第ニ話 逃走
湿った土や草の香りが鼻をつく。
まだ視界はぼやけ、定まらないが、恐らく森の中を移動しているのだろう。
「アイリス。大丈夫か痛い所とかないか?」
私を抱えるウェイド先輩が語りかけてくる。
返事を返そうとするが喉が潰れていて声が出ず、仕方なく頷いて返事をして見せた。
「そうか、良かった。絶対に助けてやるからな安心しろ、俺達に任せておけ」
ぼやける視界の中、ウェイド先輩がこちらに笑顔を向ける。
こちらも力無くでは有るが、笑顔を返す。
彼はこう言っているが。実際、難しい話だろう。
私を抱え、この三人で追っ手を振り払い国境を渡る……
あまりも不可能だ……
魔女狩りの陰険さと言ったら他に類を見ない。
簡単には諦めないことは勿論、どんな手段でも使ってくるはず。
そんな奴等を相手に四人で、しかも文字通り御荷物が一人。
「アイリス先輩。大丈夫ですから、安心してくださいね」
ジェット君が私の不安げな表情を察してか、優しく声を掛けて来てくれた。
ああ、私は駄目な女だ。
もう、この三人は私を助けた時点で魔女狩りの手からは逃れられない。疑いを晴らす統べもない。魔女狩りとはそう言う物だ。
疑われたら、その疑惑を晴らす方法はない。
大人しく死ぬしかない。魔女狩りとはそう言う物だ……
もう、私がうだうだと管を巻いてる資格なんて無いんだ。
助けて貰ったなら、私も下ばかり向いてうつ向いてる場合じゃない。
三人は自分がお尋ね者になる事なんて百も承知で助けに来てくれたんだ。その覚悟を私も受け止めなければ。
助かるんだ。逃げるんだ。生き残るんだ。
皆が助けたくれた命、繋がなければ……
「……みんな゛……ありがとう゛」
そう思うと、もうその言葉しか言えない。
「良いってことよ」
「気にしないでくださいよ、先輩!」
二人が笑顔をこちらに向ける。
太陽の様な温かくて優しい笑顔。
お願いだから、皆、無事でいられますように……