70.晴れ着を見るだけなのに、この緊張とは
緊張で吐きそう。
「そこまで緊張しなくても大丈夫だって」
トウマにそう言われても、私にとって侯爵夫人は厳しいマナー講師で、その侯爵夫人のお住まいであるヴィスファスト家に行くだなんて、粗相をしたらどうしようと不安でしかない。
この国で一番高貴な御方である国王陛下に何度もお会いしているし、そろそろ上流社会の方々に慣れてもいいと思うが、侯爵夫人は上流階級の方だからではない別の感覚。近い感覚は学院での苦手科目の先生。
なお、陛下に至っては歌うのが好きなおじさんのイメージにすり替わりつつあって、もちろん緊張するけれど、諦めと悟りが前を行くようになってきた。シャーヤランの管理所で休暇していることこそ、特殊な状況だと思っている。
今日はヴィスファスト家に成人の晴れ着を見に行く。
キィちゃんが選んでくれたワンピースとカーディガンを身に着け、下に身に着けている下着もワンピースを買ったときにキィちゃんにめちゃくちゃ怒られながら買い替えた新しいものだ。結局、靴も鞄も指定された。
天気がよかったらそのまま撮影会も予定してくれていたけれど、昨夕からの雨は止む気配がぜんぜんない。
私は成人の晴れ着をチビと撮りたい気持ちが大きく、そうなるとどうしても外での撮影となる。雨だと無理。
訪問日をずらすことも考えたが、侯爵夫人がせっかくだからいらっしゃいと言ってくださったのを断る勇気が私にあるはずはなく、トウマも準備して迎えに行く来てくれて、晴れ着をお貸しいただける御礼を言いに行くことにした。
レンタル代はいらないと言われ、せめてクリーニング代を出すと言ったが全部断られた。何か別の御礼を考えている最中である。
私が成人の晴れ着を撮っていないことにアビーさんが驚愕し、トウマを通じてヴィスファスト家が放出していなかった晴れ着をお借りすることになったのはかなりの幸運。
私自身は成人の晴れ着で撮らなくてもいいかと思いかけていた部分もあったので、思いがけなく撮影できることは勿論ありがたい。
人生で一度着るか着ないかの伝統衣装。ワクワクしているのも事実。
あれから自分で貸衣裳屋を探してみたけれど、希望する価格帯で予約しようとすると年越ししてしまう満杯状態だった。年越ししてしまうと私の誕生日も越えてしまう。二十一歳で撮っても構わないが、ここまでお膳立てされたので二十歳の間に撮りたい気持ちも生まれ、誕生日前に撮影できそうなのは本当に嬉しい。
それにしても貸衣裳がどうしてそんなに混むのかと不思議でならなかったが、「誰かが着た直後の洗われてないものを着る気になるか? シャーヤランの暑さだと汗びっしょりだぞ?」とトウマに言われて、クリーニングのことを失念していた。
一着の晴れ着の次の貸し出しまで特急料金加算の最短で三日間はかかる。普通の生地と違うので洗濯機でぐわんぐわんと洗うことができず、手作業での洗浄と丹念な乾燥。晴れ着の数にも限りはあり、無尽蔵に用意されているわけじゃない。モノによっては舞台衣裳のような利用の貸出もあり、ここ数年では結婚や終活などの人生節目に伝統衣裳の撮影なんて開拓が広がっているらしい。
「地域伝統を見直そう」という流れは十数年から数十年間隔で起きている。今その流れはまだ弱いけれど、予約が取れない理由を一つひとつ理解したら、なるほどだった。
私の晴れ着の手配が進行中のときに、そう言えば兄の成人の晴れ着の写真を見せてもらってないことに気づいたけれど、このことだけで連絡を取る気になれず聞けないままだった。
そう思っていたら、陛下に拉致られた夜、兄から連絡があった。
チビのサプライズコンサートの様子はシシダでも報道され、直後だとバタバタしているだろうと音声通信は見送っていたが、やっぱり直接言いたくなったと連絡してきてくれた。
開口早々「お前も次々と忙しいな」と笑われた。
チビのサプライズコンサートのことも驚いたが、兄は領主会合初日の陛下の領主館までの行進の先陣を私が務めたことを本当に驚いて、両親も兄夫婦も湯治場のババ様なども報道映像を印刷して飾ってくれているという。そんなことをしてくれているなんて嬉しい。
