12.デブとダンス部。
僕のダイエットクッキーのレシピ開発だけど、成功裏に終わったと言ってもいいのではないか。
もちろん、まだ1メニュー目。
これからも精進するつもり。
次のメニューは、お弁当のおかずに出来そうなのを考え中……
そして、放課後。
また来ましたいつもの部活棟。
でも料理研究部の前じゃない。
実は、新たな部室。
当初の計画通り、掛け持ちの部活を始めようとしている僕。
自分で言うのも何だけど、今までの引きこもり生活を挽回するかの如きだ。
前にも言ったけど、予定では、あと2つ3つの部活動をする予定。
「失礼します……」
今回、僕が新たに門を叩いたのはダンス部。
「食」の次は「運動」という理由。
アレ、返事が無い……
「誰かいませんかー?」
扉をガラガラと開け、恐る恐る中を覗いてみる。
誰もいない。
ふと、部室の壁に貼られた賞状や棚に飾られたトロフィーの数々を見る。
優勝とか準優勝とか、華々しい成果だ。
「コレは、僕はお門違い……?」
「おい」
「ひぇっ」
野生のダンス部関係者(?)が背後から現れた!
「お前誰だ?」
「あっ、すみません、部活の説明をお聞きしたくて……」
「入部希望? にしては来るの遅くね?」
「あ、すみません、掛け持ちで2つ目なので。ちなみに、1つ目は料理研究部です」
現れたのは、ドレッドヘアの男子だった。
雰囲気から先輩かな?
「あっ、僕は田中タカシといいます。よろしくお願いします」
「ふーん。ダンス経験はあるのか?」
「ないです。ただ、ダンスできたらカッコいいなって。見ての通り太っていることもあって、ダイエットにもなるし、自信をつけたいんです。太ってる上に完全な初心者なので、足を引っ張ってしまうとは思いますが、出来るだけ頑張るつもりです……」
最後は尻つぼみなアピールになってしまった……
「言っとくけど、女子目当てなら全員留守にしてるぞ」
「えっ? いや別に僕はそういう目的では……」
ニヤニヤされてしまった。
確かに、少しは女子部員と仲良くなれるかもって下心は否めない。
「なるほどな。そういうことなら、ダンス部はいい選択かもしれない」
「ということは、入部を認めてもらえますか?」
「多分、いいと思う。ただ部長は女子で、さっき説明した通り女子は全員留守だ。とりあえず仮入部でいいなら今俺が認めるけど」
本当ですか!?
「いいんですか、ありがとうございます!」
「仮、だぜ。仮」
「もちろんです」
「そうか。これからよろしくな。男子は少ないから楽しみだ」
「こちらこそよろしくお願いします! えっと、先輩? のお名前は……」
先輩だよね?
この態度で同級生だったら草生えますよ?
「小林ヒカル、2年生だ」
「小林先輩ですね!」
「ヒカルと呼んでくれ」
「ヒカル先輩」
ヒカル先輩、ヒカル先輩、ヒカル先輩。
よし、覚えたぞ。
「改めて、僕は田中タカシと申します」
「おい、硬すぎんぞ。タナタカって呼んでいいか?」
「あ、はい。ありがとうございます!」
「硬いな〜。ダンスは柔らかさが重要だぜ? まあいいか。おいおいだな」
ヒカル先輩、なんだか親しみ持てるお人のようだ。
「そういや、太ってるのを気にしてるみたいだが、俺が思うに太っているのはダンスにマイナスにならないかもしれないぜ?」
「というと?」
「その体型を活かしたダンスもあるんじゃないかってことさ」
「太ってるのを活かしたダンス……そんなものが?」
「俺も知らないけどな。あるかもしれない。分野は違うが、昔のアクションスターの"サモ・ハン・カンポー"って知ってるか? あ、知らないか。言葉は悪いけど"動けるデブ"ってあだ名が付けられて、世界中から愛された香港出身の俳優なんたけど。俺、実は好きなんだよね〜、あの人の太った人にしか出来ないコメディタッチのアクション! 古い作品だけど良かったら探して見てみてくれよ」
「あっ、はい」
なんだか熱量のこもった提案を受けてしまった。
動けるデブ、っていいじゃん。
サモ・ハン・カンポー、ですねメモメモ。
「部活のダンスは団体で揃えるのを重視しがちだけど、個人の個性を活かしたダンスも面白いかもしれないなー」
何やらブツブツと考え込み始めたヒカル先輩。
なるほどなぁ。
確かに、ただ痩せる為じゃなく、この体型をそのまま活かせるダンスを考えてみるのは面白いかもしれない。
その前に、僕にダンスのセンスはあるのか。
それをまずヒカル先輩に見てもらおう。
話はそれからだ。
言わずもがなですが、サモ・ハン・カンポーのモデルはサモ・ハン・キンポーさんです。w




