第四話 国境
追っ手の早馬が、地面をその蹄で打ち鳴らす音が聞こえる。
「アイリス。もうすぐ国境だ!!」
アズラン隊長が私を抱え、息も絶え絶えに声を挙げる。まるで自らにそう言い聞かせる様に……
隊長はもう私を抱えて二時間近く走っている。もう体力的にも精神的にも限界の筈だ……
もう、これ以上は無理だ、逃げられない……
国境沿いの橋を渡ったとしても追っ手が諦めるか……
もし諦めなかったら、絶望的だ……
どうすれば……
一体、どうすれば……
やがて、森を抜け国境沿いに掛かる橋が姿を表した。
深く険しい峡谷。
レイムロック峡谷。
騎士国家レイムロックの国境であり。敵国の侵入を防ぐ役割を持っている。その峡谷には一本の橋が掛かっている。
この国に出入りする為には必ず通る必要の有る橋であり、検問所も敷かれている。
ここを抜ける事が出来れば、もしかしたら助かるかもしれない、しかし……
追っ手の早馬が後方まで迫る音がする。
「止まれ!! 何者だ!!」
声のする方向を見ると、検問所から騎士が二人の飛び出して来た。
「私は聖峡騎士団、一番隊隊長アズランだ!! ここを通して貰いたい!!」
「ならぬ!! ならぬぞ!!」
検問所から出て来た騎士は隊長の言葉を聞くや否や槍をこちらに突き立てて来た。
「そうか、既に伝わっていたか……」
「魔女に拐かされた騎士隊長よ。今ならば、まだ間に合う。その魔女をこちらに引き渡せ!!」
アズラン隊長が一つ溜め息を吐く。
「そうか、ならば仕方ない…… アイリス、歩けるか?」
私は出来るかどうかわからないが、小さく頷いて見せる。
その様子を見て、隊長は優しく微笑み、私を地面に立たせた。
その瞬間……
「貴公らには恨みはないが、切り捨てるッ!!」
瞬時に身体を屈めた隊長がその低い姿勢のまま、騎士達の槍を避けながら懐に潜り込み、剣を引き抜き一閃の元に首を跳ね挙げてみせた。
す、凄い。
「アイリス!! 速く、国境を抜けるぞ!!」
「は゛ ……はい゛」
隊長が私の手を取り、橋のふもとへと誘う。
「私は少しの間、時を稼ぐその内に橋を渡れ。君が渡ったら、私もすぐに行く。いいか、振り返るんじゃないぞ!!」
「は゛い゛!!」
隊長が私の背中を押し橋を渡らせる。
追っ手の早馬の音がすぐ近くまで迫る。
私はただ一心に橋を渡る。
ただ一心に……
足に激痛が走る。膝にも脚にも痛みが駆け巡る。
脚の骨も折れてはいないかもしれないがヒビは入っているだろう。肋骨も肩も腕も、身体中に痛みが駆け巡る。
だけれども、ただ一心に歩を進め橋を渡る。
ただ一心に……
そして、橋を渡り切り振り返る。
そんな私の目に衝撃の風景が飛び込んで来た。
橋が無くなっていた……
「う゛そ゛……」