「管理所勤めの職員はそうそう制服を着ないって言ってたじゃないか。式典のときに着ている姿を見られただけでも御の字だったのに、軍帽も被って、手袋までして、完全な制服着用の姿が見られるなんて思っていなかったからさ!」
シシダの付近では十八歳になって、晴れ着を着て成人を祝うより、勤め先の制服を着て写真を撮ったり、制服がないところでは勤め先の建物や勤め先の経営陣と撮影したものがを成人の晴れ着の撮影の代わりとする文化がある。
自分で稼いで生きる道を見つけた最初のときを『大人になった第一歩』として写真に残す習わしは、シシダ付近特有なのは首都に出たから理解している。
成人となる十八歳はまだ学生。世の中的には二十歳までに撮るとされている二十歳でも、モウリディア王国ではほとんどの人がまだ学生。
シシダでは学校または学院を卒業して働き出す二十四歳前後で成人の記念として撮ることが多い。
だから、両親や兄、湯治場の人たちが私の管理所の制服姿を喜び、映像を写真にしてくれているのは、シシダ付近の文化である成人の晴れ着と見做しているとすぐにわかった。「まだ二十歳で見習い期間だと思っていたら、もう一人前なんだな」という言葉がすべてだろう。
兄からシシダで耳にする私への祝いの言葉を伝えられ、心のどこかで成人の晴れ着はどうでもいいかなぁなんて思っていた自分を殴りたくなった。アビーさんやトウマ、侯爵家の方々など多くの方のご厚意で晴れ着で撮る機会を得られたことを深く感謝した。
その流れから兄の成人の晴れの着を見せてもらってないと言ったら、まだ撮ってないと言われた。
兄は酒造の職人として親方に認めて貰えたら撮ると宣言していて、両親も好きにしろと笑っていたという。
「十八歳で撮らなきゃならないもんじゃないだろ? 確かに法律では十八歳で成人だけどさ。働き始めて『これで生きていく』と決めた姿を残すのだっていいわけだよ。俺は親方から合格を貰ったら、親父と同じ文様の晴れ着を探して着るって決めてる。それだけだ」
兄の考えは一般的ではない。だけど、シシダでは『あり』の考え。
兄の話しはあれこれポンポンと飛んだが、湯治場のババ様は私が王国旗を掲げて凛々しくあった姿を見て、感動からおいおい泣き、骨になるとき一緒に焚いてくれと映像を印刷した紙を何枚も仕舞い込んでいると聞かされ、とにかく長生きしてほしいと願ってしまった。
義姉の妊娠中の容体は安定していて、ここのところお腹が大きくなって歩きにくくなっているという。生まれたら祝いに行くと言えば「来るのはいいが『歌手チビ』で大騒ぎ……。いや、もう祭りの準備をしておかないとダメかもな」と笑われた。
そうだった。次にシシダに行くときは『歌手チビ』だ。
ラワンさんに協力してもらって、湯治場の組合長さんと商店街の人たちに先に話しを通さないと混乱が起きてしまいそう。まだシシダに帰省する日程はアバウトだけど、今のうちからラワンさんに話しておこう。
兄にはこれから成人の晴れ着で撮ることは言わず、行進のときの写真はこっちでもいいアングルのものを選んで写真にしてもらっていると言い、他にも撮った写真があるけれど、それらのことは言わず、出来上がったら記念に送ると濁して通信を終わらせた。
通信の切れた端末を見つめ、確固たる意志で撮る時期を決めている兄を、ちょっと変わり者かもしれないけれど誇らしく思った。
その翌日の夜に兄から聞いた話をトウマに伝えた。
浮遊城に一人で拉致られたときの心細さと、第二王子殿下とのバイク仲間を知らなかった愚痴に、クララさん試作の激辛ソーセージを添えて。
けっこう辛いものもへっちゃらに食べるトウマが悶絶した激辛ソーセージは、シード先輩とペニンダさんもノックアウトだった。あの辛さを「イケる!」と言うクララさんの辛さセンサーは崩壊していると思われる。
激辛ソーセージへの当てつけなのか、トウマは食事から帰るときになって、「五日後にヴィスファスト家に晴れ着を見に行くからな」と爆弾を落として帰っていった。
食事中に言ってよ! と思ったけれど、トウマへの文句よりもすぐにメイリンさんに連絡を入れて、そこから時間があるだけマナーの復習とヴィスファスト家を中心とした貴族社会のことを習い直すのを優先。
浮遊城で両妃殿下とのティータイムで知った痺れ辛子の風味漬けと味噌焼きを試す余裕はなくなった。落ち着いたら絶対試す!
