第三話 追跡者
地面を踏み鳴らし、怒濤の勢いでこちらに近づく蹄の音が耳に届く。
私を抱えている。ウェイド先輩がその音のする方向へと視線を向ける。
そして。彼、以外が瞬時に剣を抜いた。
その瞬間、木々達の間から矢の雨がこちらに降り注いで来た。
「追っ手だ!! 走るぞ!!」
隊長のその号令で皆が走り出す。
尚も弓の雨がこちらに向かって降り注いで来る。
木に矢が突き刺さる音。剣で矢を弾き返す金属音。湿った土に矢が突き刺さる音。そして、皆の息遣いに、追っ手が乗る馬の蹄の音。
あらゆる音が耳に届いてくる。
恐怖と、何も出来ない自分の情けなさが込み上げて来る。
声が出れば少しは皆の役に立てるはず。
拷問されて、集中力も精神力も磨り減ってるけど、矢除けぐらいな……
「ニ゛……」
私が呪文を唱えようとした瞬間、ウェイド先輩が私の口を押さえた。
驚いた顔でウェイド先輩を見る。
彼は微笑みながら首を横に振った。
「それは最後の手段だ、最後まで取っておけ。それにポンポン出来るモンじゃ無いんだろ?」
た、確かにそうだけど。この状況で何を言ってるんだ。
「て゛も゛……」
「大丈夫。俺が何とかするから……」
そう言った、ウェイド先輩の顔は先程の優しく微笑んだ顔から、戦士の顔へと変わっていた。
強く気高い戦士の顔に……
「アズラン隊長!! アイリスを頼みます」
「ああ、わかった!!」
その瞬間、ウェイド先輩が私を隊長に投げる様にして受け渡した。
「アズラン隊長、俺が時間を稼ぎますから少しでも遠くへ!」
「ああ、わかった!!」
な、なにを言ってるんだ!!
そんなの駄目に決まってる!!
しかし、背中を向けた彼の姿を見て状況を理解した。
幾つもの矢が背中に突き刺さっている。
騎士の誇りである白いマントは既に、どうして彼が立っていられるのか不思議な程、痛々しいまでに赤黒く染まっていた。
そんな、なんで……
そんなの決まってる。私だって馬鹿じゃない。
私を護る為に……
私を盾になる為に……
なんで、そんな事を。
なんで、なんで……
「彼は昔語っていた。自らの騎士道は愛する者を護る盾となる事だと。今、彼は正に自らの騎士道に殉じ様としている」
アズラン隊長の私を抱える腕に力が籠る。
「願わくば、彼にはその愛する者と共に生きて欲しかった……」
そんな……
私を助けたばっかりに、ウェイド先輩が……
どうして、どうしてこんな事に……




