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80.真夜中の密会

 真夜中。

 音もなくやってきたチビがペラペラのシャツと長ズボンの寝間着の私の姿を見て、少し考え、作業服に着替えるよう言ってきた。

 チビが私の格好にどうこう言うことはほとんどないが、暑い寒いで体調を崩す可能性があるときだけ言う。暑いのが当たり前のシャーヤランでも秋冬になれば朝夕は肌寒い。さらに森深くはまあまあ冷える。チビが寝間着から作業服への着替えを促したことを踏まえて考え、作業用の長袖上着を腰に巻き付けて持っていくことにした。


 トイレを済ませて山小屋を出たら、玄関灯の明かりに反射する光る目が増えていた。

 オニキス、フェフェ、キィちゃんだ。

 みんないつものおちゃらけた雰囲気はなく、どこか寂しげで哀しげで、「じゃ、行こっか」とポツリとした言葉で促したのはキィちゃん。


 チビが広げてくれた前脚に抱かれて、仰向けに飛んでくれるチビの腹の上に寝そべる。

 普段なら途切れなく何かを喋っているけど、無言の飛行。これだけでこれからの話しの重さを感じた。


 真っ暗。

 夜空にある無数の星の瞬きなんて明かりにもならない深い闇。

 近くを飛んでいるオニキスやフェフェ、キィちゃんの姿すら私の目では視認できない。歩かされたらデコボコの地面に足を取られ、目の前にある木さえ見えなくてぶつかるだろう。

 それほどの暗闇。

 どこに向かっているのかもわからないし、聞かない。


 飛行時間はそこまで長くなかったと思う。

 チビが仰向けから立つような体勢に変えたけど、地面には降ろしてくれないので、そのまま抱えられておく。

 真っ暗闇でどこなのかわからないが、到着した場所は鬱蒼とした木々の中ではなく、剥き出しの岩や土が多そうな場所ではないかと感じた。

 木々や草の多い場所と洞窟では、うまく表現できないが、微かに匂いが違う。場所によって音も違う。湿った感じもしたので、水が染み出ているのか、近くに水場があるか、そういうところだろう。


「世話係殿」


 呼びかけられた声の方向を見ても、私には暗闇の中にいる姿を確認できる視力はない。

 そう思ったら、ポワッととても弱々しい光の球が地面スレスレに出現した。それでもみんなの姿がどこにあるのかぜんぜんわからない。

 少しずつ、少しずつ光の球は明るくなり、「これ以上は監視の機械に感知される」とオニキスが止めたところで、薄闇の中にみんなの姿がわかるくらいになった。

 真っ暗な夜の森に光が出現するのは異様なこと。以前にチビがビッカビカに光るものを森に置いて、警備等の方々(ほうぼう)に混乱を(もたら)したのは記憶に新しい。

 洞窟の奥深くではないが、剥き出しの大きな岩壁がある。正面は暗闇でわからないが、さっきのオニキスの声の反響から、そんなに奥行きがある場所でもなさそうだ。


 ここがどこなのか、そんなことはどうでもいい。

 オパールとフクロウたちは光の球を挟んでちょうど対面。フクロウたちはそれぞれ(つがい)の顔の高さに浮いていた。


「体調は落ち着いたと聞いたが大丈夫だろうか」

「うん、もう大丈夫」


 フクロウ二号の真っ直ぐ見つめてくるその瞳には迷いが見えて、それは今ここにいる妖獣すべてがそう。

 チビの前脚の爪の檻のなかで姿勢を変えれば、指の位置を変えてくれたので、座った姿勢で後ろから捕獲されているような状況になった。


「あのね、チビから伝わっていると思うけど、言いたくないなら言わなくていいよ。私も聞かない」


 ここに連れてこられたけれど、やはりやめようとなるならそれでいい。

 無理に聞き出すようなことはしたくない。

 人同士だって言いたくないことの一つや二つはあるのだから、妖獣についても同様だ。


 謎の記憶のこともあって妖獣のことを知らねばと、時間が許す限り学術書を読み漁ったのは事実。今では読まれることのなくなった書物も読んだ。他に妖獣について書いてあるものはないかと、王立図書館の蔵書を検索しまくった。

