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ジョギングの女

 私はもうすぐ定年のサラリーマン。


 出世とは無縁で、最後の役職は係長。


 それもお情けで賜った名ばかりのものだ。


 だから、どうでも良かった。


 そんな事より、今は余生をどう楽しむかだ。


 妻に先立たれ、子供達も皆家庭を持ち、ずっと一人暮らしだった。


 いっその事、妻のところに、なんていう事もチラッと考えた事はある。


 でも、今は違う。すまん、もう少しそっちで待っていてくれ。


 仏壇の妻の写真に手を合わせて詫びる。


 最近、ちょっとした楽しみを見つけたのだ。


 ジョギング。


 近くの公園で、朝、軽く汗を流す。


 そこで毎日会う、美人。


 理由を知られたら、妻が夢枕に立ちそうだ。


 彼女とは、会釈する程度でしかないが、それでも目の保養になる。


 まだ二十代なのだろう。その張りのある長い手足は、老い先短い私には、本当に美しく見えた。


 老いらくの恋をするつもりはないが、少しくらい楽しみがないと、人生もつまらない。


 そして、今日もジョギングシューズに履き替え、公園へと出かける。


 いた。彼女だ。いつ見ても奇麗だ。


 私も彼女に追いつこうと走り出す。


 あれ? 彼女が私を見て微笑んでいる。


 周囲を見ても、そこにいるのは私だけ。


 私に手を振っている!


 うおおお! 何か知らないが、急に力がみなぎって来たぞ。


 手を振りながら走る彼女を追いかける。


 彼女は私を誘うように笑っている。


 もう少しで追いつく。


 私は必死になって足を動かした。


「危ない!」


 いきなり腕を掴まれ、引き戻された。


「ジイさん、死ぬ気か? 信号、赤だぞ?」


 腕を掴んでいる主を見ると、高校生らしかった。


「え?」


 周りを見る。どうした事か、私はいつの間にか歩道を走っていた。


「全く、礼も言えねえボケ老人かよ」


 呆然として何も言わない私に、その子は毒づいて去って行った。


「……」


 彼女が走って行った方を見ると、歩行者用の信号だけでなく、自動車用の信号も赤だった。


 つまり、私は信号無視をして道路を横切りそうになっていたのだ。


 でも、彼女は……?


 合点がいかず、その場にたたずんでいると、


「残念。もう少しだったのにね」


と女の声が聞こえた。

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