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57.まわりの人はよく見てる

感想や評価等をいただけましたら、とてつもなく嬉しいです。


 伯父の事件のその後を教えてもらえたことで、知らない不安の日々から脱却。

 泣いて赤くなっていた目を静めてから山小屋に戻ったが、小さい妖獣たちに登られて動けなくなっていたシード先輩とニット先輩には泣いたことをすぐに気づかれた。

 細々詳細は言えないけれど、伯父のその後のことを教えてもらえたと伝えたら、大きく頷いてよかったと言い、不安がなくなったことを喜んでくれた。

 どこにいたのか、ビューンと飛んできたキィちゃんもベタンと顔に貼り付き、「よっしゃ! リリカが元気になったー!」と、わしゃわしゃと頭を撫でてくれた。キィちゃんもありがとう。


 夜に両親とも話した。

 兄と義姉は伯父の件を知らない。

 両親が王弟殿下に情報共有する者として確認したら、仮に情報共有するとしても出産を終えてからがよいだろうと助言をいただいたという。私も両親も義姉が妊娠中であることはお伝えしていないが、私の家族の現状を調べてくれたのだろう。

 両親と兄は同じ街にいるけれど、家も違うし勤務先も違う。同じ街にいても会うことは稀。言わないという選択肢もある。両親や湯治場の組合長さんは悩み、助言の通り今は言わないが将来的に言う場合は、私に一度相談してから上の判断を仰ぎたいとして、王弟殿下と陸軍閣下も了承していたと聞かされた。

 私から管理所の誰かにお願いして王弟殿下か陸軍閣下に繋いでもらうのは遠回りだけれど、シシダとその一帯の警備にあたる陸軍から閣下たちに連絡を取ってもらうことに躊躇いがあったのだという。あそこの陸軍はガラッと刷新されたと聞いたけれど、両親や湯治場の組合長たちからの信頼度は底辺を這う状態。溝はなかなか深かった。

 信用や信頼は積み重ねて築かれる。時間はかかるが少しずつ改善するのを願うしかない。

 お互いに何度も伯父の回復を祈ろうと話し、義姉の出産後の落ち着くタイミングで帰省する約束をした。


 その翌日にはたまたま売店で会ったモラさんに「おーや、前のリリカに戻ったね、よかったよかった」と声をかけられ、なんでそう言われたのかわからず尋ね返したら、スライムの謎茶分析したのはあたしだよと優しい笑顔で返された。


「スライムの謎茶三号に入ってる『ロローレロ』は鎮静や抗うつ、不眠なんかで使われる薬草なんだけどね、淹れ方を間違えるとすげぇー苦くて、患者に(いや)がられて使われなくなってんだ。今は別の薬草や調薬が主流だからねー」


 モラさんは謎茶を分析したときに、そのロローレロが含まれていたので、私が何か不安に(さいな)まれているのかと思ったのだそうだ。わざわざ分析表を持って山小屋に押しかけたのも、心配になり、私の顔を見てみようとわざわざ会いにきてくれたと知った。

 私と話してみると様子は普通なのに、うまくいえないけど雰囲気が暗い感じがする。けれども朗らかに笑う私はいつもの通りにも見える。謎茶にロローレロが使われているのを知っているから、私が不安に陥っていると勝手に思い込んでしまっただけかもしれないと、そのときは流したそうだ。

 それが今、私と会ったら晴れ晴れスッキリの雰囲気。やっぱり私が何かに悩んでいたから、スライムが鎮静効果が高い謎茶を作ったんだと確信したと言われた。


「誰だって何かあったりするもんさ!」

 

 モラさんは多くを聞かず、励ましの言葉とともにバンッと背を叩いてくれて、泣き笑いで頷いた。嬉しかった。

 その後に菜園や図書室、食堂で会った何人かにも声をかけられ、自分では普通に振る舞っていたつもりでも、不安は滲み出ていたんだと知った。

 こっそり声をかけてくれた人数はそう多くなかったけれど、「今日はスッキリしてんな? やっとチビの暴走を諦めたのか? ははは!」と、私の疲労困憊はチビが原因だと勘違いしていたので、笑って流して、そういうことにしておいた。

 