 真偽不明の眉唾ものの分類になっている過去の誰かの日記、想像の域を出ない考察レポート──

 妖獣に関するありとあらゆるものを読み漁り、想像と推測ばかりした。

 がむしゃらにそうしてきたけれど、少し前に私の認識は変わった。


 知らなくていいことは知らなくていい。今はそう言える。


「リリカがそう考えてくれているのはわかったんだけど、ずっと何故だろうって思い続けるのも(つら)いと思ったの。『理由も答えも知らないから知らない』のと、『理由も答えも知ってて黙秘する』のは違うから」


 チビからもずっと相談されていたしねと、そう言ったキィちゃんが私のそばまで来てくれた。


「チビを責めないであげて。オニキスもフェフェも、ゴゴジも」


 みんなが黙っていたことを責める気はない。

 人に人の都合があるように、妖獣には妖獣の都合や理由がある。


「リリカが魘される夢、それがなにか」


 命の営みが感じられない砂の光景。

 あの光景になる出来事を、いくつも、何度も、想像した。

 どんなに考えても悲しい結末しかなくて、考えるのを放棄した。


「世話係殿に言おうと決めたのは我らが(つがい)の経験からだ。その昔に世話係殿と似た事故に遭った者を身近に知ることがあってな。その者は世話係殿より()()()()()()()ことで、当時は異端とされてしまった」


 フクロウ一号の言葉に心が締め付けられた。

 名前を出さなくても、私が読み漁った真偽不明の眉唾ものの一つの作者ではないかと悟った。

 そしてその言葉に、あの真偽不明の書物に書かれていたことは、ほぼ真実なのだとわかってしまった。

 自然と涙が出てくる。

 あの書物にあったことが真実なら、妖獣の生きる意味に悲しさが込み上げてしまう。


「──リリカ、あれ読んでたね。そう、あれに書かれていることは本当」


 妖獣は世界の始まりと終わりを見守る存在。

 生命のあるその場所自体の寿命で、そこにある生命の営みが続かない世界となって終わるなら、自然の(ことわり)

 すべての世界でこの世界と同じように知能のある生命が生まれるわけでもない。

 たまに、この世界と同じように賢い生物が生まれることがある。そうした世界では、欲望のままに争いあって、自分たちも他の生き物もなにもかもが生きられない姿にしてしまう愚かな結末もあった。

 そういうことが書かれていた。


 砂の光景は、悲しい結末となった世界を見た妖獣の記憶。

 自然環境を破壊し尽くし、僅かな恵みを求めて争いが生まれ、戦争は拡大し、ありとあらゆる命を奪い、自分たちすら生きられない環境にしてしまった最期。

 それは妖獣たちのなかでも愚かしく哀れだと受け継がれ、同じように賢き生き物が生まれた世界では、多少の抑止力を行使してもよいのではないかと思うようになった。

 穏やかに生きる世界が終焉する。

 生命の進化が終わって、命が絶える。それが一番いいのではないかと。


「チビが妖獣に戻るときの強い異能を浴びてしまって、アタシたちの記憶の断片がリリカに植え付けられたのは、あってはならない事故だった。記憶がどうこうよりも、強い異能を浴びると体調を崩して、本当に酷いと命を落とすことがあるから」


 チビがクサムラトカゲから巨大竜になったとき、あまりのことに驚いて腰を抜かしたと思っていたけど、あのときも全身に力が入らなかった。けれど、意識はあった。

 フクロウ二号がうっかり異能を漏らしてしまったのは、端的に言うと気の緩み。(つがい)の不調を取り除くため、改めて(つがい)と異能の混ぜ合わせし直し続けているが、フクロウ一号とフクロウ二号も慣れないことで少々不調が出ているのだという。体調面はさほど酷くないが、異能制御が整わず、異能が漏れてしまったと詫びられた。

 私が浴びたフクロウ二号の異能力は多くなかったものの、相性の問題で私は昏倒。

 チビのときは昏倒しなかったのに、フクロウ二号で倒れたのは、この相性の差。

 チビと私はとても相性がよく、かなり強い異能を浴びたはずなのに体調面はそこまで酷い症状にはならなかった。しかし予想外にも、チビが姿を作るときに思い出していた記憶の断片が私に刻まれてしまった。


