アンケートの女
私は日暮里剛。フリーターである。
カタカナにすると、よくわからなくなるのでいいが、はっきり言ってしまうと無職だ。
毎日、何となく生きている。
目的もなく、町をさ迷い歩いている。
「アンケートに答えて下さい」
西日暮里の駅前で、いきなり声をかけられた。
「はい?」
私は鬱陶しかったので、そのまま行ってしまおうと思ったのだが、声の主を見て考えが変わった。
まさに私が探していた女性だ。
ケバケバしい化粧ではなく、どこまでも自然な感じ。
服装も派手ではなく、むしろ清楚。髪は肩までのストレート。もちろん黒髪だ。
顔は美の女神と言ってもいいくらいで、エロさは微塵もない高貴さを漂わせている。
まさしく、一目惚れであった。
「は、はい、是非」
恥ずかしい事に、どこから出たのと訊かれてしまうような声で応じた。
「ありがとうございます。ではこちらへ」
その女性は、微笑んで私を歩道の端に誘導した。
「ではアンケートを実施致します」
「は、はい」
うわあ、真正面か。直視できないくらい奇麗だ。
「貴方は今おいくつですか?」
おお、凄く深い質問だ。
「三十五歳です」
女性は用紙に記入しながらも、私に微笑んでくれている。
デレッとなってしまいそうだ。
「お仕事は何ですか?」
うっ。それは年齢より辛い質問だ。
「む、無職です」
女性はそれでも笑顔のままで私を見ている。
「彼女はいますか?」
そ、そんな事まで聞かれるのか?
「い、いません」
私は屈辱に塗れたように顔を下に向けた。
「いつからいないのですか?」
そ、その質問も辛い……。
「も、物心ついた時から……」
死にたい。そう思ってしまった。
「では、最後の質問です」
私は彼女の声にビクッとして顔を上げた。
彼女は微笑んで私を見ている。
「私と付き合ってくれますか?」
え? 何だ、デート商法か? 一瞬そう思った。
「ご安心下さい、アンケートです。何も売りつけたりしません」
「そ、そうですか」
まるで心の中を見抜いたようにそう言われた。
答えるだけならいいだろう。私は意を決した。
「はい、付き合います」
女性はニッコリして、
「ありがとうございました、でも無理です」
と言うと、立ち去ってしまった。
な、何だあ? わけがわからない。
とても落ち込んでしまった。