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59.日々コツコツと

誤字脱字、誤変換があった場合、誤字報告からご一報いただけると嬉しいです。


「なんでなんでなんでなんでどうしてどうしてどうしてどうして絶対いいムードになる瞬間あったよねあったはずないとおかしいのになんでトウマと(つが)ってないのさ!」

「ねぇ、チビ、それ、どういう意味で言ってる?」

「もちろんドッキング」


 チビに息継ぎなしで責められた内容に強く抗議したい。そして、まったくぼやかさずストレートに言ってきたことに、恥ずかしさよりも脱力した。


(つが)うってそういう行為の意味じゃないからね?」

「そういう意味も含むよね?」

「だけどチビ、今さっきは確実に限定的な意味で使ったよね?」

「お前らいい加減にしろ」


 呆れたオニキスに止められた。

 昨日はどれくらいぶりにトウマと二人で話しただろう。私の言えなかったことが言えて、思いがけずトウマの生い立ちを聞いてしまい、お互いになかなか情報量の多い一日になったけど、ぐっと近づいたと思う。

 トウマが帰ったあと、どこかに隠れていたスライムが出てきて、ベターッと床に張り付いてしばらく動かなかったが、チビと同じ不満だったのだろうか。じっと見つめていたら、小さく波打ってから寝床のボウルにズルズル入っていったけど。


 トウマに伯父の件の共有が認められたことと、トウマ自身からトウマのことを聞かせてもらえてホッとしたのもあったのか、昨夜は風呂に入ったら無性に眠くなり、早々に寝て、今朝は日の出とともに起きた。 

 私が起きた途端にチビがやってきて、ブーブーと不満たらたら。

 シトシトと小雨が降る早朝、山小屋の玄関前で不満気なチビとジト目の私の攻防を止めてくれたオニキスも早いね。おはよう。


「トウマのやつ、少し前からリリカに何かあったのかと不安になっていたからな。理由がわかって物凄く安堵できたと思うぞ」

「うん、オニキスも黙ってくれてありがとう」

「俺がチビからの内緒話で知っていたのは気にすることじゃない。妖獣間の内緒話は相棒にも言わないのは決まりみたいなもんだ」

「それでもありがとう」

「こっちこそだ。野生に還った姿のトウマを受け入れているリリカに俺は感服する」


 感服されるほどのことではなく、最初からあんな姿だったから見慣れてしまっただけで、トウマのボサボサ頭にモサモサ無精髭の姿を受け入れているのは私だけじゃない。私以外の職員のだいたい受け入れているじゃんと笑ってしまった。

 オニキスはトウマに口酸っぱく「ほどほどの野生化で整えろ」と言っているのは知っているけれど、あの姿がわざとなのも知ってしまうと強くも言いにくい。


「みんな諦めが早すぎる。俺の同志はベリアの婆さんだけなのか」

「言わなきゃいけないときは言うようにするね」


 身綺麗なトウマはバッチリかっこいいけれど、普段のトウマはオニキスが言うほど野生ってほどではないと思う。

 オニキスと話している横でまだ不満気なチビ。チビが不納得だろうが、そのタイミングは私とトウマが決める。あんまりしつこいとセクシャルハラスメントで肘鉄するぞ?

 オニキスにも「二人の速度でいいだろが」と諭され、やっとブーブー言うのをやめてくれた。


 昨夜の残りの惣菜類を朝食にしていたらトウマからの朝の通信連絡がきた。

 『昨日はしっかり寝れたか?』と気遣ってくれる言葉にニヨニヨしてしまう。『うん』と返せば『無理すんなよ。今日も頑張ろうぜ』とすぐに返ってきたから、また『うん!』と返した。

 朝の連絡終わり。

 ……私、トウマに『うん』としか返していない。これでいいのだろうか? 返事はしたからいいとしよう。


 妖獣たちの餌の時間になり、牧場に移動する時間になっても小雨が止まなかった。ショルダーバッグにタオルを追加で入れてレインコートを着る。浮遊バイクに屋根はつけたけど、走行していると小雨でも横からちょいちょい入り込んでくるからレインコートは着ておくのが無難。

