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チビと私の平々凡々  作者: 愛賀綴
本編

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67.結実

何度も読み返して投稿しているにも関わらず、またも「誤字報告」で誤字・脱字・誤変換を教えてくださいました読者様、ありがとうございました!


 チビの初コンサートが無事に終わって、直後から想像通り大騒ぎになった。

 管理所にくる諸々の問い合わせは所長室と所長代理室が担い、今後はラワンさんがチビの歌に関するマネジメント的な役割を引き受けてくれることになっている。法律士なので商取引の契約などになっても対応可能。

 当初はサプライズコンサートまでいい采配を振るったモモンドさんに引き続きと、白羽の矢が立ったけれど、当人は売店がいいと元々の業務に戻ることになった。

 「ちょっと替え歌を作っただけなのにこんなに大ごとになるとは思わなかった」と言い、売店の魚売り場で『さかながたべたい』を口ずさんでいるくらいが気楽だと笑っていた。


 ラワンさんはチビの歌に関われることが嬉しいという。普段は堅苦しい行政と軍関連の契約書の確認や作成ばかりで、書類とにらめっこ以外で呼ばれると大概が揉め事や何らか諍いの交渉。そんな毎日なので(あきな)いものに携わるのは楽しいらしい。

 私がラワンさんと接点を持つきっかけもシャナイによるペンキぶち撒けられ事件だった。あのときはお世話になりました。


 音楽フェスティバルの翌日から二日間で出演者方々とチビの改めての面会と記念撮影会があり、私はラワンさんとともに立ち会い、それぞれと歓談。

 たくさんの方々の助けで実現した昼公演だけど、一番の功労者は誰かと訊かれたら、フェスティーナー・レンテーのリーダー、ベイダさんだと思う。彼から昼公演の提案がなかったら、夜公演の彼らのステージ時間の最後を借りて三曲を敢行予定だったのだ。

 昼公演が実現できたことで、チビにも一つの出演者分の時間を割り当てられ、子どもたちを明るい時間に親元に返すことができたのは本当によかった。


 夜公演のみの出演者とも面会できた。音楽フェスティバル当日のギリギリ到着で昼公演に出られないとなった方々だったり、夜の出演者のほとんどが昼公演に出るのもまずいだろうと、あえて昼公演には出ないと決めてくれた出演者もいたのだ。このあたりは昼公演を提案してくれたベイダさんが先行して夜公演の出演者方々に根回ししてくれていた。本当に頭が下がりっぱなしになる手助けだった。

 昼公演だけ出てくれた下の街だけで活動しているアマチュアバンドは、領主館や裏後援会の方々が推薦した方々で、通常は他の勤務がある一般人。昼公演出演のために勤務先のスケジュール調整をしてくださった方もいたが、勤務先が裏後援会に参加してくれたところだったり、裏後援会繋がりで休みの便宜を図ってくれたり、調整してくれたらしい。

 領主会合期間前後の街は毎日がイベントのようなもので小売店やサービス業は人手が足りないから、休みの調整も大変だったのかもしれないが、大きなステージに立てたのは楽しかったみたいだった。

 夜公演はチケットが完売していたこともあり、こちらも大盛りあがりだった話しも聞いた。

 昼夜通して、音楽フェスティバル全体でも成功。

 私が関わったことは僅かなことだったが、やりきったとしみじみ思った。


 面会の席で音楽フェスティバルの出演者と関係者に記念メダルを贈呈した。

 チビの歌の発売の際に記念グッズをいくつか出すけれど、その記念グッズの試作の中から音楽フェスティバル用に記念メダルが数量限定で製造された。

 真夏に実施したチビの街デビューの際、チビの顔のイラストをパンケーキに使ったが、そのイラストを使って作られているメダルで、メダルに嵌め込まれている石はチビの鱗から加工してできた宝飾石。なかなかレア品なので贈呈したら叫ばれた。


「ぎえぇええぇえ! むー! りー!」


 そして日常に戻った私も叫んでいる。

 普段なら「妖獣との遊びなら任せろ!」のルシア先輩をノックダウンにした森の中での『海賊ごっこ』。「これは一人一回は担当すべきだ」とルシア先輩が言い、シード先輩、サリー先輩、リーダーが順に撃沈した。翌日は筋肉痛が酷くて体が動かず、強制的に休みになること間違いなし。

