サクラ戦隊 最後の戦い
「あきらめるな。最後の最後までベストを尽くすのだ」
そういうサクラ戦隊リーダーの戦士レッドももはやボロボロの身体だ。
もはや先のないサクラ戦隊としては何としても戦士パープルを前面に打ち出すしかない。
「戦士グリーン、ホワイトはもう駄目かもしれない」
戦士ホワイトは見る影もなく痩せ細り、骨折を繰り返し、コスチュームさえズタズタだ。
「本部の要請にしたがって出動するシステムに偏りがありすぎるのだ。我々はすでにブルーとイエローを失い、オレンジだって満身創痍だ。次の出動でサクラ戦隊は終了かもしれない」
グリーン自身も大きなダメージを受けながら声を振り絞った。
「本部が我々の声を聞いてくれればいいが」
ブラックも頭を抱えた。
「考えがある」
そう言ったのは知恵者で知られる戦士オーカーだ。彼はまだ比較的力が残っているようだ。
「みんな聞いてくれ」
我々戦隊は参謀オーカーの作戦にしたがって極秘行動をした。本部から出ていない指令による行動は明るみになったら大問題だろうが、背に腹は替えられない。
「いまだ壮健な戦士パープルの出番を増やせるよう、本部とそのまた上部組織に内密のロビー活動を行った。効果が出るなら今日明日だろう」
策士のオーカーが自信満々に言った。
パープルも意気込んで、武者震いした。
「いよいよ俺の出番か。存分に働いてくる。みんな今度の出動時はゆっくり休んでくれ」
「だったらいいが…とにかく次の出動で誰かを失うようなことがあれば、いよいよ我々の戦隊は解散で俺たちも廃棄されるに違いない」
グリーンの言葉に倒れ込んで休むホワイトとオレンジが身を縮めた。
「そんな…恐ろしい」「廃棄処分などと」
戦隊の暗い雰囲気にリーダーの戦士レッドがキッと視線を強める。
「みんな、前を向くんだ。廃棄などという不吉なことを考えるな。サクラ戦士は不滅だ」
その時、出動の合図があり戦隊基地に照明が点灯した。
「よし!準備は出来てるぞ!」
パープルが叫び、飛び出さんばかりの勢いで前のめりになった。
しかし本部の要請は予想外のものだった。
(((出動!出動!『戦士イエロー・グリーン』出動!)))
その呼び出しには基地全体が呆気に取られた。元気な戦士パープルでもなく、もちろん死んだイエローや弱っているグリーンでもない。戦士『イエロー・グリーン』久々の出動要請!
彼も万全とはいえないが、ホワイトやグリーン、レッドほどの衰弱ぶりではない。多少はホッとした空気が漂った。
そんな中、大慌てでイエローグリーンが出動する。慌てすぎてコスチュームの前後を間違えて出て行ったほどだ。
「どういうことだ!俺の出番ではなかったのか!」
パープルが怒鳴る。
「計算違いだ。どういうことなんだ…」
オーカーも呆然としていた。
「…だが、まだ状態の悪いホワイトやグリーンではなくて良かったじゃないか」
ブラックが皆を宥めるように言った。
「確かに。戦士イエロー・グリーンはピンポイントでの戦闘が多い。これで大きく消耗するということはないだろう」
オーカーも努めて落ち着こうとゆっくり話した。
だが、その願いも虚しかった。イエロー・グリーンはその出動から戻ってこなかった。
「たった一回の…この一度の出動で消耗してしまうほど激しい戦闘だったというのか!?」
レッドの血を吐くような叫びだった。
またも彼らの戦隊は一人の勇敢な戦士を失った。もはや戦隊そのものが本部に見捨てられてしまうのではという恐怖を全員が感じていた。
その時…謎の三人組がサクラ戦隊基地に降臨した。
「君たちは…?」
レッドは信じられないという表情だ。
「やあ!初めまして!戦士ニューブルーだ!」
「同じくニューイエロー!」
「僕がニューイエロー・グリーン!ややこしくてごめん!」
