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11そして今に至る

「それで、私たちの卒業式で美耶が私を好きだってわかったってわけ?」


 話を聞き終えた楓子は深いため息を吐く。まさか、卒業式という短い時間で美耶が私のことを恋愛感情的な目で見ていることに気付くなんて、紅葉の観察眼に感心する。


「誰がみてもわかると思うよ。だって、美耶先輩、姉ちゃんにかなり好き好きアピールしていたから」


 思い返しても、楓子には親友がそんなそぶりをしていたという記憶はない。弟の勘違いではないかと思ったが、弟の真剣な表情に口を閉じる。


「結局、美耶先輩とは会わずに電話で別れを告げたんだけど、あまりにもアッサリとした別れ方で、俺のほうが振った側なのに驚いて……」


 弟のコイバナなど聞いていてあまり面白いものではないが、それでも弟と親友という自分の身近な相手同士なだけに興味がわいた。事情が事情だけに付き合ってすぐに別れたみたいだが。


(とはいえ、紅葉の言葉だけであっさり別れるなんてありえない)


 口には出さなかったが、楓子も美耶の反応に驚いていた。告白されて、さらには家庭の事情を知らされた今、親友が弟を手放す理由がわからない。弟を自分の代わりにされなくてほっとしたが、手放した理由がわからず不安が残る。


(いったい、何を企んでいるのだろうか)


「でもさ、別れたからさ。姉ちゃんも今後、あんまり美耶先輩と関わらないほうがいいよ。いくら親友だとは言っても、やっぱり最初の印象がやばい人は、やばい以外の人にはならないんだよ」


「大丈夫。私は春から実家を出て県外でひとり暮らしだけど、美耶も県外に就職して春から独り暮らしだから。美耶とは就職先が全然違うから、会う機会なんてないよ。私と就職した場所も全然違うし、大学からもかなり離れているし」


「ならいいけど。そういえば、引っ越しの時間は大丈夫なの?」


 美耶との話はこれで終わりのようだ。弟の言葉に慌てて楓子はリビングの壁に掛けられた時計を見ると、お昼に近い時刻となっていた。


「あら、珍しいわね。二人が一緒にソファに座っているなんて」

「楓子、部屋の片づけは済んだのか。昼ご飯食べたら、向こうに行くんだろう?」


 ちょうどよいタイミングで両親がリビングにやってきた。


「片づけは終わっているし、引っ越し先に持っていくものも、準備してあるから大丈夫。ちょっと、弟と積もる話があってね」


「そうそう、姉ちゃんが春からオレといられなくて寂しいっていうから、年上なんだから頑張れよって励ましてやってたの」


 楓子と紅葉は顔を合わせて笑いあう。先ほどまでの話は、両親には口が裂けても言えない。女性である楓子に同じ女性の親友が告白して、それで振られた親友が今度は男性である弟の紅葉に告白、そして二人が付き合い、速攻で別れた話をしていたとは言えないだろう。


 二人は笑ってごまかしたが、両親はそれを信じて楽しそうにほほ笑んでいた。


 こうして、楓子は美耶と卒業式後、一度も会うことなく社会人となり、独り暮らしが開始するのだった。

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