 私も担当して、改めて妖獣世話班はたまに命がけだと再認識。

 鬱蒼とした木々に覆われた谷を挟んで妖獣たちは空中戦ありの陣地取りゲーム。確実に人には無理な内容。陣取りゲームの中に『お宝』が登場するのだが、その『お宝』を私たち世話班がやるのだという。逃げまわるお宝役だ。

 『陣取りゲーム』か『お宝奪還ゲーム』と言ったほうが合っているルールなのに、なぜ山の中で『海賊ごっこ』なのか。このゲームをやりたいと言い出した妖獣がそう言ったから他の妖獣たちもそう呼んでいるので、もう考えないことにした。


 逃げまくるお宝役の私は、最初は二チームのどちらかに属して略奪戦がスタート。崖を登るし落ちるし、木登りあり、枝や石投げの攻撃があり、追いかけごっこの途中、蔓があればぶら下がって移動しろと言われても、運動神経のない私にできる芸当ではなく、木と木を飛び移れと言われても無理!

 とにかく逃げ続けて、終わるときにはもう立つ体力も残っていなかった。


 ルシア先輩がノックダウンした翌日に、妖獣たちに何をしたのか聞いたけれど、木登り、枝投げ、蔓ぶら下がりなどと言っていた。その一つひとつを聞いたときはおかしいことではなかったし、妖獣がそれらをやると思い込んでいた。まさかお宝役として私がやるなんて思いもしなかった。

 今回、部長から珍しく「妖獣たちの遊びに付き合ってやってくれ」というお達しがあったので、監視ではなく妖獣たちの中に入っているけれど、部長も一回、いや三回くらい妖獣と遊べばいいと思う。


 今朝はベッドから起き上がるのも一苦労で、立とうとするだけで足はガクガクするし、手にも腕にも力が入らず、コップをスッと持てなかった。

 そんな妖獣たちの『海賊ごっこ』も今日が最終日。領主会合も最終日で明日以降から次々妖獣たちは帰っていく。

 さあ、ニット先輩、空前絶後の妖獣預かり数の最終日の遊びに、どうぞ行ってらっしゃいませーっ!


「ちなみにだけど、リリカの感覚でキィの遊びとどっちがハード?」

「命がけ度合いで言えばキィちゃんですが、ハードさは今回が上ではないかと」

「うわぁ……。長いこと遊び担当から外れていたから、体力持つかなぁ」

「サリー先輩が途中でダウンしてしまって妖獣たちに医務室まで運ばれたと報告にありましたし、万が一、途中ダウンしたら運んでもらえます!」


 私も昨日の遊びが終わった場所から動けず、妖獣たちに山小屋まで運んでもらった。

 崖から飛び降りろと言われて突き落とされても下でギリギリ受け止めてもらえるし、弾丸のように石が飛んできても実際に当たることはなく防御してくれるから、死ぬことも大怪我することもないので大丈夫! と、いい笑顔でニット先輩に言ったら顔が引き攣っていた。


 山小屋は遊びまわりたい妖獣たちの集合場所でもあり出発地点。

 ニット先輩が山小屋に来て早々、妖獣たちに行こうっ行こうっと急き立てられ、虚無な顔が戻らないまま森の奥に連行されていった。

 育児もあるので短時間勤務のニット先輩を午後の遊び回りたい妖獣担当にすることは滅多にない。早めに切り上げてしまった育児休暇中に体力ダウンしたとも言ったのを聞いているので、多分、一時間くらいでダウンすると思う。ルシア先輩とシード先輩もニット先輩が途中でダウンすると予想していて、約一時間後に二人が交代で向かう予定だけど内緒にしておいた。ニット先輩、頑張ってね。


 全身筋肉痛の酷さで格好を繕う気もなく、私は山小屋の玄関先でぐったりした姿のままニット先輩を見送ったが、こういう筋肉痛は動かないでジッとしているほうが長引きがちになる。

 少しは動かなければと思うが、歩くだけでも体がぎこちない。

 シード先輩とリーダーは、管理所にある大風呂で全身リラックスがいいとアドバイスしてくれたけれど、生理が終わったようなまだのような微妙な感じだったので大風呂は断念。のそりのそり山小屋の風呂場に向かった。