そうしてやってきてしまった今日。
チビは雨なので管理所で留守番となり、先日フクロウたちが魔物を狩った付近を見回って、討伐班が追加設置する感知機器の視察。討伐班からコンサートの日にプレゼントの肉を貰った礼だと言う。とても働き者だ。
「せっかく街に行くんだし、晴れ着を見たらトウマとどっか店でも見てきなよ? トウマが服を見繕ってくれるみたいなこと言ってたじゃん?」
そう言って山小屋で見送ってくれたチビに「デート楽しんできてねー!」と言われて照れた。
晴れ着を見に行く用事がメインイベントだけれど、これもトウマとデートではある。
しかも今回はちゃんと私服。
トウマも野生に戻りそうな姿ではない、無精髭なしのラフな格好でちゃんと青年。
整った姿でいないといけない期間は過ぎたけれど、ここのところ埃まみれの天井裏などに潜る作業が続いているらしく、そういうところでの作業では髪も髭もないほうがいいからと言っていた。ただ頭を丸刈りにする気はなかったらしい。洗髪頑張ってね。
雨だからと、山小屋までトウマが小型トラックで迎えに来てくれて、そのまま街に出ていくのかと思いきや職員寮の駐車場に停車。
なんで? と聞いたら屋敷から迎えの車が来ているという。
屋敷から迎え、とは?
「せっかくお洒落したその姿なのに、整備で使ってる小型トラックっていうのも何じゃないか。普通のクルマを出してもらったんだ」
普通の車、とは?
若干尻込みしそうな雰囲気を感じつつ、トウマのあとについて職員寮側にある送迎車専用ロータリーに着けば、車のことに詳しくない私でも知っている高級車。
トウマが近寄ると、外で立って待っていた運転手さんが後部座席のドアを開けて、恭しく乗車を促してくる。
何、この、待遇。
車体に描かれてあるのがヴィスファスト家の家紋だったことに尻込み度が高まったけれど、促されるまま乗り込んだ。
「なぁ、俺のクルマ、誰か使ってんの?」
「いえ、旦那様が本家に行くならこの車を使えばいいとおっしゃいましたので」
「俺のクルマもたまには動かさないとと思ったんだが、また次の機会でいいか。ジャパス、今日は頼むな」
「はい、精一杯務めさせていただきます。お嬢様も本日はよろしくお願いいたします」
俺の車……。旦那様……。お、お嬢様……。
生きる世界が違う。
今のことを当たり前とするトウマが別次元の人に見えてきた。ボウボウの髪に無精髭姿の野生に戻りそうなトウマはどこいった?
一気に緊張がドカドカと高まってしまい、とてつもなく気持ち悪い。乗り物酔いではなく精神的にやばい。
「そんなに緊張することはございません。本家の皆様もお嬢様に着付けするのを楽しみにしておりましたよ」
ウキウキしている侯爵夫人とお付きの方々の笑顔が思い浮かぶ。
トウマから「化粧してくるなってよ。試着で人形になる覚悟しとけ」と言われていたから、ありがたくも覚悟はできているけども。楽しみなのか。そうなのか……。
ジャパスさんは幼少期のトウマの遊び相手として顔合わせしたときからの長い付き合いだと教えてくれた。
ジャパスさんはトウマよりも歳上。だけど、「この童顔でまだ学生のフリができるんです」と教えてもらっても反応に困る。学生のフリで何かメリットあるだろうか? と考えたけどすぐには思い浮かばず、当人はたまに楽しんでいるというから悪いことをしていなければいいと愛想笑いで流した。
私が緊張を解けないでいたら、トウマとジャパスさんで二人の出会いなどを話してくれて、「小さい頃の坊ちゃまは、そりゃもう見た目は麗しいのに中身はどこまでも悪ガキでホトホト困りました」と車内を和ませてくれたエピソードに笑ったら、「悪さの半分はジャパスが教えてくれたんじゃねーか」とトウマが反論。
うん、そうか。この二人は揃って問題児だったし、今でも問題児を卒業していないと思った。
ヴィスファスト家のお屋敷は下の街の郊外の農作地にある。
モウリディア王国が誕生する以前から、この地域で森と共存してきた人たちの中心となって地域行政的なことを担っていたのが、今のヴィスファスト家のご先祖。
この暑い地域で安定して農作物を育てるにはどうすればいいか試行錯誤したご先祖でもある。
