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26気づいたら朝

「どうしてこうなった」


 ベッドは快適だった。適度な弾力と布団の柔らかさに、極度の緊張で疲れていた楓子はベッドに入るとあっという間に眠りについていた。楓子が覚えている限り、昨日の夜、隣で一緒に寝ていたのは紅葉だったはずだ。それなのに。


「おはよう、楓子。相変わらず、寝顔は子供っぽいのね。寝癖もついているけど、それもまたかわいい」


 隣で寝ていたはずの紅葉の姿が見当たらず、その代わりに親友の美耶がベッドに腰掛けていた。ベッド端に取り付けられたデジタル時計は朝の6時を示していた。楓子は朝までぐっすりと寝ていたらしい。紅葉が同じベッドからいなくなったことにも気づかず、さらには美耶に寝顔を見られた。自分の熟睡ぶりに恥ずかしくなる。楓子は近くの布団を引き寄せて頭からかぶって顔を隠す。


「あれ、どうして俺、雅琉さんの隣で寝ているんだ?」


 隣のベッドから紅葉の声がした。どうやら紅葉も目覚めたようだ。しかし、自分の寝たはずの場所から移動していることに疑問を浮かべている。紅葉の寝相はあまりよくないが、夜夢遊病者のように徘徊することは無い。今まで楓子たち家族と一緒に生活していてそんなことは一度もなかった。


(だとしたら、考えられるのは一つ)


「僕が移動させた。悪いな。ずいぶんとぐっすり寝ていたから、許可を得なかった」

「せっかくの記念日に雅琉と一緒に寝るなんてもったいないでしょ。だから、場所を交代させてもらったの」


「なっ!どうしてそんなことを!勝手に移動させるなよ!」


 雅琉はすでに浴衣から昨日見たスーツに着替えて美耶の後ろに立っていた。美耶も改めて見るとすでに化粧を済ませ、昨日とは違うワンピースを着用していた。

 

 着替えていないのは楓子と紅葉だけだった。紅葉は昨日の浴衣姿で怒っていた。楓子もお怒りたかったがぐっとこらえて考える。


 楓子の予想は当たっていた。しかし、いくらぐっすり寝ていたとしても、他人に運ばれても目覚めないとはおかしい。いくら疲れていたとしても、他人の気配で起きそうなものだ。楓子も紅葉もぐっすりと眠っていて、美耶たちの行動に朝まで気づかなかった。


じろりと楓子が美耶を睨みつける。楓子の言いたいことを理解したのか、あっさりと美耶は白状した。


「ちょっとだけ、寝る前のお茶に睡眠薬を……」


 道理で朝までぐっすりだったはずだ。身体に異変がないか、布団から出てベッドから下りて全身を確認するが、特に怪しい点はない。再度、美耶の方に視線を向けると、首を振っている。


「何もしていないよ。ここホテルだし。今日我慢すれば、いつでも楓子には触れられるから。今日は寝顔だけ見て我慢した」


 とんでも発言だが、何もしていないのは本当らしい。どこも痛めていないし、身体に変な跡も残っていない。楓子は美耶の言葉を信じることにした。


「俺にも何もしていない、よな」

「僕は男に興味はないから、紅葉君に手を出すことはない、と思う」


 紅葉もベッドから下りて全身を確認していた。美耶と雅琉は、昨夜はベッドの移動だけに留めていたらしい。



「じゃあ、早いけど朝食は7時からにしてあるから、さっさと準備しましょう。朝食を終えたらすぐにチェックアウトして、私の家に向かいましょう!」


 パンっと手をたたいて自分に注意を向けた美耶は、明るく今後の予定を話しだす。楓子は化粧をするため洗面所に向かう。紅葉は昨日着ていたスーツを身につける。気を利かせた美耶が昨日のうちにホテル内のクリーニングを頼んでいたようだ。雅琉は部屋を出るため、ベッドを整え始める。


 準備が終わると、四人は着替えて朝食会場に向かうために部屋を出た。

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