 朝も体を解したくて入浴したけれど、沸かし直しでもう一度浸かる。

 山小屋の湯船は小さくもないが大きくもない正方形で、足を思いっきり伸ばせないものの、ゆったりと浸かることはできる。

 朝に入浴した際、スライムが何かの木の葉を湯船にどんどん放り込むのには参ったが、仄かな香りはリラックスできた。その葉を掬い集めて小さい洗濯ネットにまとめておいたので、もう一度湯船に浮かべた。何の葉なのかわからないが、あのスライムのことだから筋肉痛にいいか、精神的にリラックス効果があるものだろう……と、思っておく。


「そういえばスライムの観察レポートに何も言ってこないなぁ」


 あのスライムは妖獣の化けている姿かもしれないという推測はあながち間違っていないと思う。

 チビのときもクサムラトカゲとしか鑑定されなかったし、その後にチビやフェフェが、化けていることを悟られることはないと言っていた。

 仮にスライムが妖獣による仮の姿である場合、扱いが変わる。

 すでに随分扱いは雑になっているけれど、『一般的なスライムではない変なスライム』と不安視しながらなのと、『多分、妖獣がスライムに化けている』では雲泥の差がある。


「こっちが言っていることはわかっているようだし、会話ができると便利なんだけど」


 ぼそりと呟いてみたものの、小さなトカゲだったチビとも会話はできなかったことを思い出した。スライムが妖獣だとしても妖獣に戻るまで無理だろう。

 そのスライムは引き続き謎茶作りが楽しいらしいので絶賛放置している。今日もいそいそといなくなったので、謎茶の材料となる薬草と香草のところだろう。育てるところから取り組みだしたので、いっそ菜園班で引き取ってもらえないかと思ったのに丁寧に断られた。くそう、ホワキンさんめ。


「おーい、生きてるかー」


 風呂からそろそろ出ようと思っていたら、山小屋の外からフェフェの声が聞こえてきた。


「お風呂に入ってるー。もう出るー」

「おお、ゆっくりでいいぞー」


 フェフェが来るなんてなんだろう?

 風呂から出ても今日は寝間着。こんな格好だが、昨日リーダーがくたばったので私が今日休んでいる理由はフェフェも知っているはず。

 フェフェは居間の外のウッドデッキの柵に佇んでいたので、窓を開けて招き入れた。

 寝間着をざっと見られて「まあいいか」と言われたのは、テロンテロンになるまで着古していない確認だった。しばらく私が着るものに厳しい目が向けられそうだ。


 フェフェが台所の棚にある植物性ミルクのミックス粉の缶を見て、飲みたいというのでぬるま湯で溶く。


「一昨日だったか、アロンソとサリーが痺れ辛子の葉とこの缶を持って勝ち誇ったんだろう?」

「うん、『勝った!』って言ってた」

「世話は勝負事ではないのだがな。何年前だったか、舞い上がっている妖獣を落ち着かせることに苦労して、あのときは怪我人が出たからなあ」


 最初に痺れ辛子の刑を実行した私はその二人に結構怒られたのだが、ハイテンションの妖獣の浮かれ食い遊びを大人しくさせる痺れ辛子の葉はかなり有効だと証明された。シード先輩は少し心が痛むと言っていたけれど、リーダーとサリー先輩は効果覿面だと言葉が躍っていた。

 痺れ辛子の葉を放り込まれた妖獣の口の中は一時的に大変なことになっても、その後に体調に被害はない。我を忘れている妖獣の目を覚ます対処方法が一つ見つかったのが嬉しかったんだろう。


 ミルク粉を溶くだけの味では物足りなさそうだったので、蜂蜜を追加するとフェフェは満足したようだ。私の分はインスタントコーヒー粉を混ぜてさらにアレンジ。


「今日来たのはな、そろそろゴゴジのぼやきをやっつけなくてはと思ってな? どうかの?」

「……うん、私、読まなきゃね」


 私が読むと消えてしまうゴゴジの巻物のような伝言板。何が書かれていたかを残したい私の希望を汲んで、紙に書き写してくれたあと翻訳が進められていた。

 私が緑連豆メニューで振り回されたこともあって読みに行けなくなり、直後に伯父の事件による私の心の不安定さを気にして、フェフェは待っていてくれた。

 いつまでもあの大きな巻物を図書室で預かって貰うわけにはいかない。

 思い返すと、春先の採集隊で人員不足、オパールたちのこと、式典デビューに街デビュー、緑連豆メニュー、伯父の事件、そしてチビのコンサートと、次々いろいろあった。このあとチビの歌の発売でまた騒ぎがあるけれど、それはここまで振り回されることにはならな……いと思いたい。