 妖獣たちは濡れてもぜんぜん気にしないタイプと、異能で濡れないようにするタイプがいて、今日預かっている妖獣はみんな濡れていてもへっちゃらなタイプだった。

 牧場に餌をもらいに移動し、チビとオニキスがスプラッターな餌ではなく、粗食モードで大きな骨をガリガリ食べ出したので放置し、預かっている妖獣たちに浮かれ食いもなかったので、食後のひと休みの間は餌場の従業員さんにお願いしてマドリーナの見舞いに顔を出した。

 どこからどう話しが伝わったのか、マドリーナの中では私とトウマが一夜を明かしたことになっていた。


「やっとトウマと本当の仲になったのね! ここまでヤキモキしたんだから!」

「……いや? あの? マドリーナ?」


 鼻息荒くふんふんと興奮して元気いっぱいなマドリーナに慄きつつ、元気でいる機会を逃すまいとマドリーナにちょいちょい食べさせているクララさん。強い。

 マドリーナとの仲でセクハラ云々を持ち出すのもおかしな話しだし、私もマドリーナに対してそういう気持ちにならない。

 マドリーナは聞いた話しから勝手に勘違いしただけだったが、他の人も似た勘違いはされそうだ。

 勘違いになる原因を作ったのはチビとゴードンと仲よしな子どもたち。

 昨日の夕方、私がチビの歌の練習に来ないと知って、私を慕ってくれるゴードンとその仲間たちが「びょおき?」「かぜひいちゃった?」と、とても気にしてしまったという。それでチビが「元気だよ! 今日はトウマと山小屋でデートなの!」と言って安心させたそうだ。チビも間違ったことは言ってない。

 練習から牧場に帰ったゴードンがマドリーナに「リリカ(ねえ)とトウマがやまごやデートなんだって!」と言ったところから、マドリーナが勝手に勘違いした。

 真実は久々に夕食を摂りながら話しただけだと説明したら、マドリーナは目に見えて落胆。


「あら、そうなの……」

「なんでマドリーナがそんなに残念がるかな?」

「マドリーナ、この仲だから許されるのかもしれないけど、親しき仲にも礼儀あり。まったく、デリカシーはどこに捨ててきたの?」


 私にとってマドリーナが姉のような存在なのと同じように、マドリーナからするとクララさんは()()な存在らしいことはこの数日でわかってきた。マドリーナを優しくでもしっかり叱るクララさん。

 クララさんは、管理所に行ったらマドリーナと似たデリカシーのない者がいるかもしれないと心配してくれたが、マドリーナの勘違いを知ればからかわれそうなことは予想できた。

 別に勘違いされようが気にしない。だってトウマと私はお付き合いしているんだし。そう、お付き合いしているんだし!


「あら? リリカ? 勝手に何に照れてんの? ふっふっふっ! 心の進展はあったのね!」

「私から見ても付き合ってるのか微妙な感じだったけど、もしかしてやっと自覚できたとか?」


 どうにも顔に出やすい私。察しのよいマドリーナとクララさんは敵わない。

 この二人に昨日の私とトウマが具体的に何を話したのかを言えない。伯父さんのことは極秘事項。トウマの生い立ちを二人がもう知っていたとしても、わざわざ私が聞いたと教える必要もない。

 忙しさにすれ違っていたから話せてよかった。そういう軽い惚気で終わらせた。


 管理所に着いてからは案の定、すれ違った職員の何人かにからかわれたけど、多数の職員が行き交う廊下で言ってくるデリカシーのない人は普段接点が多くはない人たちで、揃いも揃ってトウマと同年代くらいの女性ばかり。私とトウマがヤったのか、ヤらなかったのかがあなたたちに何の関係が? と言いたくなったけれど、単に食事をしただけですがとあしらって終わり。

 菜園班や調理部、チビの歌の演奏で顔なじみになった職員さんはからかいもなく、何か言われたとしても「デートしたんだって? よかったなー!」というお祝いの言葉。そういう人たちと今後も仲良くやっていこう。


 人工森林の動植物調査が終わって範囲から伐採が始まった。

 あと数週間で陛下がいらっしゃる。あわせてやってくる人たちとともに預かる大型の妖獣が来てしまう。

 管理所の上層部を交えた臨時会議でも、預かる妖獣をあちこちに分散させて休ませるのは預かる側も大変だとなり、人工森林の職員寮に近い場所だけ急ピッチで整備することになった。事前準備や根回しはしてあったので、最終決定を受けて工事が始まっている。

