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24運動

「やっぱり、温泉は気持ちがいいねえ。楓子、その浴衣似合っているよ」

「ありがとう。美耶も、に、似合ってる」


 入浴を終えた楓子と美耶は脱衣所で服を着ていた。結局、楓子たちが入浴している間は、他の客が入ってくることはなかった。今もまだほかのお客とは遭遇していない。


 楓子たちはホテルの部屋に用意されていた浴衣を着用した。濃い桃色に桜の花があしらったもので帯は黄色だ。浴衣を着た楓子たちは洗面所のドライヤーで髪を乾かし、身なり整えた。


「じゃあ、雅琉さんは俺より年下なんですね」

「年下と言っても、紅葉君より一つ下なだけだよ」


 楓子たちが風呂から上がると、外にはすでに入浴を終えた紅葉たちが近くのソファに座っていた。何やら親しげに話し込んでいるが、裸の付き合いというやつで仲良くなったのだろうか。 楽しそうに話す二人は、まるで友達同士のように見えた。実際の関係を知ったら皆驚くだろう。


 紅葉は粗相をしていたが、雅琉が新品の下着を用意していたので借りていた。紅葉たちもまた、ホテルに備え付けられていた浴衣を着用していた。男性は紺色に白の朝顔の模様が入っていて、帯は黒だった。


「雅琉も紅葉君が気に入ったみたいね。よかった。これから一緒に過ごすのに、気に入らないなんてことがあったら嫌だもの」


「僕が楓子さんたちを嫌うはずがないでしょう?まあ、もし……」


 ねえさんを裏切ることがあったなら。


 最後の言葉は物騒で怖い表情になっていたが、すぐににこりとほほ笑んで楓子たちに視線を向ける。やはり、美耶のおとうとも普通の感性の持ち主ではなかった。どうやら、ずいぶんと美耶にご執着らしい。


「さあ、湯冷めしないうちに部屋に戻りましょう!すぐに夕食の時間になるけど、それまで部屋でゆっくりしましょう」


 美耶の言葉に楓子たちは頷き、四人はそのまま美耶達が予約した部屋に戻った。



 入浴後は、今日の物騒な出来事がうそのように穏やかな時間が続いた。夕食はホテルのレストランで予約がされていて、普段食べないような高級肉や魚の数々に楓子と紅葉は固まってしまう。席は、楓子と紅葉が隣同士で、対面に美耶と雅琉が座ることになった。


「遠慮しなくていいわ。雅琉も大学生だけど、バイトでしっかりと稼いでいるし、私も稼ぎはそこらの人よりも多い。何なら、私と雅琉だけであなたたち二人くらい養える財力はあるから」


 お金の心配だけをしているわけではない。しかし、目の前においしそうな料理が並んでいるのに、食べないのはもったいない。


「い、いただきます」

「お、俺も」


 楓子と紅葉は恐る恐るテーブルに並べられた料理に箸を伸ばす。目の前の美耶たちも同じように箸を伸ばして食事が開始した。



「き、緊張して味がわからなかった」

「俺も」


 高級ホテルの料理はかなりのボリュームがあった。残したらもったいないという精神で楓子と紅葉は無理やり料理を腹に詰め込んだ。そのため、食事を終えるころには二人のお腹はパンパンになっていた。美耶と雅琉は出された料理をぺろりと完食していた。


「じゃあ、部屋に戻って運動でもしようか?」


「運動?」 


 お腹がいっぱいになり、思考の鈍る頭に美耶の言葉が頭に響く。「運動」という言葉が言葉通りの意味に聞こえる。楓子が紅葉に理解を求めようと、美耶の言葉を反芻して視線を向ける。紅葉はとろんとした目を姉に向ける。お腹がいっぱいになって眠たくなってしまったのだろう。楓子と一緒で頭が働いていないように見える。


 紅葉の眠たそうな表情を見ていると、こちらも眠気を誘われてしまう。ここで素直に眠気に身を任せてしまえば。


 しかし、楓子がここで寝てしまえば、この後何が起こるか分かったものではない。何とか眠たくなった目を開いて、隣に座る紅葉の肩をゆする。紅葉は目を手でこすって眠気を追い払おうと努力する。


「ずいぶんと眠たそうね。そんなに眠そうなら、今夜は『夜の運動』はやめておいておいた方がよさそう。ねえ、雅琉」

「僕はねえさんの言うことに従いますよ。ねえさんがやらないというのなら」


『そうしてください!』


「何事!」


 美耶の不埒な言葉に楓子の眠気は一瞬で吹き飛んだ。楓子の大声に紅葉も目が覚めたのか、あたりをきょろきょろと見回している。


「そんなに否定しなくてもいいでしょ。どうせ、これからそんな関係になるのだし」


「いや、それは……」


 いくら何でもそんな関係にはなりたくない。そもそも、まだ四人での生活を許可したわけではない。楓子は美耶をにらみつけるが、まったく効果なく、美耶は逆に楽しそうに笑っていた。

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