0.デブと教室とJK。
夕暮れの校舎。
僕たち以外、誰もいない教室。
これは夢だろうか。
僕の目の前には、アイドルと言ってもおかしくないくらいの美少女JKが、向かい合わせに座っている。
絵面的におかしい。
僕みたいな陰キャデブと向かい合わせに、こんな美少女が座っている絵は。
CGかAI生成を疑われる案件だ。
もしくは援助交際? パパ活?
こちとら、ただの同級生ですが。
「早く出して。見られる前に」
「う、うん」
刑事さん、違います!(汗)
クッキー!
ただのクッキーなんです。
彼女は僕の手作りのクッキーを出せと要求してるだけなんだ。
しんじてー。
「はい」
「ありがとー、助かる」
ポク
ポク……
なんとも可愛らしい音が響く。
「お、美味しい……」
「ありがとう」
「マジで美味しいよ。タカシ君の」
何だろう。
これってさり気なくセクハラ気味のイジりだったり?
いや、彼女みたいなスクールカースト上位陽キャにとっては、きっと何気ないあいさつみたいな会話に過ぎないんだろう。
でも、僕にとっては、女子と密室(教室)で二人きりになるなんて初めてのことだから緊張して仕方ない。
「これってダイエット用のクッキーなんだよね?」
「うん」
「普通のクッキーに比べても、普通に美味しいと思う」
「ほんと? 褒めてくれてありがとう」
目を合わせるのは無理。
目を反らせるのは失礼。
だから、僕は彼女の口に次々と運ばれるクッキーを見ていた。
「あっ、ゴメンね。たくさん食べちゃった」
「あ、全然気にしないで。この分は水嶋さん用だから。僕の分はとってあるから」
水嶋ナナコ。
彼女のヘアスタイルは今風の軽い質感のロングヘアなのだが、髪先が胸の頂点辺りで切り揃えられていて、変に視線を誘導される罠がある。
"デブ&テイク"の哲学を知り、「僕なんか」と考えることは減ってきたけど、それでもさすがに、僕なんかが女子の胸辺りに視線を向けてはいけないことは間違いない。
しっかり意識して、意識から外すことを意識する。
意識
必死にソコから外す。
だけど謎の引力が働いて間接視野から外すことが出来ない。
あっ、視線に気づかれたヤバい。
「あっこのヘアスタイル、カワイイでしょ。いまどきのシースルーフェザーバングにレイヤーカットなんだって。高校デビューで頑張ってみた」
髪を見てたと勘違いしてくれたみたい。
ギリギリセーフ!
髪型の名称は呪文みたいで覚えられないけども。
しかしどうして僕みたいな陰キャデブにこんな事態が訪れてしまってるのか。
その原因を探るべく、僕の意識は中学生の時の暗黒時代まで遡っていく――――