 フクロウ二号が闇色に見えたのは異能の色で、悲しいことを思い出すと昏くなるのだと教えてくれた。

 共通しているのは、二匹ともに思い出していたのが、砂しかない世界となって終わった世界のことだった。それぞれ世界は違うというが、結果的にはほとんど同じだ。


「オレっちがクサムラトカゲだったときね、次はどんな姿にするかって記憶を攫ってたんだ。そしたらさ、この世界と似ていた世界があったのを思い出しちゃって。まさかリリカにオレっちにある記憶が植え付けられるなんて思わなくて、本当にどうしようってなってもずっと言えなくて。……悲しい記憶を思い出した妖獣は、みんな、あんな終わりにならないといいなって思ってるんだ」


 この世界も一度だけ、悲しい末路になりかけた。

 とても似た光景だったという。

 歴史学術上は推論の旧時代の歴史。

 命の気配がない世界になりかけた。


 ああ、あの歴史学上の推論も本当なんだ。

 自然を破壊し尽くしてはいけないこと、啀み合うことの愚かさを学ぶ目的で教えられる旧時代の推測の歴史。


 妖獣のなかには遥か昔に失くなった世界を偲び、その世界にいた生き物を参考にして姿を作ることがあるという。

 チビもたまたま思い出したその世界にいた生き物を参考に今の姿を作った。思い出そうとして思い出したわけではなく、本当に偶然の気まぐれ。

 その姿を構築する場にいた私はチビの異能を受け、幸運にも相性のよさで私は体調を崩さなかったが、記憶の断片が植え付けられるなんて思いもしなかった。


「ごめんね。ずっと本当のこと言えなくて。オレっち、もっと離れたところで姿を作るべきだった」

「うん、いいの、いいんだよ」

「コッチに来てから言うなって止めてたのはアタシとゴゴジ。ごめん」


 キィちゃんにも首を横に振る。


 あの書物を読んだとき、世界の始まりと終わりを見届け続ける妖獣の終わりなき生き方に泣いた。

 いくつもの世界を超えて生きるなんて、そんな生き物なんているわけないと否定した。

 けれどその否定は弱かった。

 あの作者は書いていた。

 妖獣が人と暮らすなかで象った姿を保てず亡くなっても、それは人で言う死ではなく、形がなくなっただけ。同じ妖獣が同じ姿を作れない制約で生き返ることができないから、人は死んだと勘違いしている。

 妖獣も死ぬことがあるとしておくほうが、都合がいいことがあるから妖獣たちも正さない。

 そもそも妖獣に姿はない。ただあるだけの終わりなき時間に耐えられず、姿を作り、ときに姿を変えて、仮初めの姿で生きる。

 そうわかった今、ゴゴジもあの大きな亀のような姿を捨てたけど、ゴゴジという名でもなくなっても、死んだわけじゃない。姿なき存在になっただけなのだとわかる。次の姿を作って生きるかはわからないけれど。


 死のない存在。

 幾多の死を見送る存在。


 あの書物を読んだとき、そう思ったら胸が潰れそうになった。

 重たい悲しさしかなく、慟哭し、あまりのことに吐いた。

 だから読んだ内容を反射的に否定した。否定したかった。

 過去の歴史学者同様に、真偽不明の書物だと、これは空想のことなんだ──と。


 チビの前脚の爪の檻のなかで体の向きを変えてチビに抱きつく。


「やだやだやだっ! 言わないから! 私、言わないから! やだ! やだやだっ! チビーッ!」


 何が嫌なのかと言葉にできなくて、駄々をこねる幼児のようにチビの首元で泣いた。


「うんっ、うんっ、大丈夫、大丈夫だよ、リリカ」

「ウガエッガウごふっ! グゥッ、うううーーー!」

「何言ってんのかわかんないから。ほら、大丈夫」


 チビに流れ込んでしまう私の思考もグッチャグチャだっただろう。

 あの作者が生きた時代、妖獣は神聖な生き物で崇められていたこともあって、妖獣の生き様を語るあの作者は異端とされ、閉じ込められ、死んだ。別の書物には狂って死んだと記されていたけど、本当なのかはわからない。