モウリディア王国も王国となるまでの歴史の中で幾度も各地で争いがあった。
シャーヤランも争いに巻き込まれた。
この地の人々は何が何でも森を守ると戦った。ヴィスファスト家のご先祖たちも先陣に立って戦った。
その心意気に当時、森に棲んでいた妖獣たちはシャーヤランの人々とこの地を守った。
──森ヲ侵害スル者、赦サズ。
──森ヲ護ル者、護ル。
以来、シャーヤランは不可侵の聖地となった。
子ども向けの『シャーヤラン史』には御伽噺風に書かれているけれど、成人向けの貴族年鑑で情報を補えば、ヴィスファスト家のご先祖に妖獣の相棒だった方がいたことを知ることができる。
その妖獣について、なんとな〜くキィちゃんを彷彿とさせる描写がチラホラ。断定して書かれていないが、とてもキィちゃんだった。
キィちゃんはこの管理所に二百年棲み着いていると言っていた。
シャーヤラン史から知る千年前の争い。
大きな乖離。
ただ、キィちゃんだけでなく、妖獣の言葉は稀に誤魔化しているところがあると思っている。
極彩クリスタルをめぐって各地で闘いがあったのは、もっと前の二千五百年前。
ゴゴジからフェフェに遺産として託されるような譲渡もあるだろうが、チビもキィちゃんも凄惨な歴史を見たような話しぶりだった。
妖獣に歳は聞いてはいけない。
シャーヤランが聖地化した千年前の争いで活躍した妖獣の詳細も、聞いてはいけない部分なのだろう。
メイリンさんからも詳細な補足はなかった。
書かれていることだけを知識として頭に入れることに専念した。
それにしても何度も『貴族年鑑』と『シャーヤラン史』を読んでも読んでもなかなか頭に入らず、臨時講師を務めてくれたメイリンさんに「苔の名前と、覚えなくてもいい長ったらしい名前は一度で覚えるのに……」とため息を吐かれた。
覚えようとしなくても覚えてしまうこともあれば、何度覚えても忘れていくこともある。
興味がないことを覚えない私の脳の潔さは見事としか言いようがない。
それでも五日間、何度も読めば何とか覚えた。
「貴族年鑑を読めとは言ったが、義祖父さんたちの名前を覚えるだけでよかったんだぞ?」
「メイリンさんがそれだけじゃダメだって」
「メイリンさんも厳しいなあ。それにマナー、マナーって怯えてるが、失敗しても詫びればいいって。義祖母さん普段はそんなにうるさくないからな?」
そう言われても侯爵夫人にはビシビシ指導され続け、ドタバタする前に受けた研修試験は不合格だったので、どんよりモードから抜け出せない。
「本当ですよ。大奥様をとても厳しい御方に思われているようですが、その一面も正しく大奥様ですし、そして普段とてもフランクなのも事実です」
「間違った所作の一つから揚げ足を取るような輩がいる場面に出ていくことを踏まえて、俺にも厳しかったといえば厳しかったが、毎日毎日起きてから寝る前ピリピリしなきゃいけないわけじゃあないからな?」
トウマからすると、私は領主会合で食事会や王妃殿下や王弟妃殿下とのティータイムもこなしている。とくに両妃殿下とのティータイムで何かマナーに不足があったとしたら、こっそり指導してくれたはずだという。
「あれだな。実際を見たわけじゃないが、リリカは『できないかもしれない』という不安が出ちまって、できているのにおどおどして見えちまう。それで義祖母さんから合格もらえないんじゃないか?」
…………自信がない。そうなので否定できない。
「本家でお嬢様につく者に、改善したほうがいいことに気がついたら助言するよう申し伝えましょうか?」
「お願いします!」
「そうだな。義祖母さんに萎縮しているみたいだし、誰かいるかな?」
「着いてみないとわかりませんが、ドーラかハンナがいれば頼みやすいかと」
ジャパスさんに食い気味にお願いしたら、バックミラー越しに優しく笑って「大丈夫ですよ」と頷いてくれた。
トウマもジャパスさんも指導する人以外にフォローしてくれた人がいたから、できたこと、できなかったことに気づき、身につけていけたと言う。
人によるのだろうが、私はできていないことを言ってもらえるほうがありがたいタイプ。トウマも何か気づいたら言うようにすると言ってくれた。お願いします!