 王弟殿下からの説明会のあと、できるだけ早く所長からリーダーとトウマを含めた通達の場を作ると言ってくれたけれど、予想以上に所長が忙しく、調整に調整して所長代理と警備隊の隊長からの通達となった。

 トウマに私の伯父の件を話してよいとなり、事件の経緯などから伝えてくれたのは所長代理。


「人が殺されるかもしれないという衝撃的な内容だったことと、軍内部の不正があり、最上位の箝口令となった。今も箝口令は継続していて、知る者は非常に限られている。アロンソもトウマもそのことは理解してくれ。アロンソ、今日の場のことはメイリンは対象外だ」


 たとえ夫婦や家族でも話せない業務や内容はたくさんある。警備隊の業務はそのほとんどが言えないことばかりだし、医師なども同様だ。

 私とトウマは付き合う仲になったが日は浅い。

 先の説明の席ではアビーさんたちはトウマへの情報を推してくれたが、私はトウマに共有を広げるのは認められない可能性も覚悟していた。


 トウマは所長代理から説明が始まって僅かに目を大きくして私を見てきたけれど、すぐに表情を戻し、受け止めてくれた。

 リーダーは事件発生のことは知っているけれど、トウマへの共有を兼ねて最初から。


 通達のあと、警備隊の隊長が話しを繋げ、しばらくの間、私は管理所を出るときに警備隊に外出報告を義務付けられた。


「下の街にふらっと買い物に行くくらい、好きにしたっていいじゃないかと言い返してやりたかったんだが、酷く心配する声があってな。冬前には解除できると思うが、チビを連れて出るなら最高に安心だ。式典デビューも街デビューもしたし、()()として連れ出すのはかまわないぞ」

「チビを街に連れて行くと、その……、街で混乱が起きないかと……」


 デビュー前に数度連れ出して、しっかり騒ぎになった。騒ぎと言っても混乱までは起きておらず、シャーヤランは首都と違って、みんな常識があって凄いと思ったものだ。


「チビが街に出ればどうしたって騒ぎは起きるだろうな。だからこそ外に出るときは知らせてほしい。オニキスが頻繁に出て仕事しているから、下の街の者らは妖獣がいるのは仕事だってわかっているし、観光客も大半はわかってはいるんだが、……まあ、チビだからな」


 そうチビだから。チビ、大きいから。やらなくていいのに大道芸も始めちゃうから。

 ここ何年どころか何十年もチビのような大きな妖獣は姿を見せなかった。大きな妖獣がいたのを知るのは博物館などにある全身骨格くらいだったのが、見上げるほどの大きな妖獣が動いていれば、どうしたって関心は高まる。だから、チビと街に出ると人集りになる。これはもう仕方ない。


「あー、なんだ。チビが歌手デビューしたら、今までの比ではないくらい絶対凄いことになる。そうなるとな、姿()()()()()()()()のも不満になっちまう。ほどほどにチビの姿を見せるほうがいいと思うんだ」


 オニキスはトウマとともに結構な頻度で街に出て活動してきたことで見慣れたという面も大きい。なお、リーダーとフェフェはあまり管理所から出ないのでまったく参考にならない。


「でも、街からの作業要請の内容でチビができることは多くなくて……」


 オニキスやたまにフェフェが下の街でやっている仕事は整備関係が多くて、正直、異能の制御が甘いチビはまだ無理で依頼できないとトウマも言う。そうなるとアルア商会に行って買い物して、荷物を持って飛んでもらうくらいしか思いつかない。 


「それでいい。アルア商会なら信用もできる」


 リーダーもチビができそうな街の作業を考えてくれていたけれど、肩を竦めて苦笑し、二週間に一回くらい買いに出るかと提案してくれた。やはりそれしかなさそうだ。

 私事でもチビ連れで出かけるなら、チビが私のことは守ってくれる。目立ちまくるが安全性はとても高い。

 だけど、よく考えなくても私もそうそう下の街に行く用事はない。

 学院に行っていた一時期のように芝居を見に行くような趣味が復活したら違うだろうが、職員寮にある売店でぜんぜん足りる。フェフェへの賄賂でシュークリームを買っていたのも一区切りしたので、その他で何かあるだろうか?