 木を斬り倒して、それを材木置き場まで運搬し、根を掘り起こして、地面を均す。言葉にするのは簡単だけど、素人が手伝えることはない。

 どの作業も大変だが、木々の根を掘り返して地面を均す作業が一番厄介だとなった。土木重機でやっていくにもあれこれ何台もの重機を使うと渋滞が起きて効率が悪い。

 タイミングよく常連の妖獣の預かり予約が入っていたので、作業の依頼を打診してみたら即答の快諾。もちろん相棒の人にも事情を説明し、妖獣へは対価の支払いもある。思いっきり動きまわりたくて管理所の預かりを利用している妖獣なので、ウキウキとやってきてくれた。

 チビが「おりゃー!」と根を掘り出していくけれどとても大雑把。根っこの数倍以上の巨大な穴を作ってしまうので、そのフォローに小さい妖獣たちが集まっていく。


「チビー! 本当に制御してんのかコラァ! 抉るなー! 水が湧くー!」

「井戸作るんじゃねーんだぞー!」

「ぎぃー! ここ岩盤までやりやがった! 固めなくちゃじゃんかー!」

「たのちいー!」


 ……みんな、本当にありがとう。

 「やる!」と答えてくれた妖獣は、管理所の山を駆けまわりに来る常連四匹。とくに領主館にいる人を相棒にしているツバメに似た姿の妖獣が一番活躍してくれた。

 ツバメの姿なのに地竜種だというチグハグさを飲み込むまでに少し時間を要したが、ゴゴジと同じくモゾモゾと地面に潜っていくので本当に地竜種だった。

 ただ、このツバメの姿の妖獣が預かりにくると、臨時の()()シフトが組まれる。()()シフトではない。()()シフトなのがミソだ。

 今回もとても楽しそうにチビの作った大穴を埋めてくれて、仕事のしすぎ──当の妖獣としては遊びすぎで、途中からハイになってしまった。浮かれ食いではなく、動き回りすぎで浮かれてしまう。

 これが駄目なのだ。

 寝てくれない。

 話しに付き合えと徹夜語りに付き合わされる羽目になる。

 今回の生贄は私。

 興奮冷めやらないツバメの姿の妖獣に、徹夜で『黄芋と白芋と紅芋と黒芋の進化の歴史』を延々と聞かされた。翌日の午前中に仮眠したけれど、芋だらけの夢を見て寝た気がしなかった。

 過去リーダーは『イトミミズの繁殖』、シード先輩は『深海生物の捕食』、ルシア先輩は『なぜ老齢になると鼻毛と耳毛が一本長々と伸びるのか』、ニット先輩は『算学公式は誕生秘話』が印象深いと言っていた。私は前回の『ナメクジとカタツムリとエスカルゴの分岐点』が意味不明に面白かった。

 徹夜語り被害数はルシア先輩がトップで次いでニット先輩。リーダーとシード先輩は奥さんがいるので徹夜シフトはできるだけ除外し、サリー先輩は子育てなのでこの数年は徹夜シフトに入れない。独り身のルシア先輩と、結婚が決まるまでのニット先輩が引き受けるしかなかった。

 今後はニット先輩の代わりに私が徹夜シフトに多く組み込まれるだろう。覚悟はしている。

 ちなみに興奮して徹夜語りをする妖獣は、日頃は楚々と相棒の人に寄り添っていると聞き、楚々とは? と考えた私は悪くないと思う。


 そんなこんなで慌ただしい中、とうとうセイとお別れ。

 管理所の奥にある緊急発着場に停泊していた空軍の戦艦は、基地への帰還前に下の街にある民間発着場でも戦艦パフォーマンスを披露し、大きな歓声に見送られて飛び立っていった。


 空軍が発つ前日、緊急発着場でチビのミニコンサートを開催した。

 空軍の方々はチビの歌のことを知っているので、サプライズコンサートが見れなくて残念という声を聞き、チビに言ってみたら即座にモモンドさんを呼び、ラワンさんやコロンボンさんにも相談してミニコンサートができないかと話し合ってくれた。