雨でも人通りの多かった街中を抜け、郊外の住宅地を通り過ぎていくと農耕地との境が見えてきた。
シャーヤランの領都は三方向を山に囲まれているような地形で、管理所はちょうど真ん中の山の中にある。
ヴィスファスト家のお屋敷は管理所を背にして左側の山々の裾野にある農耕地にあり、ヴィスランティ家のお屋敷が管理所を背にして右側の山々の方向にあるので、同じ領都にあっても離れている。
領主館の近くにあるヴィスファスト家は別邸で、そちらには侯爵夫妻の長男のご家族、ユリアンヌちゃんたちが住んでいる。侯爵夫妻も領主館に出勤する兼ね合いで、月の半分は別邸泊まりらしい。
緩く上り坂を進んでいる感覚になったところで、ヴィスファスト家の屋敷の敷地に入ったらしい。
山というには標高がないので、丘と呼ぶほうがしっくりくる。その丘の頂上までは行かないが、途中に屋敷があって農耕地を見渡しやすいところだという。
「シャーヤラン史を頭に入れてきたんならわかると思うが、なんでここに屋敷があるかっつーと、争いの時代の要塞があったときの名残だと俺も習った。街との行き来にはちと遠いが、街に近いと観光客の喧騒に巻き込まれちまうから、結局ここがいいってな」
シャーヤラン史に書かれていないことだが、街に近いところに屋敷を移した時代もあった。けれど、ヴィスファスト家は王国誕生以前からある名家。屋敷を観光名所のように扱われ、落ち着きゃしないとなり、要塞跡地に戻ってきてからは、本家本邸はずっとここ。
当時のご一族のどなたかの日記で知ることのできる事実であり、「なんで街から遠い山の中なの?」と文句を言う子がいると、直接伝えられる話しだという。
表情からしてトウマもジャパスさんも文句をいったクチなのだろう。
ヴィスランティ家もほぼ対面にあるもう一つの要塞跡地にあるのだから。
侯爵家の方々がほぼ全員お揃いだというのは事前に聞いている。
侯爵様はチビのサプライズコンサートが成功したことを祝いたいと在宅しておられ、侯爵夫人は言わずもがな。
ご長男夫婦はカモダさん作の晴れ着を知らなかったそうで、見てみたいと別邸からお越しになっている。ご長男の御子様たちは学校なので不在。
ご次男のトウマの義父様も仕舞われていた晴れ着の存在は知らなかったため同じく見学に来ている。
ご長女様はご結婚してからシャーヤランの三番目に大きな街におられるが、やはり興味津々でいらっしゃっている。
なかなかの人数。
これでも交渉して、ギャラリーは少なくしてもらった。交渉しなかったら一体何十人に囲まれることになったのか。
多くの人がチビに会えることへの期待。
侯爵ご夫妻も私とチビに会わせる人は考えてくれていたので、とてもありがたかった。
木立で隠れていたお屋敷が見えてきた。
二人のお陰で幾分緊張が緩和していたのに、反射的にガチガチの緊張に戻ってしまう。
「大丈夫だ。自分を信じろ」
「はー、そう、おもって、いる、ん、だけど」
「俺がいるから」
「私も近くに控えますので、何なりとご用命ください」
「はー、よ、よ、よろしく、お、おねがい、します」
晴れ着を着るのは楽しみだけど、緊張する!
あー、どうしようっ! どうしようっ!
玄関に見えるのは侯爵夫人ご自身? わざわざお出迎えに出てくださっているなんて、挨拶どうするんだっけー!
「リリカ落ち着け!」
「お嬢様、落ち着きましょう」
落ち着け私ー!
お読みいただき、ありがとうございます。
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(2025年6月13日時点)引き続き、家族介護看病の事情で更新の間隔が空いてしまう可能性があります。
更新頻度が落ちてしまったら本当に申し訳ないですが、頑張って書いていきますので、引き続きよろしくお願いします!