 オパールたちは当時、あの作者の近くにあったと言っていた。ならば真実を知っている。けれどその最期は語らなかった。語られない事実が重たかった。


「──かの者の死は我々の戒めだ。人に記憶が混ざらないように努めておるが、それでも数百年に一度くらい起きる。世話係とのように姿を作るような特異な異能のときだけではないのだ。我々が普段使う異能を浴びて不調となること、記憶を知ってしまうことは起きる。明確に何が原因なのかわからんのだが、結局は相性らしくてな」

「……すぐにね、その記憶を奪ってしまえば問題は小さいけど、顕現するのが遅くて気付けないと、私たちも記憶を奪うのを躊躇うの。……あのね、世話係殿に入り込んでしまった悲しき記憶を消すことはできなくはないの。でも、そうするとその出来事が起きたときから今までの記憶も全部喪失してしまう」

「ぜったいいやです」


 説明役を担っているフクロウ二号に続き、オパール二号が申し訳なさそうに言った言葉を一瞬で理解し、反射的に拒否した。

 チビの首にぎゅうっと抱きつく力を強めて、全身で嫌だと訴えた。

 チビとの出会いから今日までのすべての記憶を失うなんて絶対に嫌だ。

 チビとのことだけじゃない。シャーヤランに来たことで、私は人付き合いとは何たるかを学んだ。学院で教授と先輩方に出会えてから、虚勢を張って過ごしていた私は少しずつ変わっていったけど、思いっきり変われたのはシャーヤランでたくさんの人と出会ってから。

 大事な大切な記憶。

 入院した日の夜にフェフェが「時を戻せれば、なかったことにできるのだがなぁ」と言っていたが、このことを考えてつぶやいたのだとわかった。


「私、言いません。書き残しもしません。だからみんなと会ったことを失いたくない。オパールたちとフクロウたちのことだって。みんな、みんな……!」

「リリカ、落ち着いて。リリカから記憶を奪うんだったら、こんな話し、しやしないわ。ホラ、鼻水~」


 キィちゃんが腰に巻き付けてきた上着を引っ張って鼻を押さえてきた。

 涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃ。ハンドタオルをズボンのポケットに入れてきたけど、キィちゃんが持ち上げてきた上着で鼻水を拭う。


「チビから聞いて、リリカが『誰にも言わない』って考えてくれているのは知っていたから、アタシたちも記憶を奪わない方向で話し合った。結論、知らないままに想像で不安が膨らんでしまう状況は解消しようってなったの。考えないようにしても、どうしたって想像しちゃうものだからさ。リリカに話して、その反応で記憶を奪うしかないってなったら、アタシたちも覚悟したけど、リリカはアタシたちの説明を聞いて、納得して『知って黙秘する』って判断したの」

「うん、言わない。言わない。私、言わない」


 オパールもフクロウたちもフェフェもオニキスも近くに寄ってきてくれて、頭や頬を撫でてくれた。

 ピンポイントに事柄を指定して記憶を消し去ることはできず、ごっそりと消すことになるので、事実上、記憶喪失にほかならない。その記憶喪失の時間が数秒、数分、せめて数時間ならいいが、年単位になると、その人の生き方に支障が出てしまう。

 私の場合、クサムラトカゲのチビと出会ったところから消すことになるという。

 記憶を失くしたとしたら、私はなぜ自分がシャーヤラン管理所にいるのかわからなくなる。記憶はないのにチビとの相棒は続く。そうなったとき、記憶を失った私がチビを相棒として受け入れられるかも未知数。

 

「あのときオレっちがすぐにリリカの記憶を消してあげたらよかったんだって、何度も何度も後悔した。だけど、だけど、……オレっち、嫌だったんだ! リリカと出会ったことも、懸命に世話してくれたことも、全部全部オレっちは覚えているのにリリカから消えるのが嫌で、だからずっと黙ってて、どうしたらいいんだろうって」

「いいのっ! いいのっ! チビ悪くないから! 私、言わない、言わないからー! 忘れたくないー!」

「うん! うん!」


 またボロボロと泣き出した私だったが、みんな落ち着くのを待ってくれた。

 ぐいぐいと顔を押し付けていたチビの鱗と、優しく頭を撫でるように触れてきた爪から、チビの声が直接の頭の中に伝わる。

 ごめんね、ごめん、大丈夫、落ち着いてと、何度も、何度も。

 何分も経っていないだろうが、自分のなかで荒れ狂った激情を落ち着かせ、涙と鼻水で酷いことになった顔を、両袖とタオル代わりにしてしまった上着で拭いた。


「今聞いたこと、言わない。約束する」

「チビが相棒でいる以上は何かあったら止めるだろうし、ここにいる間はアタシも監視っていうか、リリカがこのことで思い悩みそうなときは止めるし、話も聞く。オニキスもフェフェもね。一つだけ許して。他の妖獣にもリリカのことは共有する。勘弁してね」

