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コンビニの女

栖坂月先生の作品にインスパイアされました。先生、ごめんなさい。

 僕はフリーター。いや、フリーターなのか、ニートなのか微妙な立ち位置だ。


 仕事はしたいのだが、やる気がない。自己矛盾の塊である。


 家でゴロゴロしていると、三度の飯より小言好きの母親の説教タイムが始まってしまう。


 だから、別段用事もないのに外に出かける事にした。


「どこに行くの!?」


 背後で怒鳴る母の声。でも聞こえないフリをして玄関のドアを閉じる。


 まだ掃除やら洗濯やらで忙しいから、追いかけては来ない。


 僕は悠然と路地を歩き、表通りに向かう。


 道行く人達が僕を好奇の目で見ているような気がしたのは数ヶ月前までで、今は何も感じない。


 フリーターで何が悪い? ニートのどこがいけない?


 お前らに何か迷惑かけたかよ?


 自己中ここに極まれり、である。


 用事がない時は、決まって行くのは近所のコンビニ。


 雑誌を一通り立ち読みしても、アイスかコーラを買えば、店員も愛想笑いの一つもしてくれる。


 以前他のコンビニで働いた事があるが、就業時間の長さとシフトの変幻自在さに疲れ、すぐに辞めた。


 だからコンビニでずっと働いている人達は、尊敬している。


 僕に尊敬されても嬉しくないだろうけど。


「いらっしゃいませー」


 僕はすぐに雑誌の立ち読みを始める。今日はよく読む週刊誌がない。


 発売日が明日なので仕方がないのだ。


 諦めてコーラを一本取り出し、レジに歩き出す。


 その瞬間、全身に電流が流れたような気がした。


 レジの子。


 僕と同世代。メッチャ可愛い。声もアニメ声でいい。


 仕草もど真ん中だ!


「いらっしゃいませー」


 普段は顔も合わせないのだが、その子には微笑みを返す。

 

 しっかりネームプレートでご尊名を確認。「こみやま」さんか。


 こんな時は、小銭を丁度持っていても、お釣りになるように出すのがデフォだ。


「十円のお返しです」


 つり銭を渡す彼女の手が僕の手に触れる。


 気持ち悪いと思われてもいい。至高の喜びを感じた。


「ありがとうございました!」


 僕は彼女のその言葉にも微笑み、コンビニを出た。


 今日ほどコンビニを出るのが名残惜しいと思った事はない。


「お」


 ふと見ると、ガラス窓に「アルバイト急募!!」の貼り紙。


 突然、まるで間欠泉のように勤労意欲が湧いて来る。


 こんなに働きたいと思った事はない。


 僕はそのままコンビニに戻り、アルバイト募集の件を尋ねた。


「では、こちらにどうぞ」


 店長らしき人が事務所に案内してくれた。


「経験があるそうですが、どれくらいの期間働いていましたか?」


 う。正直に言えば、間違いなく不採用だと読んだ僕は、躊躇いもなく、


「一年です」


と経験値を大盛りにした。


「わかりました。人員が不足しているので、よろしくお願いします」


 あっさり決定だ。夢でも見ているのだろうか?


「いつから働けますか?」


「今日からでも大丈夫です」


 ウソではない。今からでも大丈夫だ。すると店長は苦笑いをして、


「今日は取り敢えず人員が間に合っていますので、明日からお願いします」


「はい!」


 力強く返事をし、僕はコンビニを出た。


 家に帰ると、母が仁王立ちで待っていたので、


「コンビニで働く事になったから」


と勝ち誇った顔で返す。唖然とする母を尻目に、僕は自分の部屋へと向かった。


「よーし、頑張るぞー!」


 人生で一番喜んだ日だった。


 


 そして翌日。


 僕は指定された時間より早めにコンビニに行った。


「じゃあ、これに着替えて」


「はい」


 制服を渡される。ああ、こみやまさんと同じ制服、同じ職場。


 嬉し過ぎて死にそうだ。


 あれ? こみやまさんは今日はお休み?


 まあ、いいか。明日会えるし。


 コンビニ経験はゼロに等しい僕は、いろいろとミスを仕出かしながらも、明日会えるこみやまさんを思い、頑張った。


 人生でこんなに頑張ったのは、今日が初めてだろう。


 休憩時間になり、僕は先輩の店員に尋ねた。


「こみやまさんは、今日はお休みですか?」


「こみやまさん? ああ、店長の娘さんね」


 げ。店長の娘だったのか。お付き合いは無理そうだな。


 でもいいや、毎日一緒に働けるだけで。


「新しいアルバイトが見つかるまでのつなぎで来てくれてたんだよ。君が入ってくれたから、もう来ないよ」


 僕のアルバイトは、その日で終わった。

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