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ドミソラジオ  作者: 伊達幸綱
第一章
8/8

コーナー④ パラレルシンキング

『ドミソラジオ』



 少し大人っぽい落ち着いたジングルが流れた後、奏空はニコニコしながら口を開いた。



「さーて、このドミソラジオも後半戦。ここからも盛り上がっていくよー!」

「二時間だからここまでで一時間か。それで次のコーナーがこれだな」

「うん、それじゃあ次のコーナーに行きます!」



 奏空は一度溜めてからコーナーのタイトルを口にした。



「“パラレルシンキング”!」



 少し不思議な感じのBGMが流れた後、奏空は楽しそうに話し始めた。



「このコーナーではリスナーが送ってきた並行世界の自分について紹介していくよ」

「並行世界の自分……可憐な焼け野原さんの時に言った世界線がどうのみたいなのをどんどん読んでくわけか」

「そういう事。それじゃあ最初のおたよりいこうかな。ソラジオネーム、朝露に濡れるティラノサウルスの化石さん」

「どうつっこめばいいんだ? このソラジオネームは……」

「ソラさん、リクさん、こんばんは。並行世界の自分は今日も元気でした。以上、現場からお伝えしました、とのことです」

「……は?」



 情報が少なすぎる内容に俺は思わずそう言ってしまった。



「並行世界の朝露に濡れるティラノサウルスの化石さんは元気だったみたいだよ。よかったね」

「いや、元気なのは良いことだ。それは間違いない。でも、それだけなのか?」

「それだけだね」

「情報が無すぎるだろ! これでトーク広げろってムズすぎないか!?」




 ほとんど何もないところから広げろってどんな苦行だ。そんな事を思っていると、奏空は想いを馳せているような顔をした。



「朝露に濡れるティラノサウルスの化石かぁ……きっと地面から剥き出しになってるところが朝露で濡れてるんだろうけど、綺麗なんだろうね」

「早速広げてるし……そもそも化石が元気ってなんだよ。骨の恐竜が暴れまわる感じなら映画で観た事はあるからわかるけどさ」

「あんな感じで化石が動いてるんじゃない? それも朝露で濡れてる奴」

「いや、それ嫌すぎないか!? 見た人達、別の意味でパニックになるって!」



 B級のパニックホラーみたいな光景を想像していると、奏空は少し考えてから納得した様子で指を鳴らした。



「そっか! きっと化石ポ──」

『アニマート!』

「ある意味危険だな、その発言は。まあ俺も好きだったし、今のもやってるけどさ」

「名前は?」

「デフォルトのにしてる。だって、そのま──」

『マエストーソ!』

「あっぶな……まさか自分の発言に対して規制を入れる事になるとは」



 自分のうっかりに対してヒヤヒヤしていると、奏空はクスクス笑った。



「大丈夫だよ、リク。リクの本名も一部には知られてるから」

「いや、大丈夫じゃないからな!? 住所も本名も知られてるってだいぶヤバイだろ!」

「まあその件についてはラジオが終わったらちゃんと話そうか。それじゃあ次のおたよりに行くよ」

「はあ……そうだな」



 ため息混じりに言っていると、奏空は楽しそうに次のおたよりを読み始めた。



「ソラジオネーム、あ──」

『アダージェット!』

「はい、アウトー。実際の音楽用語に音を合わせてくるところもタチが悪いぞ、これは」

「ソラさん、リクさん、ご結婚おめでとうございます」

「してないしてない。これはもうこの人自体が平行世界の存在だろ」

「並行世界の自分はもうぼろ泣きで私もつられて泣いてしまいました。お二人はそもそも泣く事はあるのでしょうか。あまり興味はありませんが教えてください。お願いしま──」