「うん」


 人と人の約束なら誓紙の魔導具があるけれど、妖獣とは誓紙が使えない。自分に対しても発動できない。

 この世界にいる妖獣すべてから監視されたっていい。私が心挫けてしまったときは物理で口を塞がれたっていい。

 信じてもらうしかない。

 私自身、今この瞬間以降の自分を信じるしかない。


「今、聞いたこと、絶対に言わない。私は私に誓う」


 これからも不意に砂となった世界を夢で見てしまうことはあるだろう。

 そのたびに不安に押しつぶされて魘されるのではなく、今後はたくさん泣くだろう。

 この世界が終わりかけたときの光景なのか、もうこの世にはない別の世界の終わりなのか、どちらなのかは関係ない。

 私はとことん泣くだろう。

 頭の中に浮かんでくるこの世界にない情報にも、失くなった世界のことなのだと泣くかもしれない。

 この世界にも似ているものがあると知って、しみじみするかもしれない。


 止まらない涙を袖で拭いながら、聞かなければよかったという後悔も、今ここで捨てた。


 この世界では『妖獣』と呼ばれて相性のいい人を相棒として生きるようになったのは、他の世界であったような悲しい世界の終わりとならないようにしたいと願ったから。

 人にとっても、世界にとっても、これが正しいのかはわからないけれど、今はそうしているのだとも教えてもらった。


「オレっちたちはそういう存在だってことは理解でいい?」


 理解したくないが理解しなければならない。

 感情的に納得しきれなくても、理解はした。


「オレっちリリカと会えてよかった。相棒を見つけられるとサ、楽しい記憶が増えていいよね」

「アタシもー」

「拙者たちも」


 私の寿命はどんなに頑張ったって百年程度。死のない存在にとっては瞬きにも満たない時間。その時間を愛おしそうに楽しいと言うから、また涙がポロポロと出てくる。


 誰にも知られてはいけない密会が終わって、光の球が消えれば再びの暗闇。

 山小屋に戻ったらスライムが玄関前で待っていて、体をボールのように弾ませて近づいてきた。

 チビに抱えられている私のことをじっと見てくる。未だにどこが目なのかぜんぜんわからないけれど。


「ただいま」


 ぷよんっ! ぷよんっ!


 初めてこのスライムのことが可愛く思えた瞬間だった。

 このスライムは絶対に妖獣だ。今はチビたち妖獣と交信できなくても、私が聞いてきたこともわかるんだろう。

 チビたちもスライムに何も言わない。


 朝までそう時間は多くない。気持ちを切り替えなければ。


「チビ、今日はこのまま一緒に寝てもいい?」

「いいけど、冷えてきたし、寝袋は使おう?」

「オニキスもフェフェもキィちゃんも」

「ああ」

「かまわんぞ」

「アタシたちはいいけど。リリカ、その前に顔洗って着替えよ?」

「そうだね」


 聞いたことを心の奥に仕舞い込んで、幾重にも鍵をかけて、少しずついつもの私に戻ろう。


お読みいただき、ありがとうございます。感想や評価等をいただけると励みになります。


2025年8月15日、「チビと私の平々凡々」の『本編』最終エピソードまで連続投稿します。

最終エピソードの投稿後、「活動報告」に、本編終了後のあとがきみたいなものを書きます。そちらもあわせてご一読いただけると嬉しいです。

そして、「チビと私の平々凡々」本編終了後も『番外編』を書く予定があるので、引き続き「チビと私の平々凡々」をよろしくお願いします!

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愛賀綴は複数のSNSにアカウントを持っていますが、基本は同じことを投稿しています。どこか一つを覗けば、だいたい生存状況がわかります。

愛賀綴として思ったことをぶつくさと投稿しているので、小説のことだけを投稿していません。
たまに辛口な独り言を多発したり、ニュースなどの記事に対してもぶつぶつぶつくさ言ってます。

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