう言う。
「地味で、上等。」
私が私でいること。
それが、いちばんの“ギャル”だって、今ならちょっと思える。