 しばらく考えてみたけれどなかった。

 何か思い出して街に行かないとならないことがあったら言いますと答えたら、とても残念な顔をした所長代理と隊長さんが私ではなくトウマを見た。


「トウマ、デートに連れ出せ」

「おい、トウマ連れ出せ。この若さで管理所引き籠もりはよくない」


 二人して不納得な顔で同時に言うから、リーダーが肩を震わせて笑い出してしまった。

 トウマはブスッとして腕を組んで椅子に凭れ、不機嫌が丸出しだ。


「お二人に言われなくても考えています。お互い忙しくて時間が取れないんですよ。また特にここのところの忙しさはなんなんですかね?」

「チビに言え」

「チビだ」

「原因はチビだろう」


 うん、ごめんなさい、チビだと思う。

 それにしてもずっと忙しいのは本当で、真夏前は採集隊の出動でトウマは採集隊に出ていたし、居残り組の私も異常に忙しかった。

 採集隊結成のちょっと前はオニキスが大怪我して余裕すらなかった。

 採集隊が帰ってきてからも通常業務が忙しく、そんな中でシャナイによる浮遊バイクへのペンキぶち撒け事件があり、式典があって、私の思いつきで誕生した緑連豆メニューでドタバタして、チビの街デビュー。そして私は伯父のことでシシダへ行き来して、帰ってきて浮遊バイクの中級ライセンスの集中訓練。現在進行形のチビの歌手デビューのあれこれ画策に、私は直接関係はしていないものの、間接的に巻き込まれていて出席している打ち合わせは多く、自由時間がない。

 ゴゴジと相棒さんの葬儀にリャウダーに飛んだのもついこの前のことなのに、何年も前のことのよう。


 トウマからすると私の伯父の事件の事情を知らなかったこともあり、チビの街デビュー前後のあたりから私の様子がおかしいとは思ったが、チビが派手に街デビューしたり、緑連豆の件では領主に呼ばれたりで、ストレス過多なのかと思っていたら、それらが過ぎても私の様子はどこか心あらず。どう接するのがいいか迷っていたという。


 遡ってみるとトウマに付き合わないかと言われてから、実にお互い時間がなかった。

 私の新しい浮遊バイクを買いに出たのがデートと言えばデートだった。あれが初めて二人きりだった。めちゃくちゃドキドキしたのを思い出す。


 そんなこんなをぶつぶつと文句を言いだしたトウマに、心がポカポカして顔が熱くなってきた。

 デートを考えていてくれたんだ。嬉しくてニヨニヨしそうな顔を何とか落ち着かせるが隠せそうにない。


「……惚気か? 惚気る前に実行しろよ?」


 トウマの様子に隊長さんが呆れているが、目で私によかったなと言ってくれて、さらに顔の熱が高くなってしまった。

 親世代にお付き合いの心配をされる羞恥と嬉しさが綯い交ぜになるが、伯父の件という重たい話しの場だったのに、なんでこうなった?

 でも、トウマが私との付き合いをしっかり考えていることを知れたのが何より嬉しい。


 トウマの愚痴惚気(ぐちのろけ)が業務に対する本気の愚痴になってきたところで話しを戻して、トウマとリーダーに伯父の件の詳細まで知るメンバーを再確認。

 所長室と所長代理室に所属している全員と上層部は統括部門長と一部の副部長職に完全共有。

 妖獣世話班で完全共有はリーダーのみ。その他のメンバーには概要のみで、メイリンさんは妖獣世話班の臨時メンバーとして、他のメンバーと同レベルまでの共有。

 私のシシダ行きの同行者となったラワンさんとコロンボンさんは、今後も完全共有でフォローをしてもらえることになっている。チビの歌の演奏者でもあるので、私が二人と接点があることに違和感もない。

 これらのメンバーに加え、事件の全貌を完全に共有する追加メンバーになったのはお爺ちゃん医とトウマ。


「今はここまでだ。また何かあれば通達する」

「承知しました」

「わかりました」

「ありがとうございます」


 所長代理の締めの言葉に、リーダー、トウマ、私が揃って言葉を返す。

 その言葉を待っていたように会議室の扉がノックされた。


「まだ終わらないかしら?」


 ペニンダさんだ。

 会議室の利用予約が過ぎていて、次に使う人たちが来てしまったのかと思ったら、所長代理が手で座っていろと合図するので、立ち上がろうとした微妙な姿勢で戸惑ってしまった。