 結果として、チビや演奏者はリハーサルになったと喜び、空軍の皆様にも楽しんでもらえた。

 サプライズコンサートも野外なので、フェフェも外での音の制御の確認ができると積極的に協力してくれた。

 しかし、フェフェが引き受けていた依頼の納期が二つ延び、依頼主の整備班の班長さんに「元凶はリリカとチビだったかー」とネチネチと愚痴られた。本当にごめんなさい。

 セイは最後の数週間で育てていた野菜の苗を戦艦に積み込み、「コンサートが成功するよう祈っとくなー」と言って基地に帰っていった。また会えるといいな。


 菜園の助っ人セイが優秀すぎて、抜けた穴は大きかったが、人の採用が進むまで臨時助っ人が爆誕した。


「いっくよー!」

「チビがんばれー!」

「チビー! ここまでだからなー!」


 子どもたちの声援を受けながらチビが地面スレスレまで頭を下げてムムムと唸り、「せーのっ、ダーッ!」の掛け声とともにチビの鼻先から向こう数十メートルある畝がボコッと浮いた。

 そう、浮いた。

 異能の発揮に掛け声はいらないが、どうもこの掛け声がないと土の制御がうまくできないという。土がボコリと動くタイミングがわかるので、いいと言えばいい。いや、本来、掛け声はいらないハズなんだけど。

 宙に浮いた畝が細かく振動して土が降る。

 土って降るものだったっけ?


「チビー! もうちょっと下げてー!」

「うおーい」


 あらかたの土をふるい落とすと、葉と茎があるまま土に隠れていた芋がいくつも見えてくる。高度を下げて子どもの頭の高さより低い場所に降ろすと、子どもたちがわらわらと芋に寄り、芋の部分を叩いてさらに土落とし。


「そろそろ端に寄せるよー」

「はーい」

「こっちー!」


 子どもたちが畑の端に走っていくと、追いかけるように宙に浮いている葉付きのままの芋。

 子どもたちは二人で一組、または三人で一組。目の前に降りてきた芋の茎を掴むと芋だけ収穫して籠に入れていく。籠がいっぱいになると、一人が空き籠と交換し、芋の入った籠は運搬用車両が来るところに移動して並べる。残った葉と茎は畑の隅に集めておけばいい。


 管理所にも芋などの根菜類を掘り返す収穫機はあるけれど、台数がそこまで多くないのでどうしたって人海戦術で収穫しないとならない。

 人工森林の整地で何十本もの根掘りを経験したチビは、やっと『土をごっそり掘ってしまう草むしり』の深さが五十センチ前後で制御できるようになった。やっとである。五十センチでもまだ深いのだが、芋掘りには絶妙に最適な深さだったので、チビと子どもたちによる収穫チームがいい戦力になった。


「リーリーカー」


 フェフェの呼ぶ声と同時に、ドスッと後頭部に衝撃を受けた。フェフェが飛んできて、私の頭を抱え込むように張り付いたのだ。


「フェフェ〜、痛くないけど痛かった」

「はははー」


 リスザルのような姿のフェフェなので前脚と後ろ脚で頭にしっかり抱きつける。片方の後ろ脚で首の後ろをちょいちょいと掻いてくるのがフェフェなりの挨拶でこそばゆい。


 チビのコンサートのときに一緒にステージに立つ子どもたちが練習に来るのだが、ほとんどが幼年部で学校の授業が早く終る。学校が終わってまっすぐ管理所に来てしまうと早すぎるのだ。

 演奏者の大人はまだ仕事中。大人が雁首並べてどうしたもんかと考えたが、人手不足の菜園から。子どものできる範囲でいいから手伝ってくれと話しがあり、収穫の手伝いをお願いすることになった。子どもたちは小遣い稼ぎができて一石二鳥。

 収穫の手伝いを一時間くらいしたらおやつを摂り、一時間くらいの昼寝というか夕寝の仮眠で休んでもらうと、演奏者たちも集まってくる。

 子どもたちの保護者も共働きが多いので、管理所から常に大人数名がついている。

 今、子どもたちの見守りの筆頭で頑張っているのはニット先輩の奥さんであるカーラさんだ。


 山小屋を貸した二日間でニット先輩からカーラさんに「僕たちもっとエバンスとまわりの人を信用しよう!」と話し合いをしたそうだ。

 エバンスくんの泣き声がまわりに迷惑になっているんじゃないか、外に連れて行くのはやはり泣かないようになってからがいいんじゃないか、いつになったら泣かなくなるだろうかと、ぐるぐると考えすぎて閉じ籠もってしまっていたカーラさん。視野も世界も狭まっていた。

