27再会できてよかった
朝食を食べ終えた四人は一度部屋に戻ってすぐにホテルをチェックアウトした。既に宿泊代金を払っていたのか、フロントでの手続きはあっという間に終わった。
「さて、今から私たちの家に向かうんだけど」
ホテルを出た美耶はまっすぐに地下の駐車場に向かう。楓子と紅葉はおとなしく美耶たちの後ろについていく。雅琉は楓子たちを逃がさないためか、一番後ろに続いた。
「車は僕が運転する」
「当然でしょ。さあさあ、さっさと車に乗ってちょうだい。家はここから一時間くらいの場所にあるから、ちょっとしたドライブになるね」
美耶が立ち止まった先には、昨日、楓子たちが雅琉に乗せられてきた車があった。楓子と紅葉の足が止まってしまう。
（ここでこの車に乗ってしまったら最後、美耶たちに一生囚われてしまう）
楓子は家族や会社の事を考える。家族にはこの状況を説明したらよいか、会社にはどうやって退職する意を伝えたらよいか、今後の働き口はどうしたらいいか。頭には様々なことが浮かんでは消えていく。
「ねえ、美耶先輩。俺たちって、本当に一緒に住まなくちゃいけませんかね？」
先に口を開いたのは紅葉だった。紅葉が意を決して美耶に問いかける。ここで美耶の逆鱗に触れたらどうなるか。昨日の件でわかっているはずだ。それでも紅葉は自分たちの今後の人生に関わることだと思い、返事を聞かずに言葉を続ける。
「お、オレは別れてから、み、美耶先輩と今後会うことはな、ないと、お、思って、いました。あ、あんな別れたかをしたから、よ、余計に。で、でも」
「でも？」
楓子が予想した通り、美耶の機嫌が一気に急降下した。とはいえ、このチャンスを逃したらもう、逃げ出すチャンスはないかもしれない。今なら、ホテルの敷地内なので人の目もあるので、逃げたとしても自分たちに手を出すことは難しいはずだ。紅葉は美耶の冷ややかな視線に耐え切れず下を向いてしまう。それでもきっと顔をあげて自分の考えを口にする。
「こんな再会だったけど、今、せ、先輩に会えてよかった、ってお、思い、ました。おれたちはもう、み、美耶先輩から逃げることはしない」
「私たちを家に帰して」
紅葉の決意の言葉に、自然と楓子の口からも美耶の逆鱗に触れるであろう口からこぼれ出る。紅葉の真剣な態度が楓子に勇気を与えた。二人なら、乗り越えられる。そう思っての言葉だった。
「……」
「ねえさん、どうしますか？僕はねえさんの指示にしたがい」
「わかった」
『え？』
「紅葉君は、私と再会できてよかった、って思ったんでしょう？楓子もそうでしょう？ちょっと、私は急ぎ過ぎていたかもね。別に今日、何が何でも連れて行かなくちゃいけないことは無かった。うん、そうだよね？雅琉？」
「ま、まあその通りですけど」
「決まり。じゃあ、雅琉。彼女達を駅まで送って行ってよ。私はタクシー呼んで家に帰るわ」
「えっと、その、良かったの？」
あっけないほど早く、楓子たちの要求は通ってしまった。