『マルカート!』

「中々酷いな!? 人を冷血扱いした上に興味ないと言い切って、最後にヤバイ文言つけてくるし!」



 ここまででおそらく一番のヤバさを誇るであろうおたよりにツッコミを入れていると、奏空はクスクス笑った。



「いやあ、私達の結婚式でボロボロ泣いてもらえるなんて嬉しいねえ。それで泣く事はあるのかだけど……」

「お前もそのまま進めるな」

「泣く事はもちろんあるね。私は結構感動ものに弱いとこあるしさ」

「そういえばそうだな。俺はそういうのはあまり見ないけど、泣く時はもちろんあるぞ」

「涙っていうのは心の状態の指標だからね。他の感情よりもわかりやすいものだと思うよ。みんなも辛い時は当然あって、泣いちゃダメだと思う時だってあると思うよ。でも、そういう時は素直に泣いても良いんだよ。涙を流さなくなったら心も枯れちゃって、辛い時も悲しい時も何も出来なくなっちゃうからね」

「ソラ……」



 とても優しい笑みを浮かべながらソラが言うと、コメント欄はそれに感動したらしいコメントで溢れた。



『ソラタソ(இдஇ; )』

『ママー!』

『ソラタソは私の母になってほしい女性だ!』

『どけ! 俺が子供だぞ!』

『ソラタソのバブみでコメント欄がヤバい!!』

『まーたガチ恋勢が増えますわ、これは』



 そんなコメント欄を見ながら苦笑いを浮かべていると、奏空は楽しそうな様子で笑みを浮かべた。



「それにしても、私がお母さんかあ。子供の名前は何が良いかな? お父さん」

「お父さん言うな。まあソラの名前の漢字を使った名前とかそらに関する名前で良いんじゃないか?」

「えー、しっかり考えてよー。私達の子供でしょー?」

「存在しない事実を電波に乗せるな。もし本当にそうなった時はしっかりと考えるから今は置いておいてくれ」

「はーい。まあそんなこんなで私達も泣きます、以上! それじゃあ次のおたよりかな~」



 奏空は楽しそうにおたよりを見ると、そのうちの一つを選び出した。



「ソラジオネーム、ゆきやこんこんさん。あ、この人もよく見る人だよ」

「いわゆる名物リスナーの一人か。どんな人なんだ?」

「バーチャルカンパニーっていうVTuber事務所の人だよ。女性ライバー三人でやってる雪月花ってユニット聞いたことない?」

「雪月花……ああ、名前は聞いたことあるな」

「その内の一人で、雪月花はみんなソラジオ時代からのリスナーなんだよね」

「へー、そうなのか」



 VTuberも聞いてるラジオとなれば本当に人気なのだろう。といっても、俺は今日までこのラジオの存在すら知らなかったけれど。



「えー……ソラさん、リクさん、こんばんは。並行世界の私はバーチャルカンパニーにも所属せず、雪月花のみんなとも出会っていない生活を送っています。寂しさと孤独、普通への憧れを抱きながら哀しそうに生活をしていて胸の奥がキューっとなりました。並行世界の私にエールを送ってもらえると嬉しいです。よろしくお願いします」

「……え? ま、まともすぎる……?」

「このゆきやこんこんさんは他の名物リスナーさんとはちょっと違って、こんな感じで優しいおたよりをよく送ってくれるからそれで他のリスナーさんが涙する展開が多いんだ。その結果、涙雪っていう二つ名を貰ってるね」

「まともだ……それにしても、並行世界のゆきやこんこんさんにエールを送るって言われても、どう送れば良いかな?」

「そんなの思った事を口にすれば良いんだよ」



 それを聞いて俺は頷いた。



「わかった。並行世界のゆきやこんこんさん、どんな生活をしているかはわからないからあまり色々言えないけど、そっちでも大切な相手にはきっと出会えると思う。だから、それを信じてこれからも生きてみてくれ」

「ゆきやこんこんさん、これからも頑張ってみて。リクの言う通り、大切な存在にはきっと出会えるし、自分を変える何かには出会えるはずだからね」

「これで良いんだよな?」

「うん、大丈夫。さて、そろそろこのコーナーも終わりにしようかな。並行世界の私達も頑張ってると良いね」

「そうだな」

「という事で、パラレルシンキングのコーナーでしたー」



 その言葉を最後にパラレルシンキングのコーナーは幕を閉じた。

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