 そう考えるとようやく日常に戻ってきたので、朝の餌の時間のあとに多少の時間は取れるだろう。


「朝の餌やりが終わったら管理所に向かって一時間か二時間くらいは読めるかなぁ。世話班の担当によるけど、順番に読んでいくことにする」

「できるだけ一緒に読めるようにするが、わしがいないときにしんどくなったら中断してよいからな?」


 私とゴゴジの関係を思って言ってくれるフェフェの言葉が嬉しい。

 ゴゴジが完全に私宛に遺してくれた言葉はもう読んでいる。

 残っているのはゴゴジの日記のような菜園や下の街の畑などへのぼやきごと。上に書き写してくれたフェフェによれば、単に愚痴だらけのこともあれば、こうすればいいのではという提案や意見が書かれていると概要だけは聞いている。

 ゴゴジの言葉は私に遺された。だから私がそれらを読んで、管理所の菜園などに提案や意見を出していくよう所長が取り計らってくれたのは、管理所の他部署の仕事を知る一環でもあるのだろう。

 採用されて約二年半。チビが一緒なので妖獣世話班所属だけど、ジョブローテーション的な中で私自身に己の適性を知る機会を与えてくれているのだとも思っている。


「そう堅苦しく真面目に考えずともよいと思うがの?」

「そうかな?」

「菜園のフォローは息抜きだ、息抜き。それくらいに思っておけばいいと思うぞ」


 私は農業のことは素人。

 フェフェもゴゴジが遺した提案のすべてができるとも思っていないし、気楽に読んでいこうと言ってくれて肩の荷が軽くなった気がする。

 フェフェにもなんだかんだと仕事の要請はくるものの、チビやオニキスのように外に出ていく仕事はほとんど受けず、管理所内でできることを引き受けることが多い。できるだけ私と一緒に読んでくれようとする心遣いに安心感が増した。


「それにしても体がしんどそうだな? アロンソもヘトヘトになってくたばっていたが、相当な遊びに付き合ったみたいだな」

「ほーんと、よくあの遊びに付き合いきったと思う」


 採用されてすぐの頃の私だったら、五分も持たずに救急搬送されていたことだろう。

 自分でも恥ずかしいくらい体力がなかったが、ほぼ毎日妖獣の朝の餌やりに付き合ったりして動き回っていることで、随分体力はついてきた。


「あー、そういえばオニキスが極彩クリスタルだのなんだのボソボソ言っとったが、ほしいんか?」

「いやいやいやいや、いらない、いらない、いらないからっ!」


 この口ぶりだとフェフェは持ってる!


「ゴゴジのやつが置いていったものもあるから、どうしてくれようかと思っとるんだが」

「ぬあぁぁ!」


 フェフェがひょいひょいと極彩クリスタルを並べ出すけれど、見たいわけでもほしいわけでもないから仕舞ってほしい!

 ゴゴジの巻物の出現の際、妖獣たちだけに見えるゴゴジの遺産があって、巻物の解読のときに知ってしまったフェフェが預かったという。


「わしらは自らが消えると決めたときは持っている財産(もの)を完全に消滅させるか、他の妖獣に押し付けるかどっちかでな。ゴゴジは時限爆弾的に置いていきやがったんだ」


 抱えるくらい大きい石もあるんだか見たいかと言われて、即断った。ゴゴジ、何をそんなに集めていたのさ!

 並べられていた極彩クリスタルも仕舞ってもらった。

 妖獣が何もない空中からひょいひょいと物を出す異能は便利だが、その先にあるものは知りたくない。

 チビとキィちゃんが極彩クリスタルを持っていることを私に暴露し、それを聞きつけたオニキスは自分は持っていないとわざわざ報告してきたことを話したら、フェフェにケラケラ笑われた。


「チビはリリカを相棒にしとるから知られてよいと思っとるんだろうが、キィは迂闊だな。わしも奴らから聞いたからリリカにこうして暴露だが。それにしても妖獣が相棒として認める者はたいがい欲がないが、アロンソもリリカも本当に欲がないなぁ。他人に言わん性格しとるしの」


 「だから凄く安心するのは確かではある」とフェフェに言われたのは、妖獣からの最高の賛辞なのかもしれない。 

 フェフェはミルクを飲みきってから食い物がほしいと言い出し、貯蔵棚にあった魚を干したやつに興味津々となって何枚か持っていかれた。

 酒のアテになる珍味で、噛めば噛むほど味がある。チビの魚ブームから私も今まで食べたことがなかった干し魚や珍味を食べるようになった。食の種類が広がったのはいいと思う。


