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25ダブルベッド

「この配置はどうにかならない、ですか?」


 ホテルの部屋に戻った楓子は頭を抱えていた。部屋に入った時から気づいていたが、部屋は四人一部屋で泊まれるような設計になっていた。美耶もその予定でこの部屋を予約したのだろう。部屋にはダブルベットがふたつ置かれていた。


「どうにかって、これ以上に良いアイデアはないでしょう?私と楓子、紅葉君と雅琉。同性同士だし、これが今日の最善策だと思うけど。ああ、もしかして楓子と紅葉君って、そういう関係だ……」


『ありえません(ない)!』


 そもそも、どうして恋人同士でもないのにダブルベッドを使わなければならないのか。それなら、もっと安い部屋を二つ取って、ベッドをシングルサイズにして一人一人が快適に寝られるようにして欲しかった。楓子は現実逃避をしていた。


 親友に半ば拉致されるように連れてこられたことは忘れていない。それでも、紅葉も苦い顔で今回のベッドの配置に反対の意を示していた。初対面の男と同じベッドというのは嫌に決まっている。しかも、その相手が元カノのおとうとだったら尚更嫌だろう。入浴時に親しげに話してはいても、所詮は他人である。そう簡単に一緒のベッドで寝られる関係になれるほど親しくなれるわけがない。


「俺と姉ちゃんはそんな関係じゃないけど、今日に限っては一緒のベッドがいいかな、なんて」


「そ、そう。美耶も自分の弟と一緒の方が気楽でいいでしょ。ねえ、今日だけお互い姉弟同士で寝ることにしましょう。ああ、違う違う。こんな変なことは今日で最後だから。私たちは明日には自分の生活に戻るから」


 美耶たち姉弟と自分たち姉弟と一緒に生活することを自然と認めてしまうところだった。楓子は慌てて自分の言葉を否定する。彼女達にすっかり毒されていたが、楓子たちには楓子たちの生活がある。今日は土曜日だが、週明けの月曜日からは、楓子も紅葉もそれぞれの仕事に戻らなければならない。


 改めて自分の立場を確認する。しかし、それは反対に美耶の機嫌を損なう言葉である。案の定、美耶の顔は歪んで不機嫌になる。部屋に置かれたソファに座っていた美耶は立ち上がって楓子の前に立つ。楓子と紅葉は昼食の時に使ったテーブルの椅子に座っていた。


「戻らせない。楓子はどうして『戻りたい』なんて言うのかな?私たちはずっと一緒にいるの。そのために私はお金も家も準備したの。楓子たちを不自由な目に合わせることはない。二人は今の生活に満足しているの?していないでしょ。だったら、絶対に今の生活より、これからの私たちの生活のほうが幸せになる!」


 まくし立てるような言葉に楓子は反論できない。確かに今の生活にあまり満足はしていない。それでも美耶との生活よりも今の生活のほうがましな気がする。とはいえ、それを楓子は言葉にできずにいた。


 美耶は自分のせいでおかしくなってしまったのだろうか。いや、その前から親友は危うかったのかもしれない。それが爆発してしまっただけだろう。


「楓子さん、紅葉さん。お願いします。俺たちと一緒に生活してもらえませんか?」


 雅琉もソファから立ち上がる。興奮する美耶の腕をつかんで頭を下げさせる。雅琉もまた頭を下げて楓子に頼み込む。雅琉に腕をつかまれた美耶は少しだけ落ち着いて、一度深呼吸をした。顔をあげるとソファに戻り、楓子たちに視線を合わせる。


「今の言葉は本当だから。とりあえず、今日は姉弟同士で寝ることにしましょう」


 疲れたような口調だったが、ベッドの配置は妥協したようだ。


「わ、分かった。今日のところはありがたく泊まらせてもらいます」

「お願いします」


 これ以上、美耶たちを刺激したところでよいことは無い。楓子と紅葉はおとなしく部屋に泊まることにした。ベッドは互いの姉弟同士で使うことになった。

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