「終わったぞ。タイミングバッチリだな。盗聴してたわけではないだろうな」

「馬鹿言わないでください。盗聴なんてできるわけないじゃないですか。終わってるんだったら、さあっ捕まえたわよ!」


 所長代理が扉を開けてペニンダさんを招き入れたら、その後ろからカモダさんとペニンダさんの下にいる職員さんがいい笑顔で入ってきた。

 持っている平べったい箱に入っているのは制服の試作品だ。私は何度か試着して、変更された生地への質問や希望を言い、試作品のサイズ調整は終わっている。

 ロングジレ型は背中の部分だけ生地が変更されて軽くなり、通気性も少し増しているもので最終調整してもらった。詰め襟はこれで改善なのかと唸ってしまったけれど、カモダさんや同席していたペニンダさんとも話し合って妥協した。

 領主会合の場で管理所提案の試作品のお披露目モデルになるのが妖獣の相棒である私たちなので、何度も試着要請が来ていたが、リーダーとトウマがやってくることはなかった。


「何度呼び出したと思ってるのよ! 毎回毎回毎回毎回ッ、二人とも幼児より悪いったら!」

「さ、試着してください。アロンソさん、メイリンさんから太ったと聞きました。陛下がいらっしゃるまでに体を絞ります? さあっ調整しますよ!」

「トウマ、早く脱げ、そしてこれを着ろ。サイズが合ってりゃ即解放してやる。ついでに髭も剃れ!」

「リリカさんは終わりでいいですよ~」


 ペニンダさんが吠え、カモダさんが巻き尺を手にしてニコニコ顔だがぜんぜん目が笑っていない。名前が出てこないペニンダさんの部下の男性がトウマを脅して着替えさせようとし始めたので、所長代理の言葉に従って退室した。

 私と同時に警備隊の隊長さんも退室。


「ここのところリンダルが楽しそうに警備体制を作っているのに、頭を掻き毟って唸っててな」

「あー、それはー、申し訳ないような、私ではなんともできないような」


 リンダルさんは警備隊の副隊長さん。チビの歌手デビューに関連して街の警備体制を担当してくれる管理所側の責任者だが、領主館側の警備責任者さんと一緒になって笑いながら唸っているのを二度ほど見かけた。

 サプライズで開催しようとしているチビのコンサートの会場付近が大騒動になるのは必死なので、頭を掻き毟っているんだろう。


 隊長さんがクックックッと笑っているうちは大丈夫だと判断する。

 これまで警備隊の隊長さんとは全然接点がなかったけれど、伯父の事件の余波で、シャーヤランの街にも組織の者が潜んでいないかと走り回ってくれたのは管理所の警備隊の方々。妖獣の素材の密売組織がいるかもしれないとして、捜査を指揮していたのが隊長さん。

 シャーヤランの領都では組織と思しき者は見つからなかったと聞いているが、バイクを改造して騒音を響かせ、さらに音楽を大音量垂れ流しで走り回るロクデナシの迷惑軍団を捕まえることができてホクホクしていた。

 改造バイクは改造した時点で犯罪。なのにたまに湧いてくるから困りもの。


「この前も言ったがひとまずは一区切りだ。何かあったら俺でもいいし、あのメンバーの誰かにすぐ相談しろよ」

「はい、ありがとうございます」


 私がトウマに隠していることはもうない。

 あの話を聞いてもトウマは私とのデートを考えてくれているのを知ったから、私への好意は継続していることも知ることができた。

 タイミングをみて、私からトウマに直接聞ける場を持とう。

 全部とは言わないから、人伝(ひとづて)ではなくトウマのことを知りたい。それで私のことを嫌いにならなかったらデートに行きたい。何がしたいということはないから、山小屋でぼんやりするだけでもいい。

 デートに誘われる前には聞こう。

 そう決意したら、その機会は早々に、その日の夕方に訪れた。


お読みいただき、ありがとうございます。引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます!

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愛賀綴は複数のSNSにアカウントを持っていますが、基本は同じことを投稿しています。どこか一つを覗けば、だいたい生存状況がわかります。

愛賀綴として思ったことをぶつくさと投稿しているので、小説のことだけを投稿していません。
たまに辛口な独り言を多発したり、ニュースなどの記事に対してもぶつぶつぶつくさ言ってます。

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