 体は緩慢な動きになってしまうが、さっき入浴したこともあって多少はまし。起床したときよりましになったので、適当極まりない拭き掃除をのんびりこなせばストレッチの代わりになる。

 二階の寝室は後回しにして、一階の台所、居間、玄関、トイレとゆっくり掃除して、奥の苔の部屋も掃除。


「あれ? ……え! 繁殖してる!」


 うんともすんとも増えなかった発光苔の水槽の苔の範囲が僅かに広がっていて、一瞬、体の痛みも吹っ飛んだ。

 発光苔には有性生殖のものと無性生殖のものがあるけれど、今、私がチャルデン教授と取り組んでいる発光苔は通常は無性生殖するが、ある条件下だと有性生殖する、()()()。この『()()()』の研究をしたいものの、新種とされたこの発光苔は自然界でも少なく採集許可された量が多くない。私が苔の研究で師事している首都の学院のチャルデン教授の研究室では、この発光苔を人工栽培で増やそうとしているけれど、なかなか増えなくて歯がゆい思いをしていて、私もその一人。

 この発光苔の成長は遅い。泣きたいほど遅い。

 水槽に線を引いておいたり、糸を張って元の苔の範囲からの増減を見守っているが、毎日見ていると僅かな差がわからない。

 今、明らかに元の範囲としたラインからはみ出している。見ている角度のせいかと何ヶ所か見る場所を変え、水槽に描いた線以外に張った糸の範囲でも見たが、はみ出している。

 増えてる。明らかに増えている!


「きょ、きょ、きょーじゅうーッ! 増えましたーッ! って、端末どこー!」


 気持ちは走りたいのに体は言うことを聞かず、床に何の障害もないのに転んだ。

 水槽にぶつからなくてよかった。

 通信端末を台所のテーブルに置いたまま、思い立って拭き掃除を始めたこと思い出し、台所にヨタヨタと戻ってチャルデン教授宛に音声通信。講義中かもしれないなんて考えもせず呼び出したが、運よく研究室にいてくれた。


「苔が、苔が増えました!」

「なんだって? 観察レポートの何番の水槽だ?」

「四番の水槽から分けた、四番の三です!」

「この条件か!」


 なかなか増えず、枯れてしまうものが多くて悔しかった二年余り。前にチャルデン教授と話して発光苔を株分けして条件をいくつか変えてみてから、発光苔の生育スピードにしてみると驚きの早さで成果が出たことに驚くし、素直に嬉しい!

 わいわいとチャルデン教授と話し合っている最中に、ルシア先輩とシード先輩がニット先輩のフォローのためにやってきて山小屋に寄ってくれたけれど、私は苔愛溢れるチャルデン教授との会話に夢中。

 ルシア先輩に渡しておいた合鍵で山小屋に入ってきた二人は、とても優しい眼差しで放置してくれた。


「水槽買ってください! 水槽!」

「予算を確保してくるから待ってろ」

「やったー!」


 水槽内の温度と湿度と光の完全管理ができる魔導具制御付きの水槽をお願いします!

 やったー! 増えた! やったー!


お読みいただき、ありがとうございます。

67話に関しても「活動報告」に補足を書いていますが、前回と違って完全に作者のメモです。読まなくても支障ないです(2025/05/16)。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2056786/blogkey/3442685/


過去話の訂正活動の報告(2025/05/16~05/18で実施)

・1話~66話に登場させた山小屋の居間から外につながる部分を「テラス」と書いていたのを「ウッドデッキ」に訂正する修正を行います。

・リリカの成人の儀のネタの部分の話に、「貸衣装」と「貸衣裳」が混在しているので、「貸衣裳」に揃える訂正をします。


感想や評価等をいただけると励みになります。

(2025年5月16日時点)引き続き、家族介護看病の事情で更新の間隔が空いてしまう可能性があります。

更新頻度が落ちてしまったら本当に申し訳ないですが、頑張って書いていきますので、引き続きよろしくお願いします!

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愛賀綴は複数のSNSにアカウントを持っていますが、基本は同じことを投稿しています。どこか一つを覗けば、だいたい生存状況がわかります。

愛賀綴として思ったことをぶつくさと投稿しているので、小説のことだけを投稿していません。
たまに辛口な独り言を多発したり、ニュースなどの記事に対してもぶつぶつぶつくさ言ってます。

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