ブルーとイエロー、イエロー・グリーンが順に声を発した。
「僕たちはこの基地に…」「新たに配属された戦士だ!」「サクラ戦隊は…」
そして三人揃って高らかに叫ぶ。
「不滅だ!」
サクラ戦隊本部は久々の歓声に包まれ、組織の存続を祝った。
「守られたのか?俺たちのサクラ戦隊はまだ存続できるのか?」
ボロボロの戦士ホワイトが涙をもボロボロと流した。
「ツトム、青と黄色と…黄緑と、ちゃんと新しいクレヨンケースに入れた?」
夕食の時、ママはツトムくんに今日買ってきた3本のクレヨンの行方を確認した。
「ムグ。もちろんだよ、ママ。でもまだ白や赤や…モグモグ、オレンジ色とか、チビっちゃってる色があるから、ムググ」
ツトムくんは好物のハンバーグをモグモグ食べながら答えた。
「食べるか喋るかどっちかにしろよ、ツトムグムグ」
そういうパパも喋りながらツトムくんの名前を呼んだ。
「でも、ツトム。あのクレヨンセット、もうボロボロじゃないの。白なんかボキボキに折れて包み紙もビリビリに破れてるし。パクリ」
ママは全部買い換えてもいいのよ、と付け合わせのニンジンを口に入れながらツトムくんの顔を覗き込んだ。ママは今日ツトムくんがリクエストした3色のスペアクレヨンと大好物のハンバーグの材料を買ってきた。
「ママ、あのサクラクレパスはお祖母ちゃんにもらったやつだから大切に使うんだ。足りなくなったら入れ替えて出来るだけ長く使うよ。ングング」
ツトムくんがそう言ってご飯を口いっぱいに詰め込んだ。
そんなツトムくんが可愛くてパパはニコニコ笑った。
「モノを大事にするのはとってもいいことだ、ツトム。昨日も画用紙一杯に何か描いてたみたいだな」
「うん!後で見せてあげるね。そこにあるマスカットをおっきく描いたんだよ!」
ツトムくんの指さすところに美味しそうなイエロー・グリーンのマスカットが置いてある。
「何かねえ…不思議なのよ。一昨日の夜、耳元で『ぶどうを買ってきて。ぶどうを買ってくるといいことあるよ』って声が何回か聞こえて」
それでスーパーでフラフラと買ってきてしまったとママが言った。
ツトムくんが眼を丸くする。
「ママも?僕のところには『ぶどうの絵を描け。紫色のぶどうを頑張って描け』って」
パパが面白そうにお茶を飲み、二人の顔を交互に眺めた。
「マスカットは紫色…ではないよな、ツトム」
「だって、ママが…」
「マスカット美味しそうだったんだもん」
ママはこれだってぶどうで間違いないでしょっ、とマスカットを洗いに立った。
「でもまあ、黄緑もいつもはそんなに使わないから、頑張って一粒一粒大きく描いたよ」
ツトムくんがそれを眼で追いながら、自分のとパパの食器も重ねて台所に持っていく。
「おっ、ありがと。本当にマスカット美味しそうだな」
パパも残りの食器を台所へ運んで、洗い始めた。
片付いたテーブルの上に色鮮やかな黄緑色のマスカットが置かれた。
「グリグリ描いてたわね。黄緑色、一日で使い切るとは…パクリ、思わなかったわ」
ママが一粒口に放り込んだ。
ツトムくんは笑顔でちょっとだけ首を傾げて、それからやっぱりマスカットを頬張った。
「不思議なんだ。今日はケースから紫色のクレヨンが半分はみ出てて、黄緑色はまわりの紙がひっくり返っちゃってたんだよね。パクリ」
パパもママも『それはツトムの整頓が悪いんじゃ?』と思ったけど、口には出さなかった。
思わぬ濡れ衣だよね、ツトムくん。
読んでいただきありがとうございました。一年ぶりに童話を書いたつもりですが、童話になってるのかさえわかりません。息子や娘に捧げたいところですが、あいにく両方とも成人済みですので、孫ができたらこういう駄話で「じいじ、面白い!大好き!」って言われたいと考えながら書きました。どう思いますか。