サングラスの女
僕はもうすぐ社会人一年生。
希望に溢れる、と言いたいところだが、前途多難だ。
入社予定の会社が危ないのだ。
不渡り手形を出してしまったらしい。
多分倒産するだろうという話。
どうしたらいいのだろう? やっと入社が決まったのに。
考えてみれば、年度末になって社員を採用するって、ちょっと変だとは思ったのだが。
ああ。お先真っ暗だ。
落ち込んで駅へと歩く。
ガード下を進んで行くと、途中一人の髪の長いロングコートの女性が立っていた。
薄暗いガード下で、サングラスをかけたまま、本を読んでいる。
妙な人だ。しかも、口を半開きにしている。
危ない人かも知れない。
季節の変わり目には多いんだよな。
僕は目を合わさないようにして、その人の前を通り過ぎようとした。
バサッと音がして、僕の前に女性が本を落とした。
「あ」
反射的に僕は腰を落とし、手を伸ばして本を拾った。
「どうぞ」
僕は怖かったが、つい拾ってしまったので、本を女性に差し出した。
「ありがとう」
女性は礼を言ってくれた。それほどおかしな人ではないのかも知れない。
あれ? 何か不自然だ。
彼女は言葉を発したのに、口は半開きのままだった。
腹話術師か? 一瞬そう思った。
でも次の瞬間、僕はとんでもない人に関わったと気づいた。
「どうもありがとう。お礼にお茶でもご馳走しますわ」
そう言って女性はサングラスを外した。
そこに目はなく、口が二つあった。
そして、半開きの口だと思っていたのが、目だったのだ。
「うわああああああああ!」
僕は絶叫し、そこから一目散に逃げ出した。
彼女は一体何者?
いや、そんな事はどうでもいい。
とにかく逃げなくては!
僕は必死に走った。
「きゃあああ!」
僕を見た女性が叫び、逃げ出した。
いや、その人ばかりでなく、その他の全ての人達が僕を見て逃げて行く。
ふと気づくと、その人達は全員、目の場所に口があり、口の場所に目があった。
どういう事なんだ? 異世界?
ここでは僕が恐ろしい顔の化け物なのか?
「おまわりさん、あそこです! あそこに宇宙人が!」
僕はいつの間にか警察に包囲されていた。
もうどうでもいい。
僕は脱力し、その場にしゃがんだ。
そして思った。
この街には、就職先、あるかなあ、と。