 初めてのお子様の育児を頑張らければ! と気合いを入れすぎたところから、思考がよくない方向に転がっていき、結果ノイローゼ。

 そのことを自覚し、少しずつ、少しずつ、閉じ籠もっていた殻から抜け出してきてくれた。

 親の変化を機敏に察ししたのか、ここのところエバンスくんが大泣きすることも少なくなった。カーラさんの不安な様子に泣いていたのかも知れないというのは私の勝手な想像だけど。

 そんな折、チビの歌の練習に来る子どもたちを見守る人員確保の議題があって、カーラさんに白羽の矢が立った。

 午後のおやつの時間前から演奏者が集まるまでの夕方まで子どもたちの見守り。時間はそう長くない。

 初日は多数の子どもたちの見守りに戸惑っていたけれど、ニット先輩と結婚する前は教師をしていたカーラさん。数日もすればイキイキして、雨の日は休憩所で子どもたちに紙粘土で工作を教えたり。

 ニット先輩がこっそり覗いて、朗らかに笑う妻の様子に涙ぐんでいたのを思い出す。


「カーラさん、呼ばれたので離れます」

「はい、ここは任せてください」

「チビー、しっかり制御するんだからねー!」

「へーい」


 カーラさん以外にも菜園の職員さんが監督で一人いるし、育児支援班や今日勤務が休みの子どもの保護者も数名いるのでここは大丈夫。

 フェフェに頭にしがみつかれたまま浮遊バイクに跨り、人工森林を整地したところに向かえば、遠目にも大型の仮設倉庫が完成しているのがわかった。朝に通り過ぎたときは建設中の保護シートがかかっていたけれど、それが外されている。

 仮設倉庫内の仕切りや防音、空調整備も完璧。整備班に「休みが吹っ飛んだ!」とメチャクチャ恨まれ、トウマにも随分愚痴られた。

 この忙しさは私や妖獣世話班のせいではない。リーダーやシード先輩、上層部もここまで中型以上の大型の妖獣ばかりから預かり予約が来るとは思っていなかったのだ。しかも多くが仮眠希望で場所がないことになるとは思っても見なかった。

 ただ、あとあと気がついたけれど、オニキスと同等程度の大きなからオパールたち並の大型妖獣に、遊びまわりたい! と言われるより、寝ていてくれたほうが監視はラクでいいのかもしれないとは思った。


 私が着いたときはまだ妖獣世話班の全員が集まっていなかったので、先に中を見学して妖獣が仮眠する個室に入ってみたが、うん、外の音もほとんど聞こえず静か。寒すぎず暑すぎず、いい感じ。


「明日から仮眠に来る妖獣が増えるのか」

「そだなー」


 陛下がくるのは三日後だが、領主会合の付き添いでくる方々は今日あたりから続々とシャーヤランに来ている。船の発着場の受け入れの関係でバラけた日時に来てもらっていると聞いた。

 妖獣たちの預かりは明日から一気に増える。今日のうちに妖獣世話班全員で最後の確認だ。

 リーダーと私が領主会合と陛下の船に招待されて不在続きになるので、フォローに入る職員さんへの説明もある。


「リリカはそのあとにベリアんとこだぞ」

「……はい」


 一昨日ベリア大先輩が時間が空いたからと押しかけてきて連行され、髪を整えてもらえて、顔剃りもしてもらった。これ以上、何をしても変わらないと思うのだが、今日の夕方にも強制的に予約をさせられていて、行かない選択肢はない。

 隙のない外見にしてもらおう。

 こういうことも慣れだ。頑張れ、私。


お読みいただき、ありがとうございます。

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愛賀綴は複数のSNSにアカウントを持っていますが、基本は同じことを投稿しています。どこか一つを覗けば、だいたい生存状況がわかります。

愛賀綴として思ったことをぶつくさと投稿しているので、小説のことだけを投稿していません。
たまに辛口な独り言を多発したり、ニュースなどの記事に対してもぶつぶつぶつくさ言ってます。

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