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18再会

「ごめんね、こうでもしないと、楓子たちに会えないと思って」


 親友は大学の卒業式と変わらない姿で目の前に現れた。卒業式に着ていたドレスにその時と同じ髪型をしていた。そして、仲が悪くなる前と変わらない親しげな様子で話しかけてきた。まるで自分たちの間になにもなかったかのような態度に楓子は違和感を覚える。


 女性の自分に告白して、さらには弟の紅葉と付き合いだしたというのに、何も思わないのだろうか。その上、嘘の結婚式で楓子たちを自分の前に呼び出したことに罪悪感はないのだろうか。


(私たちに後ろめたいことしかないのに、どうしてそんなに平然としていられるの?)


「美耶先輩、今日のことは、しっかりと俺たちに説明してもらいますよ」


 楓子が考え事をしている間に、弟の紅葉が先に口を開いた。考え事をしている場合ではない。親友の美耶が目の前にいるのだ。疑問は直接、彼女にぶつければよい。楓子も慌てて紅葉に続いて質問する。


「紅葉の言うとおりよ。結婚式がないってどういうこと?私たちをだまして何がた」


「そんなに怒らないで。周りの人が驚いているわ」


 しかし、楓子の言葉は美耶の言葉で遮られる。つい、感情任せに大声を出してしまい、慌てて周りを見渡すが、ロビーには人がいなかったため、注目を浴びずに済んだ。


「まったく、感情的なところは大学のころから変わっていないのね。その説明をするために楓子たちをここまで呼んだの。雅琉まさる、楓子たちの送迎ありがとう」


「礼には及びません。私はこのままここにいてもよろしいでしょうか?」


「雅琉がいないと今回の件、説明しにくいでしょ。気まずいかもしれないけど、ここにいてちょうだい」

「わかりました」


 雅琉と呼ばれた、楓子達を親友のもとに連れてきた男性はそのままこの場に残るようだ。チェックインを済ませたのか、いつの間にか楓子たちの近くにいた。この男がいないと説明しにくい状況とはいったい何なのか。疑問が頭に浮かぶがそれを今から親友は説明してくれるのだろう。


「じゃあ、ここで話をするのも目立つから、部屋に行こうか。楓子達が来ると思って、部屋を取っておいたんだ」


 楓子達は顔を見合わせる。こんな高そうなホテルに部屋を取った理由がわからない。そもそも、楓子たちが結婚式場で美耶に騙されたことを知って帰ってしまう可能性もあった。それなのに、わざわざ部屋を取ったというのだろうか。


「楓子たちに会えるのは賭けだったんだけど、会えてよかった。あなたたちは本当に純真で、今までよく無事でいられたなって思うわ」


『純真……』


 思わず、楓子と紅葉の言葉がハモってしまう。そんなことを言われたのは初めてで戸惑ってしまう。しかし、今回はその純真さゆえに美耶に会うことが出来たわけだ。


 美耶は楓子たちのハモリにくすりと笑って、そのまま二人に背を向けて歩きだす。ついて来いということだろう。風子と紅葉もおとなしく美耶の後に付いていく。その後ろを雅琉が続いていく。エレベーターのボタンを押した美耶が楓子たちを振り返る。


「ここの最上階に予約を取ろうとしたんだけど、既に予約はいっぱいでね。仕方ないから、その下の階に予約したの。せっかく楓子たちに会えるのに、最高のおもてなしが出来なくて残念」


「ねえ、美耶。美耶ってどこの会社に就職したんだっけ?ここって、けっこう高そうなほて」


「お金のことを心配してくれているの?昔から楓子って優しいね。紅葉君も不安そうな顔をしないで。楓子たちもそうだけど、私も社会人になったんだから、お金のことは心配しないで大丈夫。まったく、そういう優しいところが……」


 好きすぎて、あきらめきれないの。


 最後の言葉は独り言のようで、楓子と紅葉には聞き取ることが出来なかった。雅琉だけは美耶の言葉をしっかりと聞き取れていたが、何も口にすることはなく、ただ静かに美耶を見つめるだけだった。


 エレベーターが到着するまでのしばらくの間、楓子たちは誰も